Band Baaja Baaraat

4.5
Band Baaja Baaraat
「Band Baaja Baaraat」

 ヒンディー語映画界最大の映画コングロマリット、ヤシュラージ・フィルムスは、毎年様々な規模とジャンルの映画をコンスタントに量産している。一時期はヤシュラージ・フィルムス制作の映画から工場生産製品のような味気のなさを感じていたのだが、最近はインド映画の定番を守りながらも時代に合った良作を送り出しており、目を離せないプロダクションとなっている。そんなヤシュラージ・フィルムスの新作が2010年12月10日に公開された。「Band Baaja Baaraat」である。2年前に傑作ロマンス映画「Rab Ne Bana Di Jodi」(2008年)でデビューしたアヌシュカー・シャルマーがヒロインで、ヒーローは無名の新人ランヴィール・スィン。監督は「Rab Ne Bana Di Jodi」などのヤシュラージ・フィルムス映画で助監督を務めて来たマニーシュ・シャルマーで、やはり新人。脇役にも有名な俳優はいない。スターパワーに欠ける映画ではあるが、評価は上々で、見逃せない映画だと判断し、鑑賞することにした。

監督:マニーシュ・シャルマー(新人)
制作:アーディティヤ・チョープラー
音楽:サリーム・スライマーン
歌詞:アミターブ・バッターチャーリヤ
振付:ヴァイバヴィー・マーチャント
衣装:ニハーリカー・カーン
出演:ランヴィール・スィン(新人)、アヌシュカー・シャルマー、マンミート・スィン、マニーシュ・チャウダリー、ニーラジ・スードなど
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 ビットゥー・シャルマー(ランヴィール・スィン)はウッタル・プラデーシュ州サハラーンプルのサトウキビ農家出身で、デリー大学キローリーマル・カレッジを卒業したばかりだった。卒業後に村に帰ってサトウキビ農家を継ぐのが嫌で、デリーに留まる口実を探していた。そんなときに出会ったのがシュルティー・カッカル(アヌシュカー・シャルマー)であった。西デリーはジャナクプリー出身のシュルティーは、インドで一番のウェディングプランナーになることを夢見ており、「シャーディー・ムバーラク(結婚おめでとう)」という会社を立ち上げようとしていた。ビットゥーは無理矢理シュルティーのビジネスパートナーとなって、ウェディングプランナーの仕事を始める。ただし、ビットゥーは「ビジネスに恋愛はなし」というシュルティーの鉄則を守ることを誓わされた。二人は花屋のマクスード・バーイー(ニーラジ・スード)やダーバー(食堂)経営のラジンダル(マンミート・スィン)などと提携し、組織を固める。

 まずはジャナクプリー界隈の中産階級を相手にビジネスを始めたシャーディー・ムバーラクは、瞬く間に成功を収める。だが、ビジネス規模はラーク(10万ルピー)の単位に留まっていた。次のターゲットはサイニク・ファームの上流階級層、カロール(1千万ルピー)単位のビジネスだった。ビットゥーとシュルティーは、かつて師事した敏腕ウェディングプランナーの顧客を横取りする形でカロールの仕事を獲得し、それを成功させる。成功に酔ったビットゥーとシュルティーはその晩初めてキスをし、ベッドを共にする。

 仕事に喜びを感じ始めていたビットゥーは、一線を越えてしまったために、シュルティーが鉄則を破って自分に恋してしまったのではないかと恐れる。シュルティーは確かにビットゥーに恋していた。だが、ビットゥーの態度が変化したことでシュルティーはいぶかしがり、彼に「あの日のことはただの間違いで何でもなかった」と言う。安心したビットゥーは再び以前のように戻る。だが、本当はビットゥーに恋していたシュルティーは、そのときからビットゥーにつらく当たるようになる。

 やがて二人の仲は修復不可能になってしまった。ビットゥーはシュルティーと決別し、自分の会社「ハッピー・ウェディング」を立ち上げる。だが、ビットゥーの抜けたシャーディー・ムバーラクも、ビットゥーが一人で切り盛りするハッピー・ウェディングも、うまく行かず、借金を抱えることになる。

 そのとき、ビットゥーとシュルティーはラージャスターン州でリゾートホテルチェーンを経営するスィッドワーニー(マニーシュ・チャウドリー)に呼び出される。スィッドワーニーは、娘の強い要望により、シャーディー・ムバーラクに娘の結婚式のプラニングを依頼しようとしていた。1週間に渡る超豪華結婚式で、その報酬も半端ではなかった。ただし、ビットゥーとシュルティーの二人がいるシャーディー・ムバーラクでないと発注しないという条件付きだった。最初は断ったビットゥーとシュルティーであったが、マクスード・バーイーの仲介もあり、1回だけ再び一緒に仕事をすることになる。

 結婚式を準備する中で、ビットゥーはやはりシュルティーとのパートナーシップがなければうまく行かないと考え、コンビ解消撤回を提案する。だが、シュルティーはそれを拒否する。その理由としてシュルティーは、ドバイ在住インド人チェータンとの縁談が決まり、ドバイへ移住する予定であることを明かす。ビットゥーは、彼に恋したシュルティーが彼を罰するためにそのようなことをしているのだと主張し、シュルティーもビットゥーに恋してしまったことを認めるが、自分の決断を翻そうとはしなかった。ビットゥーはチェータンの携帯電話番号を盗み出して彼に電話を掛け、シュルティーへの想いを伝える。チェータンから連絡を受けたシュルティーはビットゥーを問い詰める。そのとき初めてビットゥーはシュルティーに自分の恋心を明かす。こうして二人は晴れて恋人同士となった。

 インドの派手な結婚式の舞台裏を舞台としながら、恋愛から仕事へと向かう男性と、仕事から恋愛へと向かう女性のロマンスを描いた佳作ロマンス映画だと感じた。ほぼ全編通してデリーが舞台となっており、デリーの空気がスクリーン上によく再現されている上に、実在の地名なども出て来るため、デリー在住だとさらに楽しめる映画となっている。主演の若手二人の演技も非常にリアルであった。

 主人公のビットゥーは、ご馳走にありつくために忍び込んだ結婚式場で出会ったシュルティーに軽い恋心を抱き、口説き始める。大学生活も終わり、デリーに留まる理由を見つけなければ父親に村に連行されてしまうことになり、ビットゥーはシュルティーが立ち上げたウェディングプラン会社「シャーディー・ムバーラク」に乗っかることにする。その際、シュルティーはひとつの鉄則を彼に突きつける。それは、「ビジネスに恋愛はなし」であった。恋愛よりも仕事を必要としていたビットゥーはそれを飲み、以後ウェディングプランナーの仕事に打ち込むことになる。

 仕事が軌道に乗ると、ビットゥーはますます仕事に打ち込むようになる。一方、仕事と恋愛を混ぜることを禁止していたシュルティーは、次第にビットゥーに理想の男性像を見出すようになって行く。そして大仕事が終わった夜、シュルティーはビットゥーにキスと身体を許す。ビットゥーは戸惑いながらも彼女にキスをし、抱く。だが、その後ビットゥーは以前のようにシュルティーと仕事が出来なくなることを恐れる。既にビットゥーは恋愛よりも仕事、シュルティーよりもシャーディー・ムバーラクのことを優先して考えていた。一方、シュルティーはビットゥーとの結婚を考え始めていた。しかし、ビットゥーにその気がないことを知ると、シュルティーはビットゥーに冷たく当たるようになり、やがて2人はパートナーシップ解消してしまう。

 このように、仕事を共有する男と女の心情の変化をとてもよく捉えていた。ワンパターンと言えばワンパターンではあるが、ビットゥーがシュルティーに初めてキスをするシーンなどは長回しでじっくりと撮影されており、非常に丁寧に作ってあった。ただ、パートナーシップ解消後の展開は安易過ぎて予定調和の批判は免れないだろう。

 映画はデリーが舞台で、デリーの人、風景、文化などがよく取り込まれていた。ビットゥーが通うキローリーマル・カレッジは実在のカレッジであるし、シュルティーが住むジャナクプリーは、デリーの中でもパンジャービー人口の多い地域だ。カッカルという名字からはシュルティーがパンジャービーであることが分かるし、ビットゥーはウッタル・プラデーシュ州サハラーンプルの農村出身であることが劇中で何度も言及される。サハラーンプルではサトウキビ栽培が盛んで、ビットゥーの家もサトウキビ農家である。サハラーンプルからデリーにやって来たビットゥーからはサハラーンプル方言が抜け切らず、デリー育ちのシュルティーはハリヤーンヴィー(ハリヤーナー州の方言)の影響の強いヒングリッシュ(ヒンディー語と英語のミックス)を話す。劇中の風景にはカロールバーグ近くの巨大ハヌマーン像、キローリーマル・カレッジ、インド門、フマーユーン廟近くにあるサブズブルジなどが映っていたし、デリー・メトロやローフロアバスなども出て来た。結婚式シーンでもデリーによくある結婚式が再現されており、リアルだった。このように、デリーを舞台とした映画の中でも特にデリーの心によく迫った映画になっていた。

 「Band Baaja Baaraat」はまずアヌシュカー・シャルマーの実力が計られる映画となっていたと言える。「Rab Ne Bana Di Jodi」でデビューしたアヌシュカーは、「Badmaash Company」(2010年)に出演し、これが3作目となる。大ヒット作となった「Rab Ne Bana Di Jodi」ではシャールク・カーンと共演だったし、「Badmaash Company」ではシャーヒド・カプールがいたため、彼女の実力は正確には計れなかった。だが、「Band Baaja Baaraat」ではアヌシュカー以上の知名度を誇る俳優が他におらず、映画の成否はまずアヌシュカーの実力に依存することになる。デビュー3作目にしてはかなりの重責であったが、アヌシュカーは溌剌とした演技でそんな不安を吹っ飛ばしてくれた。いかにも典型的な現代デリーガールといった感じの素晴らしい演技だった。表情も豊かだし、台詞回しも申し分ない。ダンスも腕を上げていた。さらにキスシーンやベッドシーンにも果敢に挑戦している。ただ、彼女はデビュー時にヤシュラージ・フィルムスと3作出演契約を結んでいたようである。よって、「Band Baaja Baaraat」をもって彼女はその軛から解放されることとなる。その3作目でキスシーンとベッドシーンを演じたのは、ヤシュラージ・フィルムスに演じさせられたと表現した方がもしかして適切かもしれない。それでもストーリー上必要なシーンであったし、女優魂を見せてくれた。

 新人のランヴィール・スィンも非常に良かった。今回はロマンス映画であったために多少軟弱な役を演じていたが、アクション映画も難なく演じられそうな肉体をしており、今後が楽しみだ。映画界やモデル界に全くコネを持っていない状態で俳優を目指し、オーディションに合格したというシンデレラボーイであり、プロデューサーのアーディティヤ・チョープラーが抜擢しただけの潜在能力を感じた。とても自然な演技をしていたし、ダンスにも光るものがあった。

 音楽はサリーム・スライマーン。ストーリーに密着した挿入歌が多く、ストーリーの要請上、結婚式の和気藹々とした雰囲気に合った音楽がほとんどである。「Ainvayi Ainvayi」や「Baari Barsi」などはそのまま結婚式で使えそうな曲だ。デリーのパンジャーブ文化を反映し、パンジャービー語歌詞の曲も多い。

 言語は主にヒンディー語であるが、ビットゥーもシュルティーも典型的な若者言葉を多用しながらも、それぞれの人物設定に即したしゃべり方をする。ビットゥーはウッタル・プラデーシュ州北西部の方言が強いし、シュルティーの話し方はデリー在住中産階級パンジャービーの女の子そのものである。よって、聴き取りは困難な部類に入る。また、デリーで流行している若者言葉をピックアップするにはとてもいい映画だ。

 「Band Baaja Baaraat」は、スターパワーの派手さに欠けるものの、主演の若手二人の好演もあって、よくまとまった傑作ロマンス映画となっている。結婚式はインド映画の定番だが、その定番の舞台裏を舞台にしたことも目新しくて面白い。インド人が結婚式にいくら費やしているのかも垣間見ることが出来る。同時公開の「No Problem」よりも断然いい。観て損はない。