8×10 Tasveer

2.5

 2008年まで、出演映画をかなりの高確率でヒットさせ、飛ぶ鳥を落とす勢いで躍進して来たスター男優アクシャイ・クマール。彼の2009年はとりあえず「Chandni Chowk to China」(2009年)という失敗作で始まり、好ましいものではなかった。2009年4月3日、今年2番目の主演作となる「8×10 Tasveer」が公開された。アクシャイの快進撃は2009年も続くのか、試金石となる一作である。

 また、この映画はナーゲーシュ・ククヌール監督の作品でもある。「Hyderabad Blues」(1998年)や「Iqbal」(2005年)で知られた、ヒンディー語映画界では新進気鋭の映画監督であるが、僕は個人的に高く評価して来なかった。それでも彼の映画を見続けるのは、いつか彼の作品の良さが分かるときが来るのではないかと期待しているからである。

 さて、ナーゲーシュ・ククヌールとアクシャイ・クマールの取り合わせは吉と出ただろうか?

監督:ナーゲーシュ・ククヌール
制作:シャイレーンドラ・スィン
音楽:サリーム・スライマーン、ニーラジ・シュリーダル、ボヘミア
歌詞:イルファーン・スィッディーキー、サミール、ボヘミア
出演:アクシャイ・クマール、アーイシャー・ターキヤー、シャルミラー・タゴール、ギリーシュ・カールナード、ベンジャミン・ギラーニー、アナント・マハーデーヴァン、ルシャード・ラーナー、ジャーヴェード・ジャーフリー
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 カナダで森林レンジャーEPSを経営するジャイ・プリー(アクシャイ・クマール)は、写真の中に入り込み、それが写されたときの様子を知る特殊能力を持っていた。彼は滅多にその力を使わなかったが、人助けのためには使用していた。ジャイには、シーラー・パテール(アーイシャー・ターキヤー)というガールフレンドがいた。

 あるとき、ジャイの父親ジャティン・プリー(ベンジャミン・ギラーニー)が急死する。ジャティンは実業家で、一人息子のジャイに会社を継いでもらいたいと考えていたが、ジャイはビジネスには全く関心がなかった。ジャティンは、死ぬ直前にもジャイに会いに来ていたが、ジャイは彼を冷たく追い返していた。ジャティンは、ボートから転落して心臓発作を起こして死亡したとされていた。その場には、母親のサーヴィトリー(シャルミラー・タゴール)、叔父のスンダル(アナント・マハーデーヴァン)、重役のアディト(ルシャード・ラーナー)、弁護士のアニル・シャルマー(ギリーシュ・カールナード)もいた。

 父親の遺言に従い、遺産は全てサーヴィトリーに託されることとなった。ジャイは元から遺産を期待していなかったので何とも思わなかった。だが、そこへハビーブッラー・パーシャー、通称ハッピー(ジャーヴェード・ジャーファリー)という奇妙な探偵が現れ、父親は事故死したのではなく、殺されたのだと言い出す。最初ジャイは彼を相手にしない。だが、父親の死の直前に撮影された写真が存在するのを知り、写真に入り込む特殊能力を使って死の真相を確かめたところ、確かに奇妙な点があった。その結果、叔父のスンダルが父親に薬を飲ませていたことが分かる。だが、スンダルはその後、自殺しているのが発見される。

 一見事件は解決したかのように思えたが、ジャイとシーラーが黒塗りの自動車にひき殺されそうになるという事件があり、まだ事件に関与した人物が存在することが分かる。また、ジャイは母親とアニルが抱き合っているところを目撃してしまう。ジャイには誰が犯人だか分からなくなる。そこでジャイは、もう一度特殊能力を使い、父親が死ぬ直前の様子を調査する。それによって、アディトも殺害に関与していたことが発覚する。

 特殊能力を使って衰弱していたジャイは、アディトに殺されそうになるが、ハッピーの活躍により何とか危機を脱する。だが、アディトには逃げられてしまう。今度はアニルから、母親が父親の遺産を全額EPSに寄付するという話を聞き、ジャイは母親の命が危ないと直感し、駆けつける。案の定、そこには黒幕の男が来ており、母親を刺したところだった。幸い、母親の命に別状はなかった。

 ジャイは、母親がつぶやいた言葉を頼りに、家の屋根裏部屋を調べる。そこからショッキングな写真が出て来る。それは、ジャイに双子の弟がいるという新事実を示すものであった。また、ジャイが特殊能力を身に付けた理由は、弟を失った悲しみであったこともこのとき分かる。両親はジャイの精神を刺激しないために弟の形見を全て片付け、カナダへ移住し、弟が最初からいなかったように装ったが、ジャイの潜在意識の中では常に何かの欠乏が訴えられていたのだった。

 ジャイは、何か見逃した部分がないか確かめるため、もう一度写真に入り込むことを決める。それによって、父親が殺されたとき、ボートにはもう一人の人物が乗っていたことが分かる。それが黒幕の男であった。ところが、ジャイが特殊能力を使っている間に、ジャイのところに黒幕の男がやって来て、写真を燃やしてしまう。写真に入り込んでいるときにその写真が消滅すると、ジャイは二度と現実世界に戻って来られなくなるのだった。そしてその男は、ジャイと瓜二つの双子の弟ジート(アクシャイ・クマール)であった。さらに、ジートと一緒にいたのは、ジャイの婚約者であるはずのシーラーであった。実はシーラーはジートの恋人であり、ジートをジャイと入れ替わらすためにジャイに近付き、チャンスを窺っていたのであった。

 だが、間一髪でジャイは写真から抜け出していた。だが、ピンチには変わりなかった。その絶体絶命の危機を救いに来たのはやはりハッピーだった。しかし、彼は二人のジャイを見て戸惑う。その隙にハッピーはシーラーに刺されて殺されてしまう。

 ジャイは手足を鎖で縛られ、夜中にボートから湖中へ突き落とされた。だが、その前に突き落とされたハッピーの死体から銃を見つけ、それによって鎖をほどき、反撃に撃って出る。ジャイはシーラーを人質に取ってジートと交渉する。もう一度幸せな家族に戻るために。ジートはその言葉に心を動かされるが、シーラーはジャイを殺すように言う。結局、ジートはシーラーを撃ち、シーラーの撃った弾がジートを打ち抜いた。

 ナーゲーシュ・ククヌール監督と言えば、従来のヒンディー語映画とは異なったテーマや手法の映画を作ることで知られている映画監督である。その彼が、「8×10 Tasveer」において、得意とするマルチプレックス向けクロスオーバー映画の手法を踏襲しながらも、かなり娯楽に徹したサスペンス映画に挑戦したことは新鮮な驚きであった。主人公には、写真を通して過去を見る特殊能力が備わっている。それはちょうど、先日公開された「Aa Dekhen Zara」(2009年)の逆である。だが、ストーリーをその特殊能力中心に持って行かずに、むしろ父親殺害の犯人を追うサスペンスの部分を主軸とし、その特殊能力はあくまでサイドにキープしたところに、この作品のユニークさがあった。しかも、特殊能力が備わった理由と、劇中に起こる殺人事件の黒幕とが関連付けられており、結果としてまとまりのある作品になっていた。

 もちろん、サスペンスの部分のみに注目すると、真犯人が当初登場する人物の中に含まれておらず、ルール違反ということになる。だが、冒頭において、ジャイの子供の頃の記憶が伏線として提示されており、全く見当外れの脚本とも言えない。ジャイの持つ特殊能力とのバランスによって、この作品はひとつのまとまりある娯楽映画として成り立っていた。

 しかし、映画から登場人物がインド人である必然性が全く感じられず、インド映画としては好ましくない進化の方向だとケチを付けることもできるだろう。映画の中でインドの要素が登場したのは、父親の遺体の司法解剖が宗教的理由で拒否されたことと、遺灰が湖に流されたことくらいである。

 また、映画を最後まで見終わってから、いちいち思い返していくと、合点の行かない部分もいくつか思い付く。例えば、中盤でジャイとシーラーが黒塗りのジープにひき殺されそうになるシーンがあるが、もしそれがジートの仕業だとすると、彼の恋人であるシーラーまで傷付けようとする必要性があったのか、疑問である。

 アクシャイ・クマールは、得意のアクションを織り交ぜながら、ダブルロールにも挑戦し好演していた。アーイシャー・ターキヤーはヒロインと思いきや悪役で、終盤には般若の形相で殺人を犯すシーンもある。先日アブー・アーズミーという実業家と結婚したため、クレジットはアーイシャー・ターキヤー・アーズミーとなっていた。ジャーヴェード・ジャーフリーは今回も変なしゃべり方をする変な役で、映画の笑いを一手に引き受けていた。相変わらず彼の台詞は聞き取りにくい。ボーパール弁らしいが。他に、劇作家ギリーシュ・カールナードや往年の女優シャルミラー・タゴールが出演していたことが特筆すべきである。

 音楽はサリーム・スライマーンなど。挿入歌はほとんどなく、エンディングのクレジットロールでボヘミアの「I Got The Picture」のみがキャッチーな曲となっている。この曲ではナーゲーシュ・ククヌール監督も一瞬ながら登場する。

 「8×10 Tasveer」は超能力サスペンスとでも呼ぶべき特殊なジャンルの作品だが、本筋であるサスペンスの部分は一応よく練られており、十分楽しむことができる。ただ、インドらしさに欠ける点が惜しく、典型的インド映画を求める人にはあまり勧められない。


https://www.youtube.com/watch?v=HCVwvG4kjoY