Paying Guests

2.5

 先週から新作映画公開が再開されたヒンディー語映画界。2009年6月19日からは新作コメディー映画「Paying Guests」が公開された。「ペイングゲスト」とは、略してPGとも呼ばれ、インドで一般的な下宿のスタイルである。大家さんの家の一室を間借りする形で、一般の賃貸住宅よりも大家さんとの距離がかなり近い。ホームステイと変わらないことも多い。その題名が示唆するように、「Paying Guests」は、下宿がテーマのドタバタコメディーである。ただし、舞台はタイのパタヤーであり、インドではない。

監督:パリトーシュ・ペインター(新人)
制作:ラージュー・ファールーキー
音楽:サージド・ワージド
歌詞:ジャリース・シェールワーニー、ワージド、AKウパーディヤーイ
出演:シュレーヤス・タルパデー、ジャーヴェード・ジャーフリー、アーシーシュ・チャウダリー、ヴァトサル・シェート、ネーハー・ドゥーピヤー、セリナ・ジェートリー、リヤー・セーン、サヤーリー・バガト、ジョニー・リーヴァル、ディルナーズ・ポール、チャンキー・パーンデーイ、アスラーニー
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 タイのパタヤーで働くインド人仲良し3人組、バーヴェーシュ(シュレーヤス・タルパデー)、パラーグ(ジャーヴェード・ジャーファリー)、パリークシト(アーシーシュ・チャウダリー)は、キスカーという変な名前の大家さんの家に下宿していた。バーヴェーシュはコック、パラーグは脚本家、パリークシトは自動車セールスマンをしていたが、三人とも職場でトラブルを起こして解雇されてしまう。しかも、家賃滞納の上に大家さんを激怒させ、家を追い出される。だが、このときインドからパリークシトの従兄弟のジャエーシュ(ヴァトサル・シェート)がやって来ており、あと数日で就職することが決定していたため、その間どこかに下宿することを決める。ジャエーシュが就職した後は、とりあえず彼に割り当てられる住居に転がり込んで、職探しをする予定であった。

 パタヤーで新たな下宿先を探すのは難航を極めたが、パリークシトとジャエーシュはあるインド人スィク教徒の家が下宿人を募集しているのを見つける。ただし難点がふたつあった。ひとつは下宿人は既婚の夫婦に限るという条件を提示していること、もうひとつは、その大家さんはかつてバーヴェーシュが働いていたレストランのオーナーであることだった。大家さんの名前はバッルー(ジョニー・リーヴァル)、奥さんの名前はスウィーティー(ディルナーズ・ポール)と言った。

 だが、背に腹は代えられなかった。パリークシトの妙案により、バーヴェーシュとパラーグは女装し、それぞれパリークシトの妻カリシュマー、ジャエーシュの妻カリーナーを名乗ることになった。こうして晴れて4人は新たな下宿先に転がり込むことに成功する。また、バッルーにも、カリシュマーの正体がバーヴェーシュであることはばれなかった。

 ところで、四人にはそれぞれ恋人や意中の人がいた。パラーグはTV番組プロデューサーの娘スィーマー(サヤーリー・バガト)と恋仲にあった。パリークシトは自動車ディーラーの上司アールティー(ネーハー・ドゥーピヤー)と一度大げんかをして解雇にまで至ったものの、その後急速に関係を深めつつあった。ジャエーシュにはアルピター(リヤー・セーン)という恋人がいたが、彼女はインドにいた。だが、アルピターは実はスウィーティーの妹カルパナー(セリナ・ジェートリー)の友達で、カルパナーと共にアルピターもパタヤーへやって来る。アルピターはジャエーシュが知らない間にカリーナーという奇妙な女と結婚していたことにショックを受けるが、後で真実を知って安心する。また、バーヴェーシュはカルパナーに一目惚れし、カリシュマーの姿で彼女の好みの男性を聞き出し、その後その通りのイメージで彼女の前に登場して、カルパナーのハートをガッチリと掴む。

 バッルーは弟のラミー(チャンキー・パーンデーイ)との間にトラブルを抱えていた。父親のレストランを継いで地道に経営するバッルーと違い、ラミーはチンピラとなっていた。ラミーはレストランを売ってその金を山分けするように再三バッルーに要求していた。一度はバッルーの家まで押しかけて来たことがあったが、カリシュマーの活躍で撃退された。そのとき以来、ラミーはカリシュマーを敵視し、付け回すようになっていた。その中で彼は、下宿人四人の秘密を知ってしまう。

 一方、四人組の方もバッルーをこれ以上騙し続けることを潔しと思わなかった。まずはカルパナーに真実を打ち明けた。そしてその後バッルーとスウィーティーにも本当のことを話そうとしていた。ところが、それよりも先にラミーが二人に真実を告げ口してしまう。ラミーを裏で操るマフィアのドンまでバッルーの家にやって来ていた。裏切られたバッルーは、ショック状態のまま、レストランを売り払う契約書にサインしてしまう。だが、四人組はそれを許さず、契約書を持って逃げ出す。ラミー、マフィア、バッルーらに加え、四人の恋人たちもその逃亡と追いかけの列に加わる。そのまま一行は演劇「Mughal-e-Azam」公演中の公民館に突入し、演劇をメチャクチャにする。最後にラミーやマフィアたちは警察に逮捕される。

 四人の活躍によってレストランは助かり、バッルーも彼らを許さざるをえなくなる。こうして四人は、各々の恋人と共にバッルーの家に住むことになったのだった。

 下宿先を探す男たちが、大家さんの出す条件をクリアするために爆笑モノのトンチを働かすというプロットは、昨年のスマッシュヒット映画「Dostana」(2008年)から着想を得ているのではないかと思う。「Dostana」ではテナントの条件として女性オンリーを掲げていたため、主人公の男二人組はゲイ・カップルということにしてその部屋に住むことに成功する。一方、「Paying Guests」では、大家さんは条件として既婚のカップル・オンリーを掲げていたため、主人公の男四人組の内の二人が女装をして、二組の既婚のカップルということにして、大家さんから住む許可を得る。ちなみに、インドでは、大家さんが男性オンリー、女性オンリー、カップル・オンリーなどの条件をテナントに対して一方的に掲げることはしごく一般的である。また、大ヒットコメディー映画「Golmaal」(2006年)も似たようなプロットの映画であり、影響を受けているかもしれない。

 ヒーロー4人、ヒロイン4人、その他往年のコメディアン俳優を脇役に配置した大人数型のキャスティングや、その大勢のキャストが最後で総出演してドタバタ劇を繰り広げる展開は、インド映画界で「コメディーの帝王」と称されるプリヤダルシャン監督のスタイルを彷彿とさせる。本作の監督はパリトーシュ・ペインターという名前で、今回がデビュー作であるが、おそらくプリヤダルシャン映画をよく研究したのだと思われる。大人数キャスト映画の欠点に、誰が誰だか分からなくなるというものがあるのだが、「Paying Guests」に関しては比較的分かりやすく、混乱はなかった。インドのコメディー映画は、各シーンは爆笑できるのだが、それらをうまくつなげられず、一貫したストーリー映画として完成度の低いものも多い。「Paying Guests」ではそういう混沌さもなかった。よって、コメディー映画としてよくまとまっていたと言える。クライマックスは何と言っても最後の演劇「Mughal-e-Azam」シーンである。これは、ムガル朝第3代皇帝アクバルとその息子サリーム(後のジャハーンギール)の確執や、サリームとアナールカリーの恋愛を描いた伝説的インド映画「Mughal-e-Azam」(1960年)をベースにした演劇で、最初は真面目に演じられているのだが、途中で映画のメインキャストたちが乱入して来ることによって、スパイダーマン、怪傑ゾロ、「Sholay」(1975年)の悪役ガッバル・スィンやタークル、「Umrao Jaan」(1981年/2006年)のウムラーオ・ジャーン、「Shahenshah」(1988年)でアミターブ・バッチャン演じるシェヘンシャーなどの映画キャラクターやら、プーラン・デーヴィーやウサーマ・ビン・ラーディンなどの実在の人物やら、「ラーマーヤナ」の悪役ラーヴァンやら、人気TVドラマ「Kyuunkii Saas Bhi Kabhi Bahu Thi」でスムリティ・イーラーニー演じるトゥルスィーやらが登場するドタバタ劇に変貌してしまう。だが、コメディー映画「Maan Gaye Mughal-e-Azam」(2008年)で似たようなネタが見られたため、二番煎じの印象は否めなかった。ただ、観客には受けていたようである。

 女装ネタはヒンディー語コメディー映画の十八番で、過去にも多くの映画で男性主人公の女装を中心とした傑作コメディー映画が作られて来ている。女優の男装モノもある。今思い付くもので印象深いのは「Style」(2001年)だ。劇中でも「Apna Sapna Money Money…?」(2006年)の中で女装したリテーシュ・デーシュムクの映像が使われていた。女装コメディーでは、普通に見たら男だと丸わかりなのだが、映画中では暗黙の了解でそれがばれず、爆笑を引き起こす。定番とは分かっていても、女装によるコメディーはやはり面白く、笑わずにはいられなかった。特に、バーヴェーシュが女装したカリシュマーが「妊娠」してしまう下りは大爆笑であった。単なる笑いだけでなく、それがその後のストーリーにも影響を与えており、よく練られたコメディー脚本だったと言える。ちなみに、女装時の偽名はカリシュマーとカリーナーだが、これは言うまでもなく、カプール姉妹の名前から取られている。

 主人公は4人だが、主役格はシュレーヤス・タルパデーである。彼は芸幅の広い才能ある俳優だが、最近はコメディー映画への出演やコミックロールの演技が多く、すっかりその路線が板に付いている。今回は妖艶な女装姿も披露し、ますます磨きがかかっていた。ジャーヴェード・ジャーフリーも独特な笑いが取れる俳優で、彼も女装に挑戦。シュレーヤスに比べたら全く女に見えなかったが、そこはご愛敬であろう。アーシーシュ・チャウダリーは間違って映画俳優になってしまったような存在であるが、今回は許せるレベルであった。ヴァトサル・シェートは「Taarzan」(2004年)や「Heroes」(2008年)に出演していた若手俳優。ハンサムな顔をしているのだが、今回は完全におちゃらけた役を演じており、ハンサム路線を諦めたのかと思わせられた。

 ヒロインも4人。一時は将来を有望視されながら、不幸にもいまいちパッとしなかった女優たちを安いギャラでかき集めた感じだ。このようなマルチヒロイン映画に出演してしまうと小粒さが際立ってしまうのだが、もはや彼女たちに他のオプションは残されていなかったのだと思われる。なりふり構わず、と言ったところか。特にネーハー・ドゥーピヤーの没落振りに心が痛む。

 最近めっきり寡作がとなってしまったコメディアン俳優ジョニー・リーヴァル。僕がインド映画の世界に入った頃は、見る映画見る映画彼が出ていたように記憶しているのだが、いつの間にかスクリーンから遠ざかっている。だが、コメディーの切れは失われておらず、久し振りに彼のギョロ目やマシンガントークを見られて良かった。

 音楽はサージド・ワージド。コメディー映画なのでノリのいい曲が多かったが、耳に残るものはほとんどなかった。

 舞台はタイのパタヤーで、実際に大部分のシーンがパタヤーでロケが行われていた他、バンコクも出て来た。だが、タイを舞台にする意義があまり感じられなかった。インドが舞台でも特に問題なかったのではないかと思う。

 「Paying Guests」は、過去のヒット映画のいいとこ取りをしながらも、全体としてはこぢんまりとまとまっていまっている感じではあるが、普通に楽しめるコメディー映画である。まだまだ映画館にはヒンディー語映画が不足しているため、来週公開の「New York」までの時間稼ぎとして観ておいても損はないだろう。だが、無理して観る必要のある映画ではない。