Shaurya

2.0

 最近インド映画のDVDがやたらと安くなった。かつては1枚1,000ルピー以上していたものだが、今では30ルピー前後で手に入るタイトルがたくさん出て来た。はっきり言って音楽CDよりも安い。DVD価格破壊の張本人が、モーゼル・ベア(Moser Baer)というインド企業である。モーゼル・ベアは世界有数の光記憶媒体製造会社だが、最近ホームビデオ販売事業にも進出し、インド映画各種タイトルのホームビデオ販売権を買い取って廉価なVCD・DVDを販売し始めた。これは海賊版撲滅が目的である。海賊版氾濫の原因のひとつはVCDやDVDなどの光記憶媒体の普及にあり、それを製造する企業として責任を果たしている形になっている。そのモーゼル・ベアが今度は映画制作事業にも進出した。その第一弾が「Shaurya」である。本日(2008年4月4日)より公開された。

監督:サマル・カーン
制作:モーゼル・ベア・インディア
音楽:アドナーン・サーミー
作詞:ジャーヴェード・アクタル
出演:ラーフル・ボース、ジャーヴェード・ジャーフリー、ミニーシャー・ラーンバー、ディーパク・ドーブリヤール、ケー・ケー・メーナン、スィーマー・ビシュワース
備考:PVRアヌパム4で鑑賞。

 2007年5月8日、カシュミール地方でインド陸軍のジャーヴェード・カーン大尉(ディーパク・ドーブリヤール)が上官のヴィーレーンドラ・ラートールを射殺するという事件が起きる。ジャーヴェードは即座に逮捕され、軍法会議にかけられることになった。

 陸軍弁護士のアーカーシュ・カプール少佐(ジャーヴェード・ジャーフリー)は、恋人のナンディニーと婚約したばかりであったが、軍法会議の検察官に任命されてカシュミールへ赴任することになった。続けて、親友の陸軍弁護士スィッダーント・チャウダリー(ラーフル・ボース)もジャーヴェードの弁護士としてカシュミールへ赴任する。

 スィッダーントは陸軍での仕事に満足しておらず、バンジージャンプのインストラクターになることを考えていた。今回の仕事も適当に済まそうとしていた。だが、取材に来たジャーナリストのカーヴィヤ・シャーストリー(ミニーシャー・ラーンバー)が、インド陸軍の英雄ルドラ・プラタープ・スィン准将(ケー・ケー・メーナン)が現場に居合わせたという記事を新聞に掲載してしまったことで、世間の注目を集めてしまう。スィッダーントは本腰で裁判に取り組まなければならなくなった。

 スィッダーントはジャーヴェードやプラタープ准将に会い、現場も訪れ、次第に事件に疑問を感じ始める。また、カーヴィヤもジャーヴェードの母親(スィーマー・ビシュワース)に会ったりして独自の取材を進めていたが、二人は協力して事件に取り組み始める。殺されたラートールの妻に会ったことで、スィッダーントはジャーヴェードの無罪を確信する。だが、証拠がなかった。唯一、現場に居合わせた兵士が何かを知っていそうだったが、彼は行方をくらましてしまう。また、カーヴィヤは国防関係の情報を収集していた疑いを持たれ、逮捕されてしまう。

 だが、行方不明になった兵士はある日スィッダーントを密かに訪れ、事件の真相を明らかにする。ラートールは地元のイスラーム教徒に対し残虐な態度を取っていた。事件の日、彼は無実の村人たちを外に並ばせて、テロの嫌疑をかけて殺害した。しかも少女にまで手をかけようとした。それを見たジャーヴェードは、ラートールを射殺したのだった。

 また、スィッダーントは、ラートールと親しかったプラタープ准将が、イスラーム教徒の使用人に一家を惨殺されるという悲劇に直面し、イスラーム教徒全体に激しい憎悪を抱いていることを突き止める。証人席に呼ばれたプラタープ准将はスィッダーントに誘導されてその憎悪を露にし、事件の新たな側面が明らかになる。プラタープ准将は特定のコミュニティーに対する差別的発言によって逮捕される。

 軍法会議の判決が出た。ジャーヴェードは無罪となり、復職を許された。

 「勇気」という題名や、軍服を着た登場人物から、戦争物の映画かと思ってしまうが、実際は軍法会議を中心にした裁判物の映画だった。主人公は陸軍弁護士という日本人にはあまり馴染みのない職業。インドには軍隊専属の司法職があるようだ。サマル・カーン監督自身が軍隊経験を持っているようで、軍隊内部の描写は非常にリアルである。

 メッセージは明確だった。国家の平和と統合の名の下に特定のコミュニティーをテロリストや危険分子と決め付けて弾圧することに対する批判と、正義のために全てを投げ打って行動する勇気であった。勇気とは人を殺すことではなく、人を守ることにあるとの主張もあった。言い換えれば、国境を守るプラタープ准将の厳しく残忍な勇気と、正義のために上官をも射殺するジャーヴェードの勇気の激突であった。だが、そのメッセージまでの持って行き方は多少強引かつ急ぎすぎで、映画の完成度を損なっていた。

 映画の最大の見所はケー・ケー・メーナンの演技だ。扱いとしては特別出演だが、彼が演じるプラタープ准将は映画の核となっていた。管理ライン(LoC)上でスィッダーントと交わす会話、ディナーの席でスィッダーントに語りかける静かだが力強い言葉、そして軍法会議に出頭したときの態度の豹変振り、全てがゾクゾクする迫力を持っていた。

 ジャーヴェードを演じたディーパク・ドーブリヤールも迫真の演技をしていた。彼は「Maqbool」(2003年)や「Omkara」(2006年)にも出演していたようだが、目に留まったのは本作である。軍人らしく常に背筋をピンと伸ばし、死刑が求刑されている軍法会議に勇気を持って向かう姿は、彼が只者ではないことを表していた。

 コメディアンとしてのイメージの強いジャーヴェード・ジャーフリーもシリアスな役をしっかりと演じていた。今回残念だったのはラーフル・ボースである。ヒングリッシュ映画の申し子ラーフル・ボースは、個人的に注目している俳優の一人なのだが、最近の彼の演技からはミーハー臭が漂う。持ち味を活かせていない気がする。

 ヒロインのミニーシャー・ラーンバーは、急に老けてしまった印象である。「Yahaan」(2005年)でデビューしたときは繊細な顔の作りをした女優と感じたが、今ではただのヒステリックなおばさんになってしまった。だが、演技は悪くなかった。

 舞台はカシュミール地方だが、撮影はヒマーチャル・プラデーシュ州で行われたようだ。本場でロケをしていないことで、カシュミール地方特有の美と緊張感が再現できていなかったと感じた。

 音楽はアドナーン・サーミーだが、印象に残った挿入歌はなかった。

 「Shaurya」は、ケー・ケー・メーナンを初めとした俳優たちの緊迫した演技を楽しむことができるが、全体的な完成度は最高とは言えない。完全に都市中産階級をターゲットにしたシリアスな映画であり、この出来だと興行的には沈没以外ないだろう。