Jaane Kahan Se Aayi Hai

3.5

 21世紀に入り、ヒンディー語映画界は様々なジャンルの映画に挑戦するようになった。その内の多くはハリウッドが伝統的に得意とするジャンルであり、ハリウッドと同じ土俵に立つことで逆にヒンディー語映画の弱点が露呈されることも少なくなかった。だが、ハリウッド的ジャンルの映画をうまくインド映画的に咀嚼した作品もいくつかあり、その代表格としてはSF映画「Koi… Mil Gaya」(2003年)を挙げたい。歌って踊ってのインド映画の公式が、意外にSFにもマッチしたことに驚かされたものである。もちろん、ラーケーシュ・ローシャン監督の巧みなハンドリングに依るところが大きいのであろうが、インド映画の可能性はまだまだあることを期待させられた。

 残念ながらその後、「Koi… Mil Gaya」を越えるインド製SF映画は公開されていないのだが、2010年4月9日から公開の「Jaane Kahan Se Aayi Hai」は、SFロマンスとも言えるジャンルの映画となっており、興味を引かれた。監督は、「Masti」(2004年)や「Heyy Babyy」(2007年)などの大ヒットコメディーの脚本を書いたミラープ・ミラン・ザヴェーリーで、これが監督デビュー作となる。主演はリテーシュ・デーシュムクとスリランカ人女優ジャクリン・フェルナンデス。この2人は既に「Aladin」(2009年)で共演している。

監督:ミラープ・ミラン・ザヴェーリー(新人)
制作:ムケーシュ・タルレージャー、ニキル・アードヴァーニー
音楽:サージド・ワージド
歌詞:サミール
振付:ボスコ・シーザー、レモ・ディスーザ
衣装:アシュレイ・レベロ
出演:リテーシュ・デーシュムク、ジャクリン・フェルナンデス、ヴィシャール・マロートラー、ルスラーン・ムムターズ、ソーナール・セヘガル、スプリヤー・ピルガーオンカル、サティーシュ・シャー
特別出演:ファラー・カーン、アクシャイ・クマール、カラン・ジョーハル、プリヤンカー・チョープラー、ボーマン・イーラーニー、サージド・カーン、アムリター・ラーオ
備考:サティヤム・シネプレックス・ネループレイスで鑑賞。

 ラージェーシュ・パレーク(リテーシュ・デーシュムク)はファラー・カーン監督(本人)のアシスタントで、親友のカメラマン、カウシャル(ヴィシャール・マロートラー)と共に撮影現場で下働きをしていた。映画のヒーローは今やインド中で大人気のデーシュ(ルスラーン・ムムターズ)であった。人生で一度も女の子にもてたことのないラージェーシュと違って、デーシュの回りには常に女の子が溢れていた。

 ある日、撮影現場にデーシュの妹ナターシャ(ソーナール・セヘガル)がアシスタントとしてやって来る。ラージェーシュはナターシャに一目惚れしてしまった。ラージェーシュはナターシャに告白をするが、ナターシャには「ただのベストフレンド」と振られてしまった。一人落胆していたラージェーシュの腕の中に、突然空から一人の女の子ターラー(ジャクリン・フェルナンデス)が降って来た。ターラーの話では、彼女は金星からやって来たとのことであった。最初は半信半疑のラージェーシュとカウシャルであったが、彼女が乗って来た宇宙船を見て信じざるをえなくなる。

 ターラーは地球に、愛とは何かを探しにやって来たのだった。だが、地球にいられるのは2日しかなかった。検索したところ、インドで一番愛されているのはデーシュであることが分かった。ターラーはデーシュに会って愛について調べることにする。ラージェーシュとカウシャルはターラーをデーシュに会わせる。デーシュはターラーの美しさに惹かれ、彼女を口説くようになる。また、ナターシャはラージェーシュが常にターラーと一緒にいることに嫉妬を覚えるようになり、ラージェーシュを振ったことを後悔し始める。ナターシャは頃合いを見計らってラージェーシュに接近する。

 ラージェーシュとナターシャ、デーシュとターラーのカップルが出来つつあった。だが、いつの間にかラージェーシュはターラーのことを、ターラーはラージェーシュのことを考えるようになっていた。しかし、二人はお互いにそれを打ち明けられずにいた。2日目の夜、ターラーはデーシュのダンスパーティーに呼ばれる。ラージェーシュもそのパーティーでナターシャと踊ることになる。ところが、ナターシャはラージェーシュが本当はターラーのことを愛していることに気付き、彼を後押しする。一方、デーシュもターラーは自分のことを愛していないことに気付く。デーシュと別れたターラーは誰にも何も言わずにそっと立ち去る。

 ラージェーシュはターラーを探して、カウシャル、デーシュ、ナターシャと共に、彼女と最初に会ったドライブインシアターへ急ぐ。そこにはターラーの姉(アムリター・ラーオ)が迎えに来ていた。ラージェーシュはターラーに愛していることを伝える。本当はもう金星に戻らなければならなかったが、ターラーの姉はカウシャルを気に入ってしまい、ターラーの代わりに彼を連れて金星に帰った。ラージェーシュはターラーと結婚し、子供も産まれた。

 金星から人間と同じ姿形をした女の子が地球にやって来て、「愛」とは何かを調査するというあらすじだけ見ると、いかにもB級映画と感じるかもしれない。確かにそれは間違いではない。「Jaane Kahan Se Aayi Hai」をA級映画とは呼ばない。だが、B級映画の強みで、宇宙人の来訪の関する「なぜ、どうして、どのように」という細かい設定を劇中で敢えてほとんど説明せずに問答無用で押し切ってしまったことがかえって功を奏し、ロマンス映画として一定の感動を提供できる作品になっていた。SFロマンス映画と言うよりもSF風ロマンス映画とした方がより適切であろう。また、全体がコメディータッチでまとめられていたことも、細かいことを笑って水に流せる雰囲気を作り出せていた。ひっくるめて言えば、SF風ラブコメ映画である。日本の少女漫画によくありそうな展開や結末の映画であった。

 「SF風」の部分を除いてしまえば、恋愛を意識せずに付き合っていたはずの男女が互いに愛し合っていたことに気付き合うまでを描いたストーリーであり、ロマンス映画としては全く何の変哲もないスタンダードな展開となっている。宇宙人の来訪という突拍子もないアイデアを持ち込んで観客を煙に巻いたことで、何となく新鮮な映画に感じられるようになっているとも言える。だが、登場人物の恋心の機微を非常に丁寧に描いており、誠実なロマンス映画として成功した作品となっていた。

 ヒンディー語映画界に世襲俳優やコネ俳優がどんどん増える中で、必ずしもヒーロー然した容姿を持っていないのに親の七光りで俳優デビューしてしまった、ある意味不幸な者も増えて来た。そういう俳優は、1、2本ヒーロー路線を試してみてダメだったら、今度は凡人路線を試すものである。つまり、身近さや親近感のある二枚目半俳優ということで売り出すのである。それでもダメだったら脇役俳優として活路を見出すしかないのだが、幸いリテーシュ・デーシュムクは、ヒーロー路線ではダメだったが、凡人路線が板にはまり、得意分野を見つけることの出来た俳優となっている。「Jaane Kahan Se Aayi Hai」はリテーシュの長所をうまく引き出す脚本となっており、もてない男を自然体の演技で演じていた。

 「Aladin」でヒンディー語映画デビューしたスリランカ人女優ジャクリン・フェルナンデスはてっきり一発屋で終わるかと思っていたが、意外にも早く彼女の第2作が公開された。ヒンディー語が得意ではないため、「Aladin」では台詞は吹き替えだったのだが、今回は異星人役でヒンディー語が得意でなくても不思議ではないため、自分で声を入れることになったようだ。確かに片言ではあったが、もっと酷いヒンディー語をしゃべる俳優はインドにいくらでもいる。よく頑張ったのではないかと思う。演技のぎこちないところも全て金星人だからということでカバーされていた。キャスティングの妙だと言える。

 劇中のスーパースター、デーシュを演じたのはルスラーン・ムムターズ。「Teree Sang」(2009年)の主演男優で、今回は雰囲気がガラリと変わっている。しかし、スーパースターを演じるにはちょっと役不足、演技力不足であったか。脇役俳優のヴィシャール・マロートラーは今回出番が多く、いい味を出していた。準ヒロインとなるソーナール・セヘガルも良かったし、サティーシュ・シャーにも大いに笑わされた。

 意外に特別出演陣が豪華なのも注目である。「Om Shanti Om」(2007年)のファラー・カーン監督を筆頭に、アクシャイ・クマール、カラン・ジョーハル、プリヤンカー・チョープラーなど、一線で活躍している俳優・監督ばかりが本人役で顔を出していた。特にファラー・カーン監督はいつにない露出振りで、しかも現実世界でのシャールク・カーンとの不仲の噂を劇中でネタにしていて、それだけでゴシップとして価値があった。弟のサージド・カーンもちょっとだけ出演。唯一、アムリター・ラーオだけはジャクリン・フェルナンデスと同じく金星人役で最後にサプライズ出演であった。また、ボーマン・イーラーニーも特別出演として名前が挙がっているが、予告編のみの出演で、本編中では出番がなかった。おそらく時間の都合でカットされたのであろう。

 特別出演だけでなく、過去のヒンディー語映画のパロディー、引用、映画音楽の流用が多かったのも特筆すべきだ。「Om Shanti Om」の「Ajab Si」などはモロに使われていた。映画の冒頭で多くの映画関係者にスペシャルサンクスが送られていたので、制作者から許可を得た上でのギミックなのだろう。

 音楽はサージド・ワージド。脚本と同じくマイペースを貫いており、宇宙人がテーマの映画にも関わらず宇宙的なモチーフが全く感じられない楽曲の数々であったが、楽しい雰囲気のものが多く、映画を明るく彩るのに成功していた。タイトルソングの「Jaane Kahan Se Aayi Hai」は劇中で何度もリフレインされていたし、「Nacha Main」はアップテンポのダンスナンバーであった。だが、もっともストーリーと親和性の高かったのは「Koi Rok Bhi Lo」。クライマックスを盛り上げる曲で、主人公たちの心情を代弁する歌詞になっていた。

 言語は基本的にヒンディー語だが、ラージェーシュとその一家がグジャラート人という設定であるため、グジャラーティー語の台詞も少し出て来る。圧巻はターラーと姉の会話。少しだけだが金星語(?)が出て来るのでお見逃しなく。

 「Jaane Kahan Se Aayi Hai」は一言で表現すればSF風ラブコメであり、最近公開されたヒンディー語映画の中では娯楽映画としての完成度がもっとも高い。「SF」の部分の描写は甘いが、見終わった後は大してそれが大きな欠点だとは感じないだろう。基本はコメディーであり、何も考えずに楽しむべき作品である。