Phoonk 2

2.0

 ラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督は、ヒンディー語映画界においてホラー映画というジャンルの草分け的存在であると同時に、コンスタントに様々な形のホラー映画を作り続けて来ており、このジャンルの発展にも寄与している。だが、彼のホラー映画では恐ろしい映像と音楽を多用して観客を怖がらせるという原始的な手法を脱却できておらず、「リング」(1998年)などでホラー映画の極みを体験した日本人の目にはどうしても幼稚に映ってしまう。しかしながら、インドの映画館でホラー映画を鑑賞すると、観客のホラー映画の楽しみ方は日本とかなり異なることに気付く。インドでは親しい友人などと連れだって映画館へ行くのが普通であり、ホラー映画も仲間内でワイワイガヤガヤと楽しむものとなっている。背筋が凍るような恐怖を期待してホラー映画を観るのではなく、恐怖シーンを笑い飛ばすために観ている。その視点がなければインドのホラー映画を正当に評価することはできないだろう。

 2008年にラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督は「Phoonk」というホラー映画を送り出した。この映画の興行成績は上々だったようで、続編「Phoonk 2」が作られることになった。しかし、今回の監督は、前作で脚本を担当したミリンド・ガダグカルになっている。ミリンド・ガダグカルは、ヴァルマー監督の意図が大きく反映された前作のストーリーに満足していなかったらしい。自分で続編の脚本を書いてヴァルマー監督に直訴し、監督を任されたとのことである。2010年4月16日に公開された。

 「Phoonk 2」は前作とストーリー上のつながりがあり、キャストもほぼ一緒である。唯一、主人公一家の長男ローシャンを演じる子役男優だけは変更となっている。前作で一家に呪いを掛け、呪術師マンジャーに殺されたマドゥが、亡霊となってまた一家を襲うというストーリーになっている。

監督:ミリンド・ガダグカル(新人)
制作:プラシャーント・バッラー、Pチャンドラシェーカル
音楽:ダルマ&スディープ
衣装:アナーヒター・イーラーニー
出演:スディープ、アムルター・カーンヴィルカル、エヘサーン・チャンナー、リシャブ・ジャイン、アヌ・アンサーリー、アシュヴィニー・カルセーカル、ニールー・バージワー、アミト・サード、ガネーシュ・ヤーダヴ、ザーキル・フサイン、ヴィカース・シュリーワースタヴ、ラーケーシュ・ラージ、チャヤン・トリヴェーディー、ジーヴァ
備考:サティヤム・シネプレックス・ネループレイスで鑑賞。

 建築技師ラージーヴ(スディープ)は、仕事の関係で、妻アールティー(アムルター・カーンヴィルカル)、長女ラクシャー(エヘサース・チャンナー)、長男ローシャン(リシャブ・ジャイン)、そしてメイドのラクシュミー(アヌ・アンサーリー)と共に、海辺のバンガローに引っ越して来た。また、ラージーヴの妹アールシ(ニールー・バージワー)とその夫ロニー(アミト・サード)も遊びにやって来て、しばらく滞在することになった。

 バンガローの裏には森林があった。ラクシャーはその森林で人形を拾い、家に持ち帰る。すると、次第に奇妙な現象が家族を襲うようになった。その中でアールティーは、マドゥ(アシュヴィニー・カルセーカル)の亡霊に取り憑かれてしまった。ラージーヴは、呪術師マンジャー(ザーキル・フサイン)を呼ぼうとするが、既にマドゥの亡霊に惨殺された後であった。ラージーヴの友人のヴィナイ(ガネーシュ・ヤーダヴ)は別の呪術師(ジーヴァ)を探し当てるが、ヴィナイも呪術師もマドゥの呪術によって殺されてしまう。

 アールティーに取り憑いたマドゥは一家を襲い始める。手始めに警備員兼庭師のバールー(ヴィカース・シュリーワースタヴ)が殺され、メイドのラクシュミー、ラージーヴの妹アールシなどが餌食となる。そしてマドゥは遂に最終的な目標であるラクシャーを殺そうとする。ラージーヴはマドゥの圧倒的な力によって満身創痍になりながらもラクシャーを救うが、アールティーは死んでしまう。

 おそらくミリンド・ガダグカル監督が「Phoonk 2」で表現したかったのは、前作にはなかった「どうしようもなさ感」であろう。前作では、黒魔術を使って呪いを掛けて来たマドゥに対し、主人公側にはマンジャーという呪術師がおり、そのおかげで「何とかなるだろう」という安心感が観客の心のどこかに常にあった。しかし本作では、早い段階でマンジャーが惨殺され、代わりに登場した呪術師もあっけなく殺されてしまう。そうなって来ると、もはや助けてくれる人はいないのである。終盤を支配するこの絶体絶命のピンチ感が映画の最大の見所であった。

 ラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督の映画特有の凝ったカメラアングルも健在であった。特に今回は亡霊視点のカメラアングルがいくつかあった。自分が亡霊になったかのような錯覚に陥り、それが恐怖を演出していた。

 しかし、亡霊マドゥの行動に一貫性や論理性がなかったのが仇となった。映画中、不気味な人形が出て来るが、それがマドゥの何なのか、結局よく分からなかった。人形を家に持ち込んだから異常現象が始まったのか、それとも全てマドゥによって仕組まれたもので、人形とは関係なく一家の命は危険にさらされたものだったのか、不明である。前作では長女ラクシャーを狙ったマドゥが、今回は誰を狙っているのかも不透明だった。一応やはり最終目標はラクシャーで、マドゥは「ただ殺すだけではなく、恐怖のどん底に突き落としてから殺す」と宣言するのだが、ラクシャーとは関係ない人々も殺されているし、どちらかというとラージーヴを精神的に追い詰めていて、一貫性に欠けた。クライマックスの恐怖シーンは、舞台となるバンガローの地理感覚がよく分からないために、どこで何が起こっていてどう逃げればどこへ行き着くのか、などと言ったことが分からなくなっていたし、包丁を何度も腹部に突き刺されたラージーヴがなかなか死なないのもご都合主義に思われた。マドゥに憑依された妻が最後に死んでしまうというのも、嫌なエンディングであった。

 何の救いもないという崖っぷちの恐怖は目新しかったかもしれないが、技術的には今までのインド製ホラー映画と大して変わっていない。しかし、ヴァルマー監督のキャンプを中心に、ヒンディー語映画界の中でより怖いホラー映画を作るための試行錯誤が重ねられていることは好意的に受け止められる。インドのホラー映画ジャンルはまだまだ発展途上ではあるが、ヒンディー語映画の最初期のホラー映画である「Raaz」(2002年)や「Bhoot」(2003年)から時系列に沿ってホラー映画を観て行くときっと面白いだろう。

 圧倒的な力を誇る亡霊マドゥから家族を必死で守る父親役を演じたスディープ、今回憑依されてしまった妻役のアムルター・カーンヴィルカル、亡霊のターゲットとなった長女役の子役女優エヘサーン・チャンナーなど、好演が目立った。長男役のリシャブ・ジャインは、実は同時公開の「Paathshaala」にも出演している。特定の子役出演の映画が2本同時公開されるのは珍しいかもしれない。

 「Phoonk 2」は、クライマックスの「どうしようもなさ」感が売りのホラー映画である。何だかんだ言って怖さはある映画だが、ストーリーの組み立てがしっかり出来ていないところがあって、展開を見失うところがある。多少前作を観ていないと分からない部分もあるし、後味も良くない。スキップしても問題ないだろう。