Rakht Charitra 2

4.0

 ハリウッドでは、「スター・ウォーズ」や「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズなどに代表されるように、当初から数部作の予定で映画が作られることは稀ではない。だが、ヒンディー語映画界ではヒット作の続編制作ですら近年になって始まったばかりのトレンドであり、当初から数部作構成の映画に至っては作られて来なかった。よって、ラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督の「Rakht Charitra」はインド初、2部作構成の映画ということになる。第1部「Rakht Charitra」(2010年)は2010年10月22日に公開された。そして、2010年12月3日に第2部「Rakht Charitra 2」が公開された。第1部ではヴィヴェーク・オーベローイ演じるプラタープ・ラヴィが主人公であったが、第2部では主人公はスーリヤ演じるスーリヤに入れ替わり、復讐に次ぐ復讐が別の視点から描かれることになる。

監督:ラーム・ゴーパール・ヴァルマー
制作:マドゥ・マンテーナー、シータル・ヴィノード・タルワール、チンナ・ヴァースデーヴァ・レッディー、ラージクマール
音楽:スクヴィンダル・スィン、イムラーン・ヴィクラム、ダラム・サンディープ、バッピー・トゥトゥル
歌詞:ループ、シャッビール・アハマド、ヴァーユ、アビシェーク・チャタルジー、サリーム・モーミン
出演:シャトゥルガン・スィナー、ヴィヴェーク・オーベローイ、スーリヤ、プリヤマニ、ラーディカー・アプテー、ザリーナー・ワヒーブ、スディープ、イザーズ・カーンなど
備考:DTスター・ヴァサントクンジで鑑賞。

 暴力が支配するアーナンドプル。反政府ゲリラから州政府与党政治家へと転身し、地元で向かうところ敵なしとなったプラタープ・ラヴィ(ヴィヴェーク・オーベローイ)であったが、あるとき彼の爆殺未遂事件が発生した。プラタープがその犯人捜しを命じたところ、首謀者として名前が挙がったのがスーリヤ(スーリヤ)であった。スーリヤはプラタープに暗殺された大物政治家ナラスィンハデーヴ・レッディーの長男であったが、アーナンドプルで繰り広げられる血で血を洗う政治闘争に嫌気が差し、バンガロールで請負建築業者として身を立てていた。ところが、たまたま恋人のバヴァーニー(プリヤマニ)と帰郷していたときに目の前で母親、弟、妹をTV爆弾を爆殺されてしまう。プラタープの仕業だと考えたスーリヤは、以後プラタープへの復讐のために生きることとなったのだった。

 スーリヤはプラタープの追っ手から逃れるために地下に潜ったが、モーハン・プラサード警視副総監(スディープ)はバヴァーニーと子供を誘拐し、スーリヤに自首を勧める。スーリヤも、監獄の中に入った方が安全だと考え、次のプラタープ暗殺の機会を待つために自首する。監獄の中にもプラタープの刺客が襲いかかるが、スーリヤはそれを返り討ちにする。プラタープはスーリヤに会いに行き、復讐のサイクルを止めようとするが、スーリヤはプラタープへの憎悪をさらに燃やすこととなった。

 折しも選挙が近づいていた。プラタープは、元映画スター、シヴァージーラーオ(シャトゥルガン・スィナー)が立ち上げた民国党(PDP)の重鎮であったが、民国党もプラタープ自身も、次期選挙での旗色は悪かった。とある全国政党(≒国民会議派)の秘書クリシュナは監獄に収監されたスーリヤと会い、妻のバヴァーニーをアーナンドプル選挙区の立候補者として擁立することを提案する。スーリヤもその計画に乗り、バヴァーニーを説得する。立候補したバヴァーニーはたちまち民衆の支持を集めることになる。

 敗色濃厚となったプラタープはバヴァーニーの暗殺を指示する。だが、それを聞いていた妻のナンディニー(ラーディカー・アプテー)に制止され、ギリギリのところで暗殺を制止する。しかし、暗殺者として送り込まれていたプラタープの片腕は、監獄でスーリヤに同情した暗殺者ムッドゥー(イザーズ・カーン)によって既に殺されていた。プラタープがバヴァーニーをも暗殺しようとしたことを聞いてスーリヤは激昂し、プラタープ暗殺を再び計画する。

 スーリヤは、ムッドゥーらと共にプラタープの選挙集会に潜入し、プラタープを暗殺する。そしてスーリヤは即座に監獄に戻り、アリバイを作る。ムッドゥーが代わりに実行犯として名乗り出たため、世間はそれを信じた。だが、ナンディニーが身ごもっていた子供に再び復讐の兆しが見えていた・・・。

 2時間半ほどの映画であるが、最初の30分は前回までのあらすじとなっており、第1部「Rakht Charitra」のダイジェストが流れる。よって、第1部を見ていない人でもある程度流れを掴むことが出来るが、それでもやはり「Rakht Charitra」を観ないことには「Rakht Charitra 2」も楽しめないだろう。

 この2部構成の映画でラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督が伝えたかったのは、復讐による解決は新たな憎悪と復讐を呼ぶだけで何の解決にもならないということであろう。監督のメッセージは明確に映画の最後において文章で提示されていたが、それがなくてもそのメッセージは十分に伝わったと思う。第1部では、父親と兄を殺されたプラタープが、レッディー一家への復讐に乗り出し、やがて政治家に転身して権力を手にするまでが描かれる。そして第2部では、レッディー一家の中で暗殺を免れたスーリヤが、プラタープへの復讐に乗り出す。スーリヤもまた、武力による闘争から、妻バヴァーニーを介してであるが、政治による闘争へと転身し、プラタープと同じ道を歩み出そうとしていた。プラタープが暗殺された後、スーリヤに「プラタープと同じになるな」と警告を与えるのがスディープ演じるモーハン・プラサード警視副総監である。モーハンは第一部にも一瞬だけ登場するが、第2部でより重要なスートラダール(語り手)としての役割を果たす。第1部はナレーションがうるさい印象があったが、第2部はモーハンの存在によってより引き締まったストーリーとなっていた。だが、果たしてスーリヤはこの後プラタープにならずに済んだのだろうか?復讐のサイクルはこれで終わったのだろうか?映画は明言を避けているものの、復讐はまだ終わらないことを暗示していた。プラタープの死後に生まれた子供の顔が最後に映し出されるが、その無邪気な顔には既に復讐の運命が刻まれていた。

 ところで、映画ではひとつの謎が残される。スーリヤが母親、弟、妹を一度に失うことになったテレビ爆弾爆発事件の首謀者は誰かということである。スーリヤはプラタープの仕業だと思い込んでおり、それが第2部の復讐劇の原動力となっている。だが、プラタープ暗殺後にモーハンは監獄までスーリヤに会いに行き、テレビ爆弾爆発事件の首謀者はプラタープではない可能性があることを伝える。スーリヤは簡単にはそれを信じないが、わざわざエンディングで言及されるということは、もしかしたらこれはプラタープの子供と同様に第3部への伏線なのかもしれない。ちなみに、このテレビ爆弾に使われたテレビのメーカーはパナソニックである。パナソニックとしては寝耳に水のパブリシティーになってしまった。しかしインドではソニー製テレビの人気が根強く、敢えてソニーのテレビにしなかったことに多少疑問を感じる。

 ラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督の映画の特徴である凝ったカメラワークは、第1部に続いて第2部でも健在であった。ただ、緊迫感を出すためにスローモーションを使用したシーンが多かったが、多用し過ぎて逆に冗長な印象を観客に与えてしまっていたかもしれない。前作に引き続いてグロテスクな暴力シーンも多かった。しかし、重厚なドラマとしてのグリップ力は失われておらず、スクリーンにぐいぐい引きつけられる展開が続いた。

 ヴィヴェーク・オーベローイとスーリヤの熱演も光った。第1部ではアビマンニュ・スィン演じるブッカー・レッディーが際立っていたが、スーリヤも負けないぐらい迫力ある演技をしていた。タミル語映画界の人気男優スーリヤにとっては本作が本格的なヒンディー語映画デビューとなる。南インド臭さが抜けていないが、ひとつヒンディー後映画界に足がかりを築けたと言えるだろう。近年冴えていなかったヴィヴェーク・オーベローイもこの「Rakht Charitra」2部作によってかなりのイメージアップとなったことだろう。彼のキャリアの第2章が始まることを熱望する。

 前作でははっきりと明示されていなかったが、今回は党のシンボルなどからかなり分かりやすく国民会議派がモデルとなっていると思われる政党が登場し、物語に絡んで来る。実在の国民会議派政治家を思わせる人物が登場することはなく、秘書クリシュナを通して国民会議派の政略が実行に移される。だが、クリシュナは「大木が倒れたとき、周辺の地面は揺れる」という台詞をしゃべっている。これは、インディラー・ガーンディー首相暗殺時に息子のラージーヴ・ガーンディーが言った言葉そのままで、第2部に出て来る選挙は、ラージーヴ・ガーンディーが母の後を継いで首相となり、下院を解散した後の選挙をイメージしていることが予想された。

 「Rakht Charitra 2」は、インド初2部構成の映画の第2部であり、ラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督らしい暴力と権力のドラマ映画である。冒頭で長々と前回までのあらすじが語られるものの、やはり順当に第1部を観てから第2部を観るべきだ。ラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督の作風が好きならば必見の2部作と言えるだろう。