Main Aurr Mrs Khanna

2.0
Main Aurr Mrs Khanna
「Main Aurr Mrs Khanna」

 ディーワーリー週の2009年10月16日に公開された3作のヒンディー語映画の中で、もっとも目立っていないのが「Main Aurr Mrs Khanna」である。サルマーン・カーンが主演、ヒロインはカリーナー・カプールと、スターパワーは十分なのだが、いかんせん、他の2作の方が派手な売り出しをしていたため、この作品は影に隠れてしまっていた。公開後、観客や批評家の反応もあまり芳しくない。だが、腐ってもディーワーリー映画、観ておかなければならないという義務感から、映画館に足を運んだ。

監督:プレーム・R・ソーニー(新人)
制作:ロニー・スクリューワーラー、ソハイル・カーン
音楽:サージド・ワージド
歌詞:ジュナイド・ワースィー、スザンヌ・デメロ、ジャリース・シェールワーニー、アルン・バイラヴ
振付:ファラー・カーン、ラージーヴ・スルティー
衣装:マニーシュ・マロートラー
出演:サルマーン・カーン、カリーナー・カプール、ソハイル・カーン、プリーティ・ズィンター、バッピー・ラーヒリー、ヤシュ・トーンク、ナウヒード・サイラスィー、メヘク・チャル、ディノ・モレア(特別出演)、ディーピカー・パードゥコーン(特別出演)
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 ライナー(カリーナー・カプール)は孤児で名字がなかったが、トレーダーのサミール・カンナー(サルマーン・カーン)と出会い、結婚したことで、カンナー夫人となった。二人はオーストラリアのメルボルンに住んでいた。

 ところが資産運用に大失敗し、勤めていた会社を潰してしまったサミールは、なかなか再就職先を見つけることができないでいた。サミールの精神状態は安定せず、夫婦仲も急速に冷えて行った。メルボルンに見切りを付けたサミールは、友人(ディノ・モレア)の勧めに従って、シンガポールへ移ることを決める。

 ライナーは当然サミールと共にシンガポールへ行く積もりであった。ところがサミールは勝手に単身シンガポールへ行くことを決めており、彼女をデリーに送ろうとした。ライナーはそれをよく思わず、メルボルンに残ることに決める。

 ライナーは、親友のニーナやその友人ティヤーの助けを借りて、空港の宝石店に就職する。そのオーナーはヴィクター(バッピー・ラーヒリー)という変わったインド人であった。また、同じ空港のカフェで働いていたのがアーカーシュ(ソハイル・カーン)というインド人であった。オーストラリアの永住権を獲得し、バーテンダーとして働いていたアーカーシュは、ライナーに一目惚れし、彼女の身辺を探る。彼女が既婚であることが分かってガッカリするものの、夫に置いて行かれたことを知り、彼女を支えるようになる。もちろん下心がない訳ではなかったが、アーカーシュの親切さにライナーも心を開き、二人は仲良くなる。

 ところがある日、警察がヴィクターの店を訪れ、不法就労者がいる疑いがあると告げる。ヴィクターは咄嗟に、ライナーはアーカーシュの妻だと言ってごまかす。だが、このままごまかし通すこともできない。ライナーはヴィザの問題に直面することになった。ヴィクターはひとつの解決法を提案する。それは、書類上だけ、永住権を持つアーカーシュと結婚し、ヴィザの問題をクリアすることである。ライナーは、サミールという夫がいながらアーカーシュと結婚することを躊躇するが、他に方法がなく、それを受け容れる。

 次第にアーカーシュのライナーに対する恋心は膨れ上がって行った。遂に彼はライナーに思いを打ち明けることを決意する。しかしそのとき、サミールが帰って来てしまう。シンガポールで再起することに成功したサミールは、再び自信に満ちた男に戻っていた。単なるバーテンダーのアーカーシュでは、とても太刀打ちができそうになかった。

 そこでアーカーシュは、ハスィーナー(プリーティ・ズィンター)という妖艶なパーキスターン人ダンサーにライナーを誘惑させる。しかし結局ハスィーナーとはしゃいで踊っているところをライナーに目撃されてしまい、自分が評価を落としただけに終わった。もはやアーカーシュはライナーを諦めるしかなかった。

 しかし、ちょうどそこへ裁判所からアーカーシュとライナーの元へ、結婚手続きの書類が送られて来る。それを見たサミールはショックを受け、ライナーを問いただす。ライナーはヴィザのために偽装結婚をしようとしたと説明するが、サミールは信じない。サミールは、自分とアーカーシュのどちらかを選ぶように言い、シンガポールへ帰ろうとする。そこでライナーはアーカーシュに会い、自分のことをどう思っているか聞く。アーカーシュは、サミールこそがライナーにピッタリの相手だと答える。ライナーはその答えにホッとする。

 ライナーはサミールと共にシンガポールへ移り住むことになった。アーカーシュを含む友人たちはライナーを見送る。残されたアーカーシュは落ち込むが、そこへまた美しいインド人女性(ディーピカー・パードゥコーン)がやって来る。名前を聞いてみると、なんとライナーであった。しかも夫に置いて行かれてしまったと言う。もしやと思って尋ねると、夫の名前はサミールであった・・・!

 特別出演の俳優を含めると意外に豪華なキャストで、さらにいくつか心に残る台詞や涙腺を刺激するシーンがあったが、全体的に脚本が弱く、テンポも悪い映画だった。しかもディーワーリーに似つかわしくない、暗い雰囲気が支配的な映画である。

 この映画を好意的に捉えれば、ひとつ重要なメッセージを取り出すことができる。会社を潰してしまい、無職になってしまったサミールは、妻ライナーに苦労をさせまいと、彼女を両親のいるデリーへ送ろうとした。しかし、ライナーの方は、辛いときでも夫と共にいて支えて行きたいと考えており、サミールが勝手に別居を決めたことに大きな戸惑いを感じていた。サミールの決断は、夫婦という関係を保つ上で最上のものではなく、それがライナーに与えたトラウマが映画の一応の中心テーマとなっており、夫婦とは何かを考えさせる内容となっていた。しかし、ストーリーの肉付けがよくできておらず、登場人物の心情表現も手薄で、焦点が定まっていなかった。

 オーストラリアで働くために偽装結婚をするシーンがあるが、道義的に見て何の良心の呵責もなくこういうプロットを盛り込むのはどうかと思った。当事者のライナーは、もちろん本当の夫に対しての良心の呵責を抱いてはいたが、法律を破ることには何の躊躇もないようだった。また、サミールとの結婚が書類上どうなっているのかも疑問である。ちなみにインドでは結婚は基本的に宗教の管轄であるし、戸籍もないため、結婚を証明する絶対的な書類は存在しない。

 ライナーがアーカーシュと結婚手続きを進めていたことがサミールにばれてしまうシーンがある。それは物語の「転」として悪くない方法であったが、そこからの展開は非現実的であった。ライナーとアーカーシュは単なる友人であり、ちゃんと事情を説明すればそれで終わる話である。もし疑わしいなら、少し調べてみればいい。三角関係にもなっていない。しかしサミールは自分かアーカーシュかどちらかを選ぶようにライナーに言う。そしてライナーも即答せずになぜかアーカーシュに会いに行く。物語の一番の盛り上がりだったために、この部分の脚本の弱さは致命的であった。

 最近のヒンディー語でこういうことは少なくなったのだが、「Main Aurr Mrs Khanna」ではダンスシーンの入り方が唐突で、古風なスタイルの映画に思えた。監督のプレーム・R・ソーニーは若手の新人のはずだが、まるで時代遅れの作風で、これでは21世紀にデビューした並み居る新進気鋭の監督たちに太刀打ちはできないだろう。どうやらソーニー監督は、サルマーン・カーンに脚本を持ち込んで映画制作にゴーサインをもらったらしい。

 古風と言えば、「Main Aurr Mrs Khanna」では昔のヒンディー語映画の歌が効果的に使われていた。それは「Balika Badhu」(1976年)の中で使われた「Bade Achche Lagte Hai」である。歌手はアミト・カンナー。この曲の冒頭の歌詞は以下の通りである。

बड़े अच्छे लगते हैं
यह धरती, यह नदियाँ, यह रैना और तुम

bare achchhe lagte hain
yeh dhartī, yeh nadiyān, yeh rainā aur tum

とっても素晴らしい
この大地、この河、この夜、そして君

 この歌詞の中に「ライナー」という単語が出て来るが、これは「夜」という意味である。ちょうど「Main Aurr Mrs Khanna」のヒロインの名前もライナーであり、それがギミックとなっていた。

 サルマーン・カーンは映画によって全く雰囲気が違うのだが、今回は大根役者のサルマーンになっていた。全く演技になっていない。と言うより監督がサルマーンに対して頭が上がらず、彼に演技をさせられていないのだと思う。ヒロインのカリーナー・カプールは非常に繊細な演技をしていたが、相手のサルマーンがこんな状態なので、空回りに終わっていた。プロデューサーでもあるソハイル・カーンは、すっかり板に付いたお調子者キャラを好演していた。プリーティ・ズィンターがアイテムガール的な端役で登場するが、ミスキャストだと感じた。マッリカー・シェーラーワトなどの方が適役だっただろう。プリーティに妖艶さはない。

 サプライズはディーピカー・パードゥコーンの特別出演である。ライナーへの片思いを諦めたアーカーシュの前に、またライナーという名の美しい女性が現れるのだが、それがディーピカーであった。本の数分の登場だったが、さすがオーラがあった。カリーナーからディーピカーへの世代交代を象徴すると表現したら言いすぎであろうか?

 音楽はサージド・ワージドで、2時間ほどの映画の中にいくつもダンスシーンが挿入されるが、どれも大した曲ではなかった。ヴィジュアル的には唯一「Happening」が見応えがある。プリーティ・ズィンターを中心に、サルマーン・カーン、ソハイル・カーン、カリーナー・カプールが踊る。

 「Main Aurr Mrs Khanna」は、サルマーン・カーンとカリーナー・カプールというビッグスターを擁したロマンス映画であるにも関わらず、暗く地味な映画である。カリーナー・カプールの演技はいいし、いくつかグッと来るシーンもあるが、全体的にはお粗末な脚本の映画だと評価せざるをえない。無理に観る必要はないだろう。