No Problem

2.0
No Problem
「No Problem」

 「No Entry」(2005年)、「Welcome」(2007年)、「Singh Is Kinng」(2008年)などのコメディー映画の大ヒットで、一躍ヒンディー語映画界の「新コメディーの帝王」に名乗りを上げたアニース・バズミー監督の最新コメディー映画「No Problem」が本日(2010年12月10日)より公開された。「Singh Is Kinng」はアクシャイ・クマールとカトリーナ・カイフをトップとしたシングルヒーロー&ヒロイン型映画であったが、本作は「No Entry」や「Welcome」と同様のマルチスターキャスト型映画となっており、プロデューサー兼業のアニル・カプールを筆頭に、サンジャイ・ダット、アクシャイ・カンナー、スニール・シェッティー、パレーシュ・ラーワルなど、決して小物ではない俳優たちが総出演している。ヒロインを見ると、今までコテコテの娯楽映画に出演して来なかったカンガナー・ラーナーウトが注目である。

監督:アニース・バズミー
制作:BKモーディー、アニル・カプール、ラジャト・ラワイル
音楽:プリータム、サージド・ワージド、アーナンド・ラージ・アーナンド
歌詞:シャッビール・アハマド、クマール、アーナンド・ラージ・アーナンド
振付:ボスコ・シーザー、チンニー・プラカーシュ、ヴァイバヴィー・マーチャント
出演:アニル・カプール、サンジャイ・ダット、アクシャイ・カンナー、スニール・シェッティー、パレーシュ・ラーワル、スシュミター・セーン、カンガナー・ラーナーウト、ニートゥー・チャンドラ、シャクティ・カプール、ヴィジャイ・ラーズなど
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 世界を股に掛ける窃盗団のボス、マルコス(スニール・シェッティー)は、南アフリカ共和国において、ひとつひとつが数千万ドルの価値を持つ大粒のダイヤモンドを大量に盗み出した。マルコスには複数の部下がいたが、その中でもソフィア(ニートゥー・チャンドラ)は最愛の愛人であった。マルコスの裏には実は同国の大臣がおり、マルコスはそのダイヤモンドを大臣に渡す。だが、大臣はなかなかマルコスに報酬を渡そうとしなかった。

 一方、小悪党コンビのヤシュ(サンジャイ・ダット)とラージ(アクシャイ・カンナー)は刑期を終えて娑婆に出たばかりであった。彼らは南アフリカ共和国の田舎で、インド系のジャンドゥーラール(パレーシュ・ラーワル)の家にお世話になる。ジャンドゥーラールは村に最初の銀行を開いたばかりであった。だが、ヤシュはつい手癖の悪さを発揮してしまい、銀行から村人たちの預金を盗み出し、ラージと共に逃げ出す。ジャンドゥーラールは村人たちから、ヤシュとラージの仲間だと勘違いされ、吊し上げられる。だが、ジャンドゥーラールはヤシュとラージから金を取り戻すことを約束し、解放される。ジャンドゥーラールは彼らを追ってダーバンまでやってくる。

 ダーバンでは、ドジ警官のアルジュン・スィン(アニル・カプール)がマルコスを追跡していた。だが、相変わらずのドジのおかげでアルジュンは返り討ちに遭い、体中に銃弾を受けてしまう。一命は取り留めたものの、腹部に2発の弾丸が残ってしまう。その弾丸がくすぐったりせいでアルジュンは時々意味もなく笑いがこみ上げて来るようになってしまった。ところでアルジュンの妻カージャル(スシュミター・セーン)は、警視総監(シャクティ・カプール)の娘で、アルジュンのことを英雄だと思って結婚したのだが、アルジュンのドジっぷりに幻滅し、精神分裂症となってしまった。毎日10分の発症時、アルジュンを殺そうとするのだった。アルジュンはヤシュとラージと知り合いだったが、ラージをこそ泥だと認識していた一方、ヤシュのことはソーシャルワーカーだと思っていた。

 ラージは偶然知り合った女性サンジャナー(カンガナー・ラーナーウト)に恋してしまう。ラージとサンジャナーは結婚することになるが、実はサンジャナーはカージャルの妹で、警視総監の娘であった。アルジュンにばれそうになるが、ラージはアルジュンの弱みを握っており、何とかごまかすことが出来た。ただ、間の悪いことに、その場にジャンドゥーラールが現れてしまう。しかしジャンドゥーラールも頭の回転が速い男であった。ジャンドゥーラールは二人の叔父ということになった。

 ヤシュとラージは盗み出した金を全て使い果たしてしまっていた。ジャンドゥーラールに盗んだ金を返すため、大臣の家を泥棒することに決める。ジャンドゥーラールがその指揮を執ることになった。ところが同じ頃、一旦はアルジュンに逮捕され投獄されていたマルコスは脱獄し、大臣の家に盗みに入っていた。マルコスは大臣を殺し、ダイヤモンドを取り返そうとするが、金庫は既にヤシュ、ラージ、ジャンドゥーラールによって破られた後だった。また、マルコスの部下が誤って大臣を殺してしまう。

 金庫に設置されていた防犯カメラにはヤシュ、ラージ、ジャンドゥーラールの姿がバッチリ写っていた。ラージとサンジャナーの結婚式でそれが発覚してしまい、三人は大臣殺害の容疑で逮捕される。ところが、大臣の家から盗み出されたダイヤモンドを探すマルコスが警察署から三人を誘拐する。マルコスに聞かれて初めて三人は大臣の金庫にダイヤモンドがあったことを知る。彼らが盗み出したものに中にはダイヤモンドはなかった。ではどこに?三人は殺されそうになるが、間一髪助かり、逃亡に成功する。

 その頃、サンジャナーが別の男と結婚させられそうになっていた。それを知ったラージは結婚式場に乗り込み、混乱の末にサンジャナーを連れて逃げ出す。彼らは再びマルコスの一味に捕まってしまうが、またも間一髪逃げ出すことに成功した。

 実はダイヤモンドはヤシュが持っていたことが分かる。マルコスは、大臣を殺したのはヤシュ、ラージ、ジャンドゥーラールの三人ではないという証拠のビデオを持っていたため、ラージとジャンドゥーラールはヤシュを捕縛し、そのダイヤモンドを持ってマルコスのところへ行く。ところが彼らが持って行ったのはダイヤモンドは半分のみだった。残りの半分はまだヤシュが持っていた。ラージとジャンドゥーラールは捕まってしまう。

 ヤシュはマルコスのアジトに侵入するが、ラージとジャンドゥーラールを助ける代わりにソフィアを誘拐して行ってしまう。ヤシュが持つ半分のダイヤモンドと、マルコスが持つもう半分のダイヤモンド、そして証拠ビデオとソフィアを巡り、ディスコで一同が会することになった。そこにはマルコスを捕まえようとするアルジュン、警視総監、ヤシュ、ラージ、ジャンドゥーラールらがスィク教徒の格好をして来ており、カージャル、サンジャナー、マルコス、ソフィアもいた。だが、トラブルメーカーの自殺志願者(ヴィジャイ・ラーズ)が現れ、会場の皆と共に死のうとしたため、大混乱が起きる。しかも、以前森林でヤシュとラージに助けられたゴリラが乱入する。その混乱の中でダイヤモンドは水槽の魚たちが食べてしまい、そのまま海に逃げて行ってしまった。

 後日談。ジャンドゥーラールは再び村で銀行を開いた。ヤシュとラージは漁業会社を開き、魚釣りに明け暮れていた。アルジュンはもう一度訓練し直しとなった。マルコスの一味は逮捕されてしまった。そしてソフィアはゴリラに気に入られ、そのまま行方不明となる。

 ヒンディー語映画界で「コメディーの帝王」と呼ばれているのは、伝統的にはプリヤダルシャンやデーヴィッド・ダワンなどだが、最近はローヒト・シェッティーやこのアニース・バズミーが現れ、賑やかになっている。「Golmaal」シリーズで知られるローヒト・シェッティー監督は、ド派手なアクションと馬鹿馬鹿しいコメディーをミックスさせた娯楽映画を突き詰めており、独自の路線を築きつつある。アニース・バズミー監督についても、彼の「Singh Is Kinng」は個人的に大好きな映画であり、有望なコメディー映画監督だと評価していた。だが、この「No Problem」を見て、アニース・バズミー監督の才能に限界を感じ始めた。「No Problem」の出来は、「Welcome」以前のレベルに逆戻りしてしまった印象を受けるほど未熟で煩雑なものだった。「No Problem」の脚本もアニース・バズミー監督自身が手がけているようだが、その点からも彼の力不足を感じずにはいられない。

 確かに笑えるシーンはいくつかある。だが、コントとコメディー映画は違う。たとえいくつかのシーンで観客を笑わせることが出来たとしても、コメディー映画はコントの寄せ集めではいけない。ちゃんと筋の通ったストーリーとキャラクター設定が必要になる。それがあって初めて映画を見終わった後に観客は総合的な快感を得ることが出来る。それが出来ていないコメディー映画がヒンディー語映画界に多いのだが、この「No Problem」もその問題を抱えていた。ストーリーの整合性は二の次で、幼稚な構成力によって物語を取って付けて作り上げたような映画であった。

 1点だけストーリーの欠点を取り上げておこう。それはダイヤモンドの在処についてである。物語の冒頭でマルコスが盗み出したダイヤモンドは間違いなくこの物語の中心的アイテムである。悪徳大臣がダイヤモンドを受け取り、大臣の家に泥棒に入ったヤシュ、ラージ、ジャンドゥーラールの三人が金庫から一切合切を盗み出したまではいいが、その後ダイヤモンドは一時的に行方不明になり、観客にもダイヤモンドがどこにあるか誰が持っているのか分からなくなる。だが、終盤になって突然、ヤシュが隠し持っていたことが発覚する。この展開は全くつまらない筋書きであり、もっと工夫すべきだった。そうするにしても、ちゃんと伏線を張っておくべきであった。その癖、ゴリラの存在やアルジュン・スィンの腹部に残った2発の弾丸など、あまり意味のない伏線が張ってあり、ストーリーの煩雑さを助長していた。

 安易な海外ロケ、海外舞台のインド映画にも賛成できない。「No Problem」では南アフリカ共和国のダーバンが主な舞台になっていたが、登場人物のほとんどはインド人、彼らが関わる人物のほとんども偶然インド人で、わざわざ海外を舞台にする必要性を感じなかった。

 何人かの俳優の演技や存在そのものにも疑問が残った。まずはカンガナー・ラーナーウト。今までシリアスな役を演じ、演技力を高く評価されて来た彼女は、今回キャリアの中で初めてコメディーに挑戦した。新天地を開拓したかったのだろうが、残念ながらそれは失敗に終わったと言っていいだろう。全くコメディーになっていなかったばかりか、髪型やメイクアップが最悪で、美しく見えなかった。スシュミター・セーンも、毎日10分発狂して夫を殺そうとするという変な役を演じ、今まで積み上げたキャリアを台無しにしていた。ミスコン出身女優の中ではもっとも芯のある演技をする女優なのだが、「No Problem」の中の彼女からは全くオーラを感じなかった。彼女たちに比べたら格の落ちるニートゥー・チャンドラも決して褒められた役と演技と存在感ではなかった。

 主役級と言えるアニル・カプール、サンジャイ・ダット、アクシャイ・カンナー、スニール・シェッティー、パレーシュ・ラーワルの五人は、皆コミックロールにも定評のある俳優たちで、悪くはなかった。ただ、このようなマルチスターキャストのコメディー映画にわざわざ出る必要があったのか、ということは感じる。パレーシュ・ラーワルは別にして、通常このような主人公が複数いる映画にはもう少し下のレベルの俳優が出演するものだ。

 音楽はプリータムを中心に、サージド・ワージドやアーナンド・ラージ・アーナンドなども参加している。コメディー映画らしい明るい雰囲気の曲が多く、特にバングラナンバー「Mast Punjabi」はノリノリのダンスナンバーだ。「Shakira」という映画では、FIFAワールドカップ南アフリカ大会のテーマ曲「Waka Waka (This Time for Africa)」で有名になったコロンビアのシンガー、シャキーラを招聘しようとしたようだが、失敗に終わったようだ。

 「No Problem」は、いくつか笑えるシーンがあるものの、映画としての完成度は低い。その限られたお笑いシーンのために3時間を無駄にする必要もないだろう。今年の話題作の一本であったが、期待外れであった。興行的にも成功する見込みは少なそうだ。


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