Right Yaaa Wrong

2.5

 2010年3月12日に、毎年恒例の都市対抗クリケット・リーグ、インディアン・プレミアリーグ(IPL)が開幕した。このリーグは、毎日1~2試合を消化しながら、4月25日の決勝戦まで続く。この期間、インド人の関心は完全にクリケット一色となるため、映画業界は話題作の公開を避ける傾向にある。代わりにこの期間に上映されるのは、低予算映画だったり、完全に映画祭向けの映画だったり、訳あり映画だったりする。当たりがないこともないのだが、外れを引く可能性が通常時に比べてかなり高くなるので、もしこの時期にインド映画を観ようと思ったら、慎重な選択が必要となる。

 2010年3月12日には少なくとも5本の新作ヒンディー語映画が一気に公開された。今まで全く聞いたこともないようなタイトルもあり、今週は駄作の山になっていることがうかがわれた。その中でもキャストに比較的アピール力があるのは「Right Yaaa Wrong」であった。サニー・デーオールとイーシャー・コッピカルは多少不安要素であるが、イルファーン・カーンとコーンコナー・セーンシャルマーの名前があるだけである程度の質が予想された。今週は全く映画を観ないという選択肢もあったが、どうせなら一本だけ観てみようと思い、この映画を観ることにしたのであった。

監督:ニーラジ・パータク
制作:クリシャン・チャウドリー、ニーラジ・パータク、プニート・アガルワール
音楽:モンティー・シャルマー
歌詞:サミール
衣装:シンプル・カパーリヤー
出演:サニー・デーオール、イルファーン・カーン、コーンコナー・セーンシャルマー、イーシャー・コッピカル、ディーパル・シャー、アーリヤン・ヴァイド、ゴーヴィンド・ナームデーオ、サンジャイ・スィン、アリー・ハージー、アショーク・サマールト、ヴィジャイ・パーテーカル、カムレーシュ・サーワント、アルヴィンド・ヴァイディヤ
備考:DTスター・サーケートで鑑賞。

 ゴア州警察の英雄アジャイ・シュリーダル警視監(サニー・デーオール)は、親友で同僚のヴィナイ・パトナーイク(イルファーン・カーン)と共に数々の難事件を解決していた。だが、あるとき犯罪者の銃弾を受けて下半身不随になってしまう。

 一方、アジャイの妻アンシター(イーシャー・コッピカル)は、アジャイとの間にアーシーシュという息子がいながら、アジャイの腹違いの弟サンジャイ(サンジャイ・スィン)と不倫関係にあった。アジャイが車椅子生活を余儀なくされたことで、アンシターが今までのように自由に外出できなくなったため、アジャイの手助けをすることを理由にサンジャイはアジャイの家に住み込むようになる。そしてアンシターと不倫を続けた。

 アジャイは人生に絶望しており、自分に多額の保険をかけて死ぬことを決意し、それをアンシターとサンジャイに伝える。そして、自分の死を他殺に見せかけるために、二人の協力を仰ぐ。元々アジャイを邪魔に思っていた二人は、その計画に乗ることを決める。アジャイは綿密な計画を立て、二人に指示する。二人はその指示通りに動き、ある晩、強盗を装ってアジャイの家に侵入し、彼に発砲する。

 アジャイを殺したアンシターとサンジャイは喜んで抱き合うが、なんとアジャイは死んでおらず、その様子を見ていた。アジャイはまずサンジャイを殺し、アンシターの前で立って見せて、彼女をも殺す。実はアジャイは既に下半身不随をある程度克服しており、立てるまで回復していた。また、彼はサンジャイとアンシターの不倫のことも知っていた。二人を巧妙に殺害するため、二人に空砲を発砲させ、正当防衛に見せかけて逆に返り討ちにしたのだった。

 駆けつけたヴィナイら警察は、サンジャイとアンシターが共謀してアジャイを殺そうとして返り討ちにあったという話を信じ、そのままその事件を終わりにしようとする。ところが、ヴィナイはこの事件に不審を抱き、もう一度捜査をし直す。上層部から理解を得られなかったヴィナイはメディアに意図的にリークして世間の関心を煽り、何とかアジャイが計画的に2人を殺したことを立証しようとする。

 ところが、法律と警察を知り尽くしたアジャイは全く尻尾を見せなかった。ヴィナイの妹で弁護士のラーディカー(コーンコナー・セーンシャルマー)も、兄よりもアジャイのことを信じ、彼に荷担する。ヴィナイとラーディカーは法廷で争うことになった。ヴィナイはいくつか決定的な証拠を掴んでいたが、ラーディカーはそれらの弱点を突いて無効化する。アジャイが歩行可能かどうかが裁判の争点となったが、アジャイは決して歩ける素振りを見せなかった。最後には嘘発見器にも頼ったが、アジャイは嘘発見器対策もしており、嘘は暴けなかった。結局アジャイは無罪を言い渡される。

 アジャイは治療のため米国に行くことになっていた。ラーディカーは空港まで見送りに行く。そこへヴィナイも駆けつける。アジャイはヴィナイに1通の手紙を渡す。そこで彼は初めて彼に、計画的に二人を殺したことや、既に歩けるようになっていることなどを明かす。ヴィナイは彼を捕まえず、そのまま米国へ見送る。

 法律の厳格な遵守をモットーとする警官ヴィナイが、不倫関係にあった妻と義弟を計画的に殺害した疑いのある親友アジャイを有罪にするために奔走するという、なかなかユニークな展開のスリラー映画であった。しかも、アジャイの弁護を、ヴィナイの妹で弁護士のラーディカーがすることになり、さらに一捻りがあった。もし自分の最愛の人が犯罪を犯したことが分かったらどうするか?法律に従ってその人に罰を与えるのが正しいのか?それとも法律を無視してその人をかばうのが正しいのか?ヴィナイは当初、法律は友情よりも上にあると考え、アジャイの逮捕に全力を傾けるが、結局裁判で有罪にすることができなかった。ところがその後、アジャイは、生真面目なヴィナイが今回の件をきっかけに法律や司法に信頼をなくし、自信を失ってはならないという心遣いから、自ら真実を明かし、その理由を説明する。彼は息子のためにどうしても無罪を証明しなければならなかった。それを知ってヴィナイは、法律よりも上にまだ何かがあることを悟り、彼を見逃す。つまり、必ずしも常に法律を守ることは重要ではなく、時には人間性に則って判断しなければならないことがあるということが主張されていた。日本では、たとえ身内にとって不利になろうとも常に遵法精神を貫くことを美徳とする結論に向かう傾向にある一方、インドではどんなことがあっても身内をかばうことを美徳とすることが多いように思える。「Right Yaaa Wrong」はインドの道徳性を端的に示す好例であった。

 このようにかなり微妙な命題について考えさせられる内容となっており、単に観客をハラハラドキドキさせるスリラー映画ではなかった。その点は評価できる。さらに、ヴィナイがアジャイの罪を追求し始める後半はとてもスリリングで、この映画の面白さの中心となっている。しかし、人物設定、ストーリーテーリング、演出、編集、音楽やダンスの使い方など、映画としての全体的な完成度という観点では、未熟だと評せざるをえない。ニーラジ・パータク監督は、「Gumnaam」(2008年)という無名の映画でデビューしたばかりの無名監督である。その前には「Apne」(2007年)の脚本と台詞を担当しているが、これが彼の今までのキャリアの中の最高峰と言えるだろう。「Right Yaaa Wrong」は監督第2作となり、ストーリーも自分で考案しているが、このままでは将来に大きな期待はできない。

 大ヒット映画「Gadar: Ek Prem Katha」(2001年)の頃はヒンディー語映画界でナンバー1の人気を誇っていたアクション男優サニー・デーオールは、最近めっきり出番が減ってしまった。今回は初っ端で少しだけアクションを見せつつも、ほとんどは車椅子に座って「静」の演技に徹していた。今回下半身不随のキャラクターであったが、「Heroes」(2008年)でも同じような役を演じていた。あのときは下半身不随ながら人間離れした強さを発揮して暴漢たちをコテンパンに懲らしめるというとんでもない役だったが、今回は「100万人に1人しかできない」という下半身不随の完治を超人的な努力で成し遂げていたものの、もう少し地に足の付いた役になっていた。アクション男優として名が売れているが、しっかりとした演技もできる俳優である。だが、ファンは彼のこういう演技は期待していないかもしれない。

 真の主人公はイルファーン・カーンであった。特に後半は彼の演じるヴィナイを中心にストーリーが展開する。細かい部分でもイルファーン節が行き届いており、演技派としての実力を今回も発揮していた。同じく演技派として名高いコーンコナー・セーンシャルマーも、後半のみの出演ながら、裁判シーンで自信に満ちた演技を見せており、映画を引き締めていた。

 面白かったのは、残念賞な女優2人が揃って登場していたことである。まずはイーシャー・コッピカル。「Company」(2002年)の「Khallas」でアイテムガール出演し、カッラース・ガールとして一躍有名になったが、以後なかなか作品に恵まれず、2009年には遂に結婚してしまった。だが、「Right Yaaa Wrong」では、セクシーシーンも要求されていたものの、久々にストーリー上でもかなり重要な役をもらっており、適切な演技をしていた。今後女優業を続けるのか不明だが、このまま消えて行くとしたら惜しいことである。

 もう一人のヒロイン級女優ディーパル・シャーにも触れておきたい。彼女は「Kalyug」(2005年)で印象的な役を演じていたのだが、やはりヒンディー語映画界で定着できず、その後数本の映画に顔を出しただけである。「Right Yaaa Wrong」でも、ただいるだけのほとんど無意味な役であった。冒頭の、掃除女に変装してマフィアのアジトに侵入するシーンが最大の見せ場だった。二人とも出世作においてセクシーな演技で有名になってしまったためにセクシー女優のイメージが変に焼き付いてしまい、それがその後のキャリアの障害となった例だと言える。

 音楽はモンティー・シャルマーだが、この映画の音楽は単品でも魅力がなかったし、映画の中に組み込まれた後も特に相乗効果を発揮できていなかった。ヒンディー語映画のフォーマットに無理矢理合わせるために付け焼き刃で作られた曲ばかりであろう。

 「Right Yaaa Wrong」は、インド人の民族的道徳性を示すメッセージが込められた、ユニークな展開のスリラー映画である。最初から最後までスリリングな展開が続くが、特に後半はイルファーン・カーンの名演もあって非常に面白い。映画としての完成度は高くないが、これからIPL開催期間中に次々と投下されるであろう駄作の山の中では、まあまあ楽しめる作品になるのではなかろうか。