Paathshaala

2.5

 青春時代は人生の中でもっとも美しい時期であり、その大きな舞台となるのは学校である。学校は誰もが思い入れのある場であり、それ故に物語の舞台として活用しやすい。ヒンディー語映画界でも一部または全体で学校を舞台とした印象的な映画がコンスタントに作られている。例えば「Kuch Kuch Hota Hai」(1998年)、「Mohabbatein」(2000年)、「Main Hoon Na」(2004年)などが挙げられるだろう。だが、多くの映画では、学校で繰り広げられるドラマが主体で、学校や教育システムが抱える問題に触れられることはあまりなかった。大ヒット映画「3 Idiots」(2009年)で初めて、真剣に学校や教育の在り方について問題が提起されたと言っていいだろう。

 2010年4月16日公開の新作ヒンディー語映画「Paathshaala」は、その名も「学校」。「3 Idiots」では高等教育の場である大学が舞台であったが、この映画では初等中等教育にフォーカスされている。

監督:ミリンド・ウケー
制作:シャイラー・カーン
音楽:ハニーフ・シェーク
歌詞:ハニーフ・シェーク
振付:アハマド・カーン
衣装:シャビーナー・カーン、コーマル・サーニー、ザイナブ・シェーク
出演:ナーナー・パーテーカル、シャーヒド・カプール、アーイシャー・ターキヤー、サウラブ・シュクラー、スシャーント・スィン、スウィーニー・カーラー、アリー・ハージー、ドイジ・ヤーダヴなど
備考:サティヤム・シネプレックス・ネループレイスで鑑賞。

 英語教師のラーフル・プラカーシュ・ウディヤンヴァル(シャーヒド・カプール)は、ムンバイー郊外の名門校サラスワティー・ヴィディヤマンディルに新しく赴任した。同校では、家庭科教師アンジャリー・マートゥル(アーイシャー・ターキヤー)や体育教師ヴィジェーンドラ・チャウハーン(スシャーント・スィン)などが勤務していた。

 校長のアーディティヤ・サハーイ(ナーナー・パーテーカル)は、学校の近代化と商業化を理事長に要求され、改革に乗り出す。経営担当のラッラン・シャルマー(サウラブ・シュクラー)は、様々な教材を無理矢理保護者に買わせ始めた。その他にも学校の様々な面で商業化が進められた。その最たるものが、タレント発掘番組への出演であった。子供たちは勉強以外に組体操、演劇、料理、歌唱など、様々な技能の習得を要求され、疲弊するようになった。また、番組の担当者は金儲けのことしか考えておらず、子供たちをぞんざいに扱ったため、子供たちは皆自信を失い、大きなプレッシャーを感じるようになった。

 ラーフルは、サハーイ校長の突然の豹変を不審に思い、彼が大事に抱えるファイルを盗み見る。それによって、サハーイ校長が理事長から学校の近代化と利益化を強制されていたことが分かる。そこでラーフルは、児童や教員と共に立ち上がり、ストライキを始める。児童のストライキはメディアの注目を集める。サハーイ校長は辞意を表明するが、その際にラーフルに促され、なぜこのようなことをせざるをえなかったかを説明する。最近の保護者は、学校の施設ばかりを気にし、どんな教育が行われているのかを重視しない。派手な学校ほど子供が集まるようになり、それが学校の商業化をますます推し進める。そのせいで、堅実な教育を行っている学校がどんどん遅れて行く。その時勢にサハーイ校長は逆らうことができなかったのだった。サハーイ校長の言葉はメディアを通して多くの人々の心に残ることになった。

 娯楽映画っぽい外見だが、深刻な社会問題に真面目に取り組んだ作品であった。劇中に登場する様々な事件は実際に起こった事件をもとにしている。例えば子供が炎天下何時間も外に立たされるシーンがあったが、これは2009年4月にデリーの学校で11歳の女児が英語の成績が悪いという理由で炎天下何時間も立たされて死亡した事件を明らかに下敷きにしている。児童によるストライキもインドで実際にあることだし、年々値上がりする学費を巡っての学校側と保護者側の争いも現実の出来事である。

 しかしながら、「Paathshaala」の主要テーマは、学校の商業化の危険性である。教育はビジネスではなく、学校は利益を出す場ではない。もし学校経営において利益があるとしたら、それは子供の成長たちである。卒業生が人生で成功しているのを見ることが学校にとって何よりの利益である。学校の商業化は、子供たちを学校のブランド価値を高めるための駒として使用する風潮を生み、それが結果的に子供たちの健全な育成と将来への希望を奪うことになる。子供から無理に「タレント発掘」を行おうとすることも、幼い子供の幼い精神に多大な悪影響を与える。そんなことがメッセージが主張されていた。急速な経済成長と社会変化の中で古き良き価値観が捨て去れていくことへの危機感が映画の原動力となっており、それは「Rocket Singh: Salesman of the Year」(2009年)や「3 Idiots」などと共通していた。

 しかし、映画は問題提起のみで終わっており、監督なりの解決策や正しい教育の在り方の提示などはなく、物語を通してのメッセージの説得力や物語としてのまとまりにも欠けた。いくつか子供たちの人間関係が描かれ、中には恋愛感情が含まれたものもあったが、それらが発展することはなく、多くは未完のまま終わってしまった。教育問題という重要なテーマを選び、多くのことを語りたかったことは感じられたが、2時間弱の上映時間の中で語りきれなかったことがいくつもあった印象を受けた。また、劇中で起こる大小の事件がどれも極端過ぎるという欠点もあった。テーマの選定やメッセージは一流だが、映画としては三流である。

 シャーヒド・カプールは前作「Chance Pe Dance」(2010年)でもパートタイムの教師を演じていた。爽やかなイメージの強いシャーヒドは、いかにも児童生徒たちに人気の若手教師役がお似合いだ。とても誠実な演技をしていた。最近結婚したアーイシャー・ターキヤーも同じく爽やかさが売りの女優であり、子供たちを思いやる優しい家庭科教師ははまり役であった。校長を演じた演技派男優ナーナー・パーテーカルは今回はかなり抑え気味の演技であったが、最後の演説シーンなど、しっかりと見せ場をこなしていた。他にサウラブ・シュクラー、スシャーント・スィンなど、好演が目立った。

 学校が舞台なだけあり、子役も大きなウエイトを占めている。今までヒンディー語映画界で名子役として名を馳せてきた子役俳優が総出演している。「Nanhe Jaisalmer」(2007年)のドイジ・ヤーダヴ、「Ta Ra Rum Pum」(2007年)のアリー・ハージー、「Cheeni Kum」(2007年)のスウィーニー・カーラーなどである。きっとこのまま俳優の道を進むだろう。将来が楽しみだ。

 音楽、歌詞、BGM、台詞など、ハニーフ・シェークが担当している。上映時間が短めであったために挿入歌は多くなかったが、「Aye Khuda」など、いい曲があった。

 「Paathshaala」は、ここ数年間インドの教育界で起こっている事件や問題をひとつのプラットフォームで概観することのできる映画にはなっているが、脚本の弱さのせいで、映画としての完成度は高くない。もう少し脚本を練って映画にしていればと悔やまれる出来である。