What’s Your Raashee?

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What's Your Raashee?
「What’s Your Raashee?」

 日本では12星座占い(正確には黄道12宮占い)が盛んで、誰でも自分の星座くらいは知っている。一般的な黄道12宮占いは、生まれたときに太陽がどの星座の位置にあるかで人間を12種類に分類し、それぞれの人がどのような運勢の下にあるのかを占う。僕は占いよりもむしろ「聖闘士星矢」という漫画で星座に詳しくなったが、そういう同世代の人も多いと思う。

 インドにも天体や星座による長い占星術の伝統がある。古代バビロニア王国で発明されたと言われる、黄道12宮を基にした占星術は、ギリシアを経てインドに伝わり、独自の発展をして来た。インドではそれは「占い」という安っぽいものではなく、今でも人生を左右する重要な「履歴書」と考えられている。生まれたときから死ぬときまで、その人がどのような人生を歩むのかが緻密に計算される。特に結婚の際には2人のホロスコープが照らし合わされ、現在でも縁組みの重要な判断基準となっている。

 さて、本日(2009年9月25日)より公開のヒンディー語映画「What’s Your Raashee?」は、「あなたのラーシ(宮)は何ですか?」という題名が示すように、黄道12宮占いをテーマにしたユニークなラブコメである。主人公の男性が、各星座に属する12人の女性とお見合いをするというプロットだ。その12人の女性を一人で演じるのがプリヤンカー・チョープラー。つまり、プリヤンカーは今回一人12役に挑戦する。一本の映画の中で女優が12役を演じるのは世界初のことのようで、既にギネスブックに登録申請されているようだ。主演は、プリヤンカーのボーイフレンドとされるハルマン・バウェージャー。この二人が以前共演したSF映画「Love Story 2050」(2008年)は大コケしており、一抹の不安が頭をよぎったのだが、ナヴラートリ~ダシャハラー・シーズンのリリースと言うこともあり、初日に鑑賞となった。

監督:アーシュトーシュ・ゴーワーリカル
制作:ロニー・スクリューワーラー、スニーター・A・ゴーワーリカル
音楽:ソハイル・セーン
歌詞:ジャーヴェード・アクタル
振付:チンニー・プラカーシュ、レーカー・プラカーシュ、ラージュー・カーン、ロリポップ、テレンス・ルイス、ラージーヴ・スルティー
出演:ハルマン・バウェージャー、プリヤンカー・チョープラー、マンジュー・スィン、アーンジャン・シュリーワースタヴ、ヴィシュヴァ・バドーラー、ラージェーシュ・ヴィヴェーク、ディリープ・ジョーシー、ダヤーシャンカル・パーンデーイ、ユーリー・バイラヴィー・ヴァイディヤー、ギーター・ティヤーギー、アジター・クルカルニー、ダルシャン・ジャリーワーラー
備考:PVRアヌパム4で鑑賞。

 シカゴに留学中の純朴なグジャラート人青年ヨーゲーシュ・パテール(ハルマン・バウェージャー)は、父親が心臓発作になったとの急報を受け取り、急遽ムンバイーに戻って来る。ところがそれはヨーゲーシュをインドに呼び寄せるための嘘だった。

 事情はこうであった。ヨーゲーシュの兄ジートゥー(ディリープ・ジョーシー)は株取引で失敗し、多額の借金を抱えていた。両親や妻と暮らすアパートの部屋も担保になっていたし、マフィアからも多額の金を借りていたため、命の危険もあった。父親が占星術師(ラージェーシュ・ヴィヴェーク)に相談すると、彼はヨーゲーシュの金運がもうすぐ最高潮に達すると予言する。その瞬間、グジャラート州バルドーリーに住む母方の祖父から電話が掛かって来た。祖父は無数にいる子孫の中でもヨーゲーシュのことを特に可愛がっており、彼が結婚したら、所有している広大な土地の名義を全てヨーゲーシュに委譲する意向を伝えた。祖父の資産さえ手に入れば、借金は返済できる。よって、借金の返済期限が来る前にヨーゲーシュを結婚させる必要があり、彼をシカゴから無理矢理呼び寄せたのだった。

 事情を知ったお人好しのヨーゲーシュは、家を守るために結婚することを承諾する。父親の兄弟デーボー(ダルシャン・ジャリーワーラー)が結婚紹介所を運営しており、彼がヨーゲーシュの結婚相手募集を一手に引き受けた。するとすぐにたくさんの女性から申し込みがあった。しかし、短期間でそんなに多くの女性とお見合いするのは不可能であった。そこでヨーゲーシュは、最近読んだ12星座の本に影響され、それぞれの星座に属する12人の女性とお見合いして、その中から結婚相手を決めると宣言した。デーボーは早速星座に従って12人の女性を選び出す。

 まずは牡羊座のアンジャリー(プリヤンカー・チョープラー)とのお見合いがあった。アンジャリーは田舎育ちの純朴な女性であったが、NRI(在外インド人)のヨーゲーシュに気に入られるため、派手な衣装に無理に身を包み、ロクにしゃべれない英語で会話をしようとし、ヴェジタリアンなのに自分のことをノン・ヴェジだと偽ったり、タバコを吸ったこともないのにタバコをいつも吸っているように見せかけたりと、いろいろチグハグなところが目立った。

 次に会った水瓶座のサンジャナー(プリヤンカー・チョープラー)は、英語も流暢で、いかにもお嬢さんと言った感じの女性であった。しかし、彼女にはアフリカ人のボーイフレンドがいた。彼女の両親はそれを快く思っておらず、無理に彼女を他のインド人男性と結婚させようとしていた。サンジャナーはそのことをヨーゲーシュに明かし、自分との結婚を拒否するように頼む。ヨーゲーシュはそれを受け容れ、彼女とは結婚しないと言う。

 双子座のカージャル(プリヤンカー・チョープラー)はお転婆な大学生だったが、シカゴでDJをやっていたヨーゲーシュと気が合った。ヨーゲーシュは彼女と結婚しようとするが、カージャルは少なくとも1年付き合った後でないと結婚しないと言う。結婚を急ぐヨーゲーシュには、その条件は飲めなかった。

 蟹座のハンサー(プリヤンカー・チョープラー)は保守的な家庭の娘だった。だが、彼女には大きな秘密があった。実は過去に彼女は隣家の男性と恋愛関係にあったが、その男性は別の女性と結婚してしまった。ハンサーはその男性に処女を捧げてしまっていた。ハンサーはヨーゲーシュにそのことを隠さず話す。ヨーゲーシュはその勇気に感銘する。

 天秤座のラジニー(プリヤンカー・チョープラー)は不動産会社の社長で、彼女との会話は全てビジネスライクであった。ラジニーにとっては結婚も契約でしかなかった。なぜなら彼女の会社は現在CBI(中央捜査局)の取り調べを受けており、逮捕される可能性があった。そこで彼女は結婚して海外へ亡命することを考えており、その相手としてヨーゲーシュを候補に選んだのだった。ラジニーは既に契約書まで用意していた。そこには、結婚の契約期間をとりあえず2年としており、その後離婚するかどうかを決定するなど、様々な規定が盛り込まれていた。その代わり、ラジニーは5千万ルピーを持参金として支払うことを約束した。その契約書を読んでヨーゲーシュは腰を抜かしてしまう。

  魚座のチャンドリカー(プリヤンカー・チョープラー)は生まれ変わりを信じるオカルト趣味な女性であった。チャンドリカーはヨーゲーシュを前世の夫と信じ込んでおり、彼との再会を一人で喜ぶ。しかしヨーゲーシュにはちっとも訳が分からなかった。

  獅子座のマッリカー(プリヤンカー・チョープラー)は有名なダンサーだった。マッリカーはダンスの仕事を続けるため、裕福な男性との結婚を望んでおり、結婚後に莫大な資産を得る予定のヨーゲーシュに目を付けたのだった。しかし、インドの生水を飲もうとしない米国かぶれのヨーゲーシュに愛想を尽かし、去って行ってしまう。

 蠍座のナンディニー(プリヤンカー・チョープラー)は、モデル志望であったが両親にはそれをひた隠し、ひたすらインターネットで情報収集をしている女性であった。シカゴはファッションの中心地で、もしシカゴ在住のヨーゲーシュと結婚すれば、モデルへの道が開けると考えていた。ナンディニーは大人しめの服装でお見合いの席にやって来たが、ヨーゲーシュと2人きりになると突然セクシーな服に着替え、自分の夢をヨーゲーシュに語る。ヨーゲーシュは、まずは両親に自分の夢を伝えるべきだと助言し、彼女はその通りにする。最初は驚いた両親も、後にはそれを受け容れる。

 乙女座のプージャー(プリヤンカー・チョープラー)は、農村で医療活動を行うことを生き甲斐とする女医であった。ヨーゲーシュはプージャーのことを気に入るが、彼女はシカゴに移住することを望まなかった。インドの農村で一生医療活動を続けて行くという信念を持っていた。

 牡牛座のヴィシャーカー(プリヤンカー・チョープラー)は、インド有数の資産家の娘であった。だが、彼女はヨーゲーシュが財産が目的で自分と結婚しようとしているのかどうかを確かめるため、わざと彼の前で頭がおかしい振りをする。もしこれで「ノー」と言って来たら、本当のことを伝えるつもりであった。

 射手座のバーヴナー(プリヤンカー・チョープラー)は占星術師で、ヨーゲーシュとの結婚を占星術によって占った。すると、ヨーゲーシュのホロスコープには、二人の女性との結婚の運命が見えた。つまり、最初の妻とはうまく行かないということだった。ただ、結婚前に別の女性との「完全なる肉体関係」があるのなら、占星術上はそれが結婚扱いとなり、バーヴナーとの結婚に支障がなかった。だが、ヨーゲーシュにはそのような関係は過去になかった。そうなると残されたのは最後の手段であった。それは、結婚前に結婚相手と肉体関係を結ぶことだった。突然バーヴナーはヨーゲーシュをベッドに押し倒して誘惑し出す。ヨーゲーシュは這々の体で逃げ出す。

 ヨーゲーシュは、最後のお見合い相手となる山羊座のジャーンカナー(プリヤンカー・チョープラー)に会いに行った。だが、彼女はどう見ても未成年にしか見えなかった。父親にそれを問いただすと、あっさりとジャーンカナーが15歳であることを認めた。なぜそういうことをしたかと言うと、それは持参金の問題だった。彼女の家には女の子ばかりが生まれ、彼女たちの結婚が家計の重荷となっていた。ヨーゲーシュは結婚相手に持参金を求めておらず、それを見て父親はジャーンカナーを応募させたのだった。ヨーゲーシュは未成年とは結婚できないと言って立ち去る。まだ結婚する気のなかったジャーンカナーはヨーゲーシュに感謝する。

 こうして12人の女性とお見合いをしたヨーゲーシュであったが、未だに誰と結婚するか決めかねていた。しかしそのとき、祖父が、ヨーゲーシュの名義になる予定の土地をジートゥーらが売って金にしようとしているのに勘付いてしまい、土地の売却を禁止すると通達して来た。どうしてもまとまった金が必要となったため、ヨーゲーシュは5千万ルピーの持参金を約束するラジニーとの結婚を決める。だが、ラジニーは既に、シカゴでのヨーゲーシュのルームメイト、コーリーとの結婚を決めていた。コーリーも結婚相手を探すためにインドに戻って来ていたのだが、持参金がたくさんもらえる相手がいいと言う彼のためにヨーゲーシュはラジニーのことを教えたのだった。

 そこでヨーゲーシュは資産家の娘ヴィシャーカーと結婚しようとする。だが、デーボーはそれを止める。デーボーはそのときまでヨーゲーシュの置かれた立場を把握していた。彼はジートゥーの借金は自分が何とかすると言い、その代わり結婚相手は自分が決めると提案する。ヨーゲーシュはもはや誰とでも結婚していいと思っていたので、それを了承する。結婚相手は結婚式当日に分かることになった。

 結婚式の日。会場に現れたのはサンジャナーであった。サンジャナーにはボーイフレンドがいたはずであったが、デーボーの協力で彼が浮気していることが発覚し、フリーの身になっていた。デーボーはサンジャナーの人柄がヨーゲーシュに一番近いと判断し、彼女をヨーゲーシュの花嫁に決めたのだった。また、結婚式には祖父も駆けつけた。祖父は、ジートゥーの借金のことをデーボーから聞いており、金も用意して来ていた。会場に来ていた借金取りたちはそれを受け取って帰って行った。

 まずはその上映時間の長さに驚いた。たっぷり3時間半、インターバルを含めたら4時間の大長編である。途中インターバルが2回あったのだが、その内のひとつは単に上映中のトラブルだったのかもしれない。突然映像が切れて「インターバル」のスライドが出た。

 発想はとても面白い。インドのロマンス映画のほとんどは結婚を軸にストーリーが展開するため、大まかな筋だけを取り出したらどれも似たり寄ったりという印象を受ける人もいる訳だが、「What’s Your Raashee」の、12星座に対応した12人の女性たちとのお見合いというアイデアは新しかった。映画の原作は、マドゥ・ラーイ(Madhu Rye)という米国在住インド人作家の小説「Kimball Ravenswood」のようで、この小説は既に演劇やTVドラマにもなっている。もちろん、それぞれの女性がそれぞれの星座の人の特徴をよく表しているかどうかは別問題である。一応、各星座に特有の一般的なイメージが各キャラクターに投影されるような努力はされていたが、あくまでフィクションであり、そこを突っ込むのは大人げないだろう。

 12人の女性全てをプリヤンカー・チョープラー1人が演じるのも、突き詰めて考えれば手抜きということになってしまうが、12人の顔がみんな同じなのは一応劇中で言い訳がされていた。自分の「夢のお姫様」を探す男性にとって、花嫁候補の女性の顔は、理想が投影されるために皆一緒に見える、と言うものであった。祖父が主人公ヨーゲーシュにそれを説いていた。12人のヒロインの顔が一緒であるため、クライマックスの結婚式のシーンにおいて、ヨーゲーシュの目の前に現れたプリヤンカー・チョープラーが一体どの役なのか分からないというトリックもあった。

 娯楽映画でも社会問題に踏み入るインド映画の伝統を踏襲し、「What’s Your Raashee」でも持参金、花嫁の処女性、幼児婚などについて触れられていた。だが、それらへの言及はいたって簡潔であり、強いメッセージ性を持ったものではなかった。例えばヨーゲーシュは持参金を受け取ることに猛反対していたが、ストーリーの中で持参金が悪だという結論には至っていなかった。

 2回目のインターバル(?)のときにストーリーが飛んだように思ったのだが、それを除外してこの映画の最大の問題を挙げるとしたら、やはりそのまとめ方になる。ヨーゲーシュはサンジャナーと結婚することになるのだが、その展開の正当性を説得力ある方法で観客に提示できていなかった。12人のヒロインとのお見合いは冗長であったが意外に退屈ではなかった。だが、その中から一人を選ぶ段階になると、観客側から見ても、一体どうやってまとめるのだろうと心配になるほどであった。優れたインド映画はそこで説得力あるエンディングを用意するものなのだが、この作品では残念ながら尻切れトンボになってしまっていた。サンジャナーを選んだことに異議はない。もう少し丁寧に伏線を張るべきだったと思う。

 「What’s Your Raashee」はプリヤンカー・チョープラーのキャリアの分水嶺となる作品であろう。既に「Fashion」(2008年)での主演で高い評価を得ているプリヤンカーだが、今回は一人12役という異例の挑戦を行い、それをかなり成功させていた。特にその12役の中で、牡羊座のアンジャリー、双子座のカージャル、天秤座のラジニー、山羊座のジャーンカナーなど、今までプリヤンカーがあまり演じて来なかったような役柄をよく演じ分けていた。ただ、彼女が元々得意として来たようなキャラ、例えば水瓶座のサンジャナー、獅子座のマッリカー、乙女座のプージャーなどは、あまり演じ分けが感じられなかった。それでも、彼女の潜在能力を確認するには十分の出来で、今後も信頼性のある女優として成長して行くことであろう。

 主演のハルマン・バウェージャーはよく言えばナチュラルな演技であった。おそらく地なのであろう、12人の女性たちのそれぞれの特徴に翻弄される純朴な青年の姿をよく表現していた。踊りもうまい。だが、観客の視線をスクリーンの中の自分の引きつける力がまだ欠けており、まだこれからと言った感じだ。リティク・ローシャンとの区別化にもまだ成功していない。

 脇役陣の中では、結婚斡旋業者デーボーを演じたダルシャン・ジャリーワーラーが突出している。「Gandhi, My Father」(2007年)でマハートマー・ガーンディー役を演じ、ヒンディー語映画界で認められる存在となったダルシャンは、次第にボーマン・イーラーニーと似た立場になって来ている。つまり、悪役もコミックロールもそつなくこなす名脇役俳優になって来ている。

 音楽はソハイル・セーンという人物で、僕はあまり知らない。劇中には12人のヒロインが登場するが、それに大体対応するように12曲が用意されている。ジャズ調のタイトル曲「Pal Pal Dil Jisko Dhoonde」や、ヨーゲーシュが12人の中から結婚相手を選ぼうとするときに挿入される「Chehre Jo Dekhe Hain」は悪くなかったが、それ以外の曲はほとんど耳に残らなかった。ちなみに「Chehre Jo Dekhe Hain」ではプリヤンカー・チョープラー演じる12人のキャラクターが一堂に会して踊るため、映像的に面白い。

 映画はグジャラート人家庭の結婚相手探しであり、花嫁候補も基本的にグジャラート人であった。よって、時々グジャラーティー語が台詞の中に混ざるし、グジャラーティー文字が出て来るシーンもいくつかあった。だが、主な台詞はヒンディー語である。

 「What’s Your Raashee」は、「Lagaan」(2001年)、「Swades」(2004年)、「Jodhaa Akbar」(2008年)など、21世紀のヒンディー語映画における重要作品を監督して来たアーシュトーシュ・ゴーワーリカル監督の最新作になる。だが、ラブコメなのにも関わらず上映時間が異常に長く、まとめ方も締まっておらず、非常に疲労感の溜まる作品になっている。12星座とラブコメを融合させるアイデアは悪くない。もし、映画館なら4時間、DVDでも3時間半という長丁場に耐えられて、プリヤンカー・チョープラーの12変化または12星座がどのように映像化されるのかを楽しめる人なら、観てもいいだろう。