Roadside Romeo

3.5
Roadside Romeo
「Roadside Romeo」

 2007年からハリウッドのプロダクションがインド映画に出資する新たな潮流が生まれている。ソニー・ピクチャーズの「Saawariya」(2007年)、ワーナー・ブラザーズの「Saas Bahu aur Sensex」(2008年)に続き、2008年10月24日にはウォルト・ディズニー・ピクチャーズがインドの大手映画コングロマリット、ヤシュラージ・フィルムスと共同で制作したフルCGアニメ映画「Roadside Romeo」が公開された。ハリウッドのアニメ映画の伝統に倣って、「Roadside Romeo」でもヒンディー語映画界の人気スターが主要キャラの声を担当している。

監督:ジュガル・ハンスラージ
制作:アーディティヤ・チョープラー
音楽:サリーム・スライマーン
歌詞:ジャイディープ・サーニー
振付:ゴースワーミー・ラージーヴ、ミニ・ジョニー、ディーパク・スィン
声優:サイフ・アリー・カーン、カリーナ―・カプール、ジャーヴェード・ジャーフリー、ヴラジェーシュ・ヒルジー、タナーズ・イーラーニー、スレーシュ・N・メーナン、キクー・シャールダー、サンジャイ・ミシュラー
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 ロミオ(声:サイフ・アリー・カーン)は大富豪の家で飼われていた犬だったが、飼い主が海外へ引っ越してしまい、突如ムンバイーをさまよう野良犬に転落してしまった。早速ロミオは道端で4匹のチンピラにからまれる。野良犬のグル(声:ヴラジェーシュ・ヒルジー)、ヒーロー・イングリッシュ(声:キクー・シャールダー)、インターバル(声:スレーシュ・N・メーナン)と、野良猫のミニ(声:タナーズ・イーラーニー)である。だが、ロミオは彼らのヘアスタイルをセットすることで仲間として認められる。それだけでなく、お金(犬の世界では骨)を稼ぐため、美容サロンを開くことにした。

 ロミオのサロンは大当たりで、瞬く間に大金を稼いだ。ところがそこへ、この界隈を牛耳るマフィア犬チャーリー・アンナ(声:ジャーヴェード・ジャーファリー)の手下のチャイヌー(声:サンジャイ・ミシュラー)がショバ代を徴収しにやって来る。しかし、チャーリー・アンナの怖さを知らないロミオはチャイヌーを追い返してしまう。グルたちは大人しくショバ代を払うべきだと主張するが、サロンで儲けたお金は全て土管の家の装飾に費やしてしまい、1銭も残っていなかった。チャーリー・アンナからは絶対に逃げられないことを知っていたグルたちは、謝罪しに行くことを決める。

 チャーリー・アンナは、親衛隊のチャーリーズ・エンジェルズに命じてグルたちを縛り上げるが、そこへロミオがやって来る。ロミオは予めチャーリー・アンナのアジトの金庫から骨を盗み出しており、それをショバ代として収めた。ショバ代が手に入ったことで今回はお咎めなしで済む。

 ところで、ロミオは1匹の雌犬に恋していた。彼女の名前はライラー(声:カリーナー・カプール)。ライラーはムーンライト・ナイトクラブのシンガーであった。ロミオはライラーに愛の告白をするが、彼女は条件付きの返答を返す。もし、ムーンライト・ナイトクラブのステージの上で一緒に踊ったら、彼女はロミオを恋人として認めるとのことだった。ロミオはグルたちと共に喜び勇んでムーンライト・ナイトクラブへ向かう。だが、ライラーはチャーリー・アンナが片思いをしている犬で、誰も彼女に手を出そうとしなかった。この夜もムーンライト・ナイトクラブにはチャーリー・アンナが来ていた。グルたちはロミオを止めるが、ロミオはステージの上に上がり、ライラーと踊り出す。怒ったチャーリー・アンナはロミオを捕まえる。

 チャーリー・アンナはロミオを「ジ・エンド」しようとするが、ロミオはチャーリー・アンナとライラーの恋のキューピッドになると約束して解放してもらう。だが、そうは言ったもののロミオはライラーに惚れ込んでおり、そんなことはとてもできない。悩んでいると、ロミオのサロンにライラーが髪を切りにやって来る。やはりロミオはライラーへの恋を抑えることができず、彼女をそのままムーンライト・ナイトクラブまで送って行く。去り際にライラーは、次の満月の晩に初めて出会った屋根の上でキスを許すと言う。ロミオはその言葉に飛び上がるものの、そこへチャイヌーが現れ、チャーリー・アンナとの約束はどうなっているのか聞く。ロミオは、明日デートの約束を取り付けたとデタラメを言う。

 ロミオは、野良猫のミニをライラーに変装させ、チャーリー・アンナとデートをしてもらう。そこでライラーになりすましたミニは、チャーリー・アンナをボロクソにけなす。その言葉にショックを受けたチャーリー・アンナは、ロミオを捕まえてどうなっているのか問い詰める。ロミオは、ライラーが次の満月の晩にもう一度デートすると言っていたとまたもデタラメを言って何とか解放してもらう。

 満月の晩、ロミオはライラーと出会う。ロミオは今までのこと全てを打ち明けようとするが、ライラーは彼に何もしゃべらせず、キスをする。だが、その場面をチャイヌーに見られてしまう。また、ライラーはロミオが彼女をチャーリー・アンナの恋人にしようとしていたのを知って彼と絶交してしまう。もはや全てがメチャクチャになってしまった。ロミオ、グル、ヒーロー・イングリッシュ、インターバル、ミニの5人は一目散に逃げ出す。ロミオはチャーリー・アンナに捕まりそうになるが、そこへムニシパリティー(市局)のトラックがやって来る。ムニシパリティーは野良犬を捕まえてどこかへ連れ去ってしまうため、野良犬たちから恐れられていた。チャーリー・アンナはムニシパリティーに捕まりそうになるが、ロミオが彼を助け、代わりに捕まってしまう。

 チャーリー・アンナは、自分を助けたロミオを見直し、今度は彼を救おうと全力疾走する。チャーリー・アンナはトラックの檻の鍵を開け、ロミオを危機一髪で救い出す。だが、ライラーに振られてしまったロミオは、もはやこの町に住み続ける気がしなかった。彼はどこか他の町へ立ち去ろうとする。

 列車に乗って町を去ろうとするロミオを、チャーリー・アンナたちが止める。チャーリー・アンナは全てをライラーに説明し、誤解を解いてくれていた。そしてライラーもそこに来ていた。こうして、ロミオとライラーはめでたく結ばれたのであった。

 日本人はおそらく世界でもっともアニメに対してうるさい国民であろう。日本ほどアニメが人格形成の中に浸透している国はなく、アニメに対する目も自然と厳しくなる。インドでは近年俄にアニメ産業が隆盛しており、2D/3Dともに様々なアニメ映画が制作されて来ている。通常の実写映画の中にアニメが挿入されるということも増えて来た。今まで公開されたインド製アニメ映画の中からは、「Hanuman」(2005年)などのヒット作も生まれている。だが、やはり日本人の目からするとそれらはまだまだ未熟であり、金を出して見るレベルではないというのが正直な感想である。しかし、この「Roadside Romeo」は、世界最高レベルとまでは行かないものの、かなり高い水準をクリアしているフルCGアニメ映画だと断言することができる。

 はっきり言って、「Roadside Romeo」の主要キャラの描き込みや背景などはハリウッドのアニメ映画レベルである。脇役の描写に多少手抜きが見られ、キャラの動きもまだ不自然な部分があったが、それでも今までインドで制作された全てのアニメ映画の中で技術的にもっとも高いレベルを実現していることには違いない。さらに面白いのは、インドによくある町並みが3Dで見事に再現されていたことである。インドの路地の汚なさがあからさまに描き込まれており、インド製アニメとしてのアイデンティティの確立にも成功している。アニメを担当したのはターター・エレクシーである。

 また、台詞の多くがムンバイー特有のタポーリー・バーシャーで構成されており、それが映画にさらにインドらしさを加えていた。悪役のチャーリー・アンナの声は独特の台詞回しで人気のジャーヴェード・ジャーフリーが担当してるが、この映画は正に彼の独断場であった。サイフ・アリー・カーンやカリーナ―・カプールも、自分の個性をうまくキャラに反映させて声を入れていた。

 「Dilwale Dulhania Le Jayenge」(1995年)や「Dhoom: 2」(2006年)など、過去のヤシュラージ・フィルムスのヒット映画のパロディーがあちこちに見られたのも、ヒンディー語映画ファンには嬉しい点であった。もちろん、チャーリー・アンナの手下の3匹の雌犬忍者「チャーリーズ・エンジェルズ」は、ハリウッドの同名映画のパロディーである。

 インドのアニメ映画の多くは神話や伝承がベースであるが、「Roadside Romeo」は、現代のインドを舞台にし、しかもインドらしさを醸し出すことに成功した初めてのアニメ映画として意義があると言える。

 「Roadside Romeo」は2時間の子供向け映画であり、ストーリーに複雑なツイストなどはなかったが、大人でも十分に楽しめる映画であった。「Hanuman」あたりからインドのアニメ映画を観て来ている人は、インドのアニメ産業の劇的な進歩を痛感するだろう。