Luck by Chance

2.5

 ヒンディー語映画界では、映画産業の様々な側面を題材にした映画がコンスタントに作られている。「Om Shanti Om」(2007年)や「Khoya Khoya Chand」(2007年)は過去や現在のヒンディー語映画界を舞台にしており、その典型例であるが、その前にも「Main Madhuri Dixit Banna Chahti Hoon」(2003年)のような、スターになることを夢見てムンバイーにやって来た田舎者の苦闘を題材にした物語はいくつも作られて来たし、「Woh Lamhe…」(2006年)のように、実在の女優の人生をベースにして作られた映画もある。過去の映画や映画音楽のパロディーはもっと多い。

 2009年1月30日に公開された新作ヒンディー語映画「Luck By Chance」は、「Main Madhuri Dixit Banna Chahti Hoon」タイプの作品で、無名の俳優たちによる映画界での苦闘がメインテーマである。監督はゾーヤー・アクタル。ジャーヴェード・アクタルの娘かつファルハーン・アクタルの姉である。彼女にとってこれが監督デビュー作となる。ジャーヴェードが作詞と台詞、ファルハーンが主演と制作を務め、さらにジャーヴェードの現在の妻シャバーナー・アーズミーが特別出演、アクタル一家のホームプロダクション的映画となっている。さらに、ジャーヴェード・アクタルの顔の広さのおかげであろう、「Om Shanti Om」レベルの豪華な特別出演スター陣が実現しており、目を奪われる。

監督:ゾーヤー・アクタル(新人)
制作:リテーシュ・スィドワーニー、ファルハーン・アクタル
音楽:シャンカル・エヘサーン・ロイ
歌詞:ジャーヴェード・アクタル
振付:ヴァイバヴィー・マーチャント、ラージーヴ・スルティー、メーガー・ナールカル
衣装:アルジュン・バスィーン、アパマー・チャンドラ
出演:ファルハーン・アクタル、コーンコナー・セーンシャルマー、リシ・カプール、ディンプル・カパーリヤー、イーシャー・シャルワーニー、サンジャイ・カプール、アリー・カーン、ジューヒー・チャーウラー(特別出演)、リティク・ローシャン(特別出演)
その他の特別出演:シャバーナー・アーズミー、ジャーヴェード・アクタル、アーミル・カーン、シャールク・カーン、アクシャイ・カンナー、カラン・ジョーハル、ラーニー・ムカルジー、アビシェーク・バッチャン、カリーナー・カプール、ヴィヴェーク・オーベローイ、ディヤー・ミルザー、ジョン・アブラハム、ランビール・カプール、ボーマン・イーラーニー、サウラブ・シュクラー、マック・モーハン、アヌラーグ・カシヤプなど
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 ヴィクラム・ジャイスィン(ファルハーン・アクタル)はスターになることを夢見てデリーからムンバイーにやって来た若者であった。ヴィクラムは、同じくカーンプルから女優を目指してムンバイーにやって来て、過去3年間チャウダリー(アリー・カーン)という小物プロデューサーの下で下積みをする女優の卵ソーナー(コーンコナー・セーンシャルマー)と出会い、恋仲となる。

 その頃、かつての大物プロデューサーのロミー・ローリー(リシ・カプール)は、息子のランジート・ローリー(サンジャイ・カプール)を監督に据えて新作映画の制作を計画していた。ヒロインには、往年の大女優ニーナー・ワーリヤー(ディンプル・カパーリヤー)の娘ニッキー(イーシャー・シャルワーニー)の出演が決定していたが、主演をするはずだったザファル・カーン(リティク・ローシャン)は、カラン・ジョーハルの新作出演を選んでロミー・ローリーの映画への出演を蹴ってしまう。そこでロミー・ローリーはヒーローを探さなければならなくなった。

 偶然ニーナーと面識のあったヴィクラムは、彼女の後押しもあり、オーディションの結果、幸運なことにロミー・ローリーの新作映画のヒーローに抜擢される。一方、ソーナーはチャウダリーの下で下積みをしていてもいつまでも主演女優にはなれないことに気付く。だが、彼女はヴィクラムの成功を祝う。

 映画の撮影が始まり、避暑地でロケが行われた。ニッキーはヴィクラムに惚れるようになり、彼を誘惑するようになる。ヴィクラムもその誘惑に乗ってしまう。ニーナーは二人に必要以上に近寄らないように注意するが、映画の公開前に、ヴィクラムとニッキーが恋仲にあること、彼に過去にガールフレンドがいたこと、そしてヴィクラムは成功を掴むためにニッキーを利用したことなどがスキャンダルとして世間に流れてしまう。それを知ったニッキーは傷つき、ソーナーはヴィクラムと縁を切る。だが、ヴィクラムはシャールク・カーンから、成功に酔わずに誠実さを失わないことの大切さを説かれ、彼女に素直に謝る。しかし、ソーナーも自分の夢を追うことを諦めていなかった。ソーナーは彼を許すが、二人の仲は前のようには修復されなかった。

 ロミー・ローリーの映画「Dil Ki Aag(心の炎)」が公開された。映画は大ヒットとなり、ヴィクラムは一躍スターの仲間入りする。映画の成功を知ったニーナーはニッキーに、ヴィクラムと連絡を取るように言う。だが、大人の世界の動きをまだ理解しないニッキーは母親の手の平返しをすぐには受け容れられなかった。

 ヴィクラムともチャウドリーとも袂を分かったソーナーは、テレビドラマ界で名が売れるようになった。ソーナーはかつて、「成功も失敗も自分で選ぶものだ」と言うヴィクラムの言葉を思い出しながら、毎日の生活を楽しんでいた。

 特別出演のスター陣は今までないほど豪華。特に、シャールク・カーン、アーミル・カーン、リティク・ローシャンが同じ映画に登場するようなことは今までなかったのではなかろうか?伝説的映画「Sholay」(1975年)でサーンバーを演じたマック・モーハンが特別出演し、有名な「プーレー・パチャース・ハジャール(丸々5万ルピー)」という台詞をしゃべっていたのも面白かった。ヒンディー語映画産業の問題にも触れられていた。親の七光りがパスポートのように通用し、つまり二世三世俳優が望む望まないに関わらず映画界に跋扈し、一方で才能と野心を持ちながらバックグランドを持っていない若者たちが才能を発揮する機会を与えられないヒンディー語映画界の現状はよく描かれていたと思う。だが、映画の展開はありきたりで、ストーリーに起伏も少なく、非常に薄口の映画だという印象を受けた。

 この映画で一番疑問に思ったのは、主役は誰なのかということである。映画の冒頭に登場するのはコーンコナー・セーンシャルマーであるが、映画の中盤は明らかにファルハーン・アクタル中心で進んで行く。だが、最後ではコーンコナー・セーンシャルマーがいかにも主役のように「自分で運命を切り開いていくことの重要さ」や「好きなことをして生きることの楽しさ」などをナレーションして終わって行く。女性のゾーヤー・アクタル監督がストーリーを書いたようなので、おそらくコーンコナー演じるソーナーが元々主役だったのではないかと予想するが、キャスティングの段階で弟のファルハーンを相手役として起用することになったために、彼の出演シーンを必要以上に増やしてしまい、このように不均衡な作品になってしまったのではなかろうか。おかげで映画の最後で提示される人生訓も不透明で説得力のないなものとなってしまっていた。

 ファルハーン・アクタルは元々「Dil Chahta Hai」(2001年)などの監督として名を知られていたが、最近は俳優業にも進出しており、「Rock On!!」(2008年)に続き主演を務めた。果たして彼にとってあくまで監督の方が本業なのか、それとも俳優も続けて行く気マンマンなのか分からないが、はっきり言って俳優としての彼は決して一流とは言えない。特に彼は声がよくないので、映画の雰囲気をうまく作ることができない。俳優業は趣味程度にしておいて、監督に集中した方がいいのではないかと思う。

 コーンコナー・セーンシャルマーも立ち位置がよく分からない女優である。彼女はあくまで演技によってヒンディー語映画界で受け容れられており、特に美人だったりスタイルがいいわけでもないと思うのだが、どうも何か彼女自身誤解している部分があるようで、時々美人向けの役を演じようとしているように感じる。コーンコナーは「Aaja Nachle」(2007年)で演じたようなブス役が一番似合っている。「Luck By Chance」では売れない女優役なのだが、もっといかにも美人な女優の方がしっくり来たのではなかろうか。ミスキャスティングに感じた。

 むしろこの映画で見所だったのは、脇役に当たるリティク・ローシャンとイーシャー・シャルワーニーの共演である。リティクのダンスはヒンディー語映画界はおろかプロと比べても遜色ないレベルであり、イーシャーの方はプロのダンサーから女優に転向した経歴を持っている。つまり、現在のヒンディー語映画界でもっとも踊りのうまい男女二人が共演し、しかも一緒に踊りを踊っているのである。テレビCMで二人が共にダンスをしたことはあるが、映画では初めてのはずである。二人の共演はダンスシーン「Baawre」で見ることができる。残念ながら二人のダンスを中心に据えたカメラワークになっていないが、それでも二人の軽快な身体の動きを十分に堪能できる。リティクは久し振りに等身大の演技。イーシャーはなぜかアミーシャー・パテールと同様にわがままな女の子役が板に付いてしまい、可哀想だが、彼女には誰にも真似できないダンス力があるので、今後の挽回を期待する。

 他に、ほぼ自分とも言える役を演じたディンプル・カパーリヤーの存在感が圧倒的であった。

 音楽はシャンカル・エヘサーン・ロイ。前述の「Baawre」がキャッチーでもっとも耳に残る。作詞家のジャーヴェード・アクタルが娘の監督デビュー作のために渾身の力を込めて書いた歌詞なので、「Pyaar Ki Daastaan」や「O Rahi Re」など、いい歌詞の曲が多い。

 ちなみに、映画中、リティクが任天堂Wiiの「Wii Sports」のテニスをして遊んでいるシーンがあった。また、コーンコナーが携帯ゲーム機で遊んでいるシーンもあったのだが、どの機種なのかは判別できなかった。

 「Luck By Chance」は、豪華特別出演スター陣が見所の映画である。特に親が監督とかスターとかではない場合、映画界でデビューするのがいかに大変か、いかに運頼みか、ということを垣間見るにはいい作品だが、映画としての完成度はものすごく高いわけではない。あくまで飾りを楽しむ作品である。