One Two Three

2.5
One Two Three
「One Two Three」

 先週公開された「Race」(2008年)がとても調子いいようだ。「Jodhaa Akbar」(2008年)と共に今年のヒット作の一本に数えられることになるだろう。2008年3月28日には新作ヒンディー語映画「One Two Three」が公開されたが、こちらは低予算のコメディー映画である。

監督:アシュワーニー・ディール
制作:クマール・マンガト
音楽:ラーガヴ・サーチャル
作詞:アーディティヤ・ダール、ムンナー・ディマン
振付:ガネーシュ・アーチャーリヤ
出演:スニール・シェッティー、パレーシュ・ラーワル、トゥシャール・カプール、イーシャー・デーオール、サミーラー・レッディー、ニートゥー・チャンドラ、ウペーン・パテール、タニーシャー、ムケーシュ・ティワーリー、ヴラジェーシュ・ヒルジー、マノージ・パーワー
備考:PVRアヌパム4で鑑賞。

 この物語では、3人のラクシュミーナーラーヤンが登場する。便宜的に1、2、3と数字を振って紹介する。

 2億ルピー相当のダイヤモンドが盗まれた。マフィアのドンは、ダイヤモンドを盗んだポンディチェリーのマフィア、パパ(ムケーシュ・ティワーリー)に刺客を送る。選ばれたのは、駆け出しのマフィア、ラクシュミーナーラーヤン1(トゥシャール・カプール)であった。ラクシュミーナーラーヤンは、宿泊先のホテル、ブルー・ダイヤモンドで、ターゲットの写真を受け取る手はずになっていた。

 サラリーマンのラクシュミーナーラーヤン2(スニール・シェッティー)は、ボスの命令に従って、ポンディチェリーに行くことになった。与えられた任務は、ビンテージカーの商談をまとめることであった。ラクシュミーナーラーヤン2は、宿泊先のホテル、ブルーダイヤモンドで、購入すべき自動車の写真を受け取る手はずになっていた。

 チャーンドニー・チョークで下着を売って生計を立てるラクシュミーナーラーヤン3(パレーシュ・ラーワル)は、息子の依頼に従ってポンディチェリーへ行くことになった。ポンディチェリーに住む下着デザイナーの下着を見るためであった。ラクシュミーナーラーヤン3は、宿泊先のホテル、ブルーダイヤモンドで、下着デザイナーの写真を受け取る手はずになっていた。

 こうして3人のラクシュミーナーラーヤンは、同じ日にポンディチェリーのホテル、ブルー・ダイヤモンドに宿泊することになってしまった。レセプションが混乱したため、それぞれに違う写真が手渡されてしまう。まず到着したのはラクシュミーナーラーヤン3であった。彼は下着デザイナーの写真を受け取るはずだったが、受け取ったのはビンテージカーの写真だった。だが、その写真には水着を着たディーラーのライラー(サミーラー・レッディー)の姿も写っており、その女性に会うのだと理解した。次に、ラクシュミーナーラーヤン2は、パパの写真を受け取った。これはラクシュミーナーラーヤン1が受け取るはずの写真だった。だが、ちょうどパパは自動車に乗っていたため、ラクシュミーナーラーヤン2はその自動車を購入すればいいのだと理解した。一方、ラクシュミーナーラーヤン1は、下着デザイナーのジヤー(イーシャー・デーオール)の写真を受け取った。彼はこの女性を暗殺すればいいのだと理解した。

 ところで、ダイヤモンドは実はライラーのディーラーで働くチャンドゥー(ウペーン・パテール)とチャーンドニー(タニーシャー)が持っていた。だが、彼らはほとぼりが冷めるまでダイヤモンドを隠しておこうと、ショールームに展示してあったビンテージカーのオイルタンクの中にダイヤモンドを入れた。だが、そのビンテージカーこそ、ラクシュミーナーラーヤン2が購入するはずのものだった。既にその自動車が売約済みであることを知った二人は、購入者がショールームを訪れられないようにしようと画策するがなかなかうまくいかない。

 ラクシュミーナーラーヤン1は、ジヤーの経営するレストランを訪れた。ジヤーはラクシュミーナーラーヤン1のことを下着のディーラーだと勘違いし、自分のデザインした下着を渡す。一方、ラクシュミーナーラーヤン1はそれをダイヤモンドだと勘違いする。また、ジヤーが置かれた境遇に同情したラクシュミーナーラーヤン1は、彼女を殺すのではなく、守ることを決意する。そこへボスがやって来る。ボスはラクシュミーナーラーヤン1が全く仕事をしていないことを知って絶望する。このとき初めて間違った写真を受け取っていたことに気付いたラクシュミーナーラーヤン1は、ボスと共にパパの隙を見て暗殺しようとする。

 ラクシュミーナーラーヤン2は、パパのアジトを訪れる。パパはラクシュミーナーラーヤンという名の刺客が送られて来ることを事前に察知しており、ラクシュミーナーラーヤン2を捕まえて拷問する。ラクシュミーナーラーヤン2は何のことだか分からないが、どうも人違いであることに気付き、ホテルにもう一人ラクシュミーナーラーヤンが宿泊していたことを伝える。それはラクシュミーナーラーヤン3のことであった。パパとその一味は、ブルー・ダイヤモンドへ忍び込んでラクシュミーナーラーヤン3の様子を伺う。

 ラクシュミーナーラーヤン3はライラーのディーラーを訪れる。ライラーは、彼が自動車を購入しに来たと思って歓待するがどうも話が通じない。そこで二人はホテルの部屋へ行くことになる。下着を見せろとしつこいラクシュミーナーラーヤン3に対し、ライラーは仕方なく服を脱ぎ出す。だが、そのとき息子が部屋に入って来てしまう。ラクシュミーナーラーヤン3は窮地に陥るが、ライラーはそれに乗じて勝手に自動車の売買契約をまとめてしまう。ラクシュミーナーラーヤン3は、前金として10万ルピーを支払い、残りの90万ルピーは後でショールームへ持って行くことにする。

 一方、ライラーはチャンドゥーとチャーンドニーから、ビンテージカーの中に2億ルピーのダイヤモンドが入っていることを知る。ライラーはダイヤモンドを取り出そうとし、ラクシュミーナーラーヤン3に1時間待つように電話で伝える。

 90万ルピーを持ってホテルを出ようとしていたラクシュミーナーラーヤン3とその息子は、その電話があったため、90万ルピーの入ったカバンをレセプションに預ける。それを見たパパたちは、そのカバンを爆弾が入った同じカバンと取り替えることを思い付く。部下のピント(マノージ・パーワー)は爆弾作りのディプロマを持っていた。その計画を裏で聞いていたラクシュミーナーラーヤン1とそのボスは、さらにそのカバンを取り替えて90万ルピーを横取りしようとする。こうしてカバンは数度取り替えられた。

 やがて1時間が経ち、ラクシュミーナーラーヤン3とその息子はカバンを持って外に出た。パパとその一味、そしてラクシュミーナーラーヤン2が後に続き、その後をラクシュミーナーラーヤン1とそのボスが尾行した。ラクシュミーナーラーヤン3はライラーのショールームへ入って行った。そこにはライラーの他、チャンドゥー、チャーンドニー、そしてジヤーもいた。なぜならそのビンテージカーは元々ジヤーのものだったからだ。だが、ラクシュミーナーラーヤン3の息子はジヤーのことを知っており、やっと父親の持っていた写真が間違いだったことに気付く。また、そこで初めてラクシュミーナーラーヤン2も、ボスから頼まれたビンテージカーがそこにあることを知って出て行く。ラクシュミーナーラーヤン1もやって来て、これでやっと3人のラクシュミーナーラーヤンが揃った。

 ところで、爆弾が爆発するはずだったが、乾電池が切れていたために爆発しなかった。そこでパパの部下アルバート(ヴラジェーシュ・ヒジュリー)が乾電池を買いに出掛けた。一方、ショールームでは、ビンテージカーの中にダイヤモンドが入っていることが明らかになり、みんなで協力してダイヤモンドを取り出すことになった。やっとダイヤモンドは飛び出たが、今度はその場の人々の間でダイヤモンドの取り合いが起こる。だが、爆弾の乾電池を市場で買っていたアルバートを、警察官マーヤーワティー・チャウターラー(ニートゥー・チャンドラ)が捕まえ、ショールームに乗り込んで来る。乾電池を入れ替えても爆弾は爆発しなかったが、そのときピントは爆弾がリモート操作ではなく時限爆弾だったことを思い出す。爆発まで3秒しかなかった。あっと言う間に爆弾は爆発し、その場の人々は真っ黒になって、ダイヤモンドは粉々になってしまう。

 お馬鹿な笑いに特化したコメディー映画。細かいことを言うのは野暮であろう。何も考えずに笑うためにある映画である。同名の人間が3人も偶然一ヶ所に揃ってしまったために繰り広げられる大混乱という、半ば古典的なネタであるが、笑いの切れは鋭く、大爆笑は間違いなしである。

 パレーシュ・ラーワルとスニール・シェッティーは、大ヒットコメディー映画「Hera Pheri」(2000年)や「Phir Hera Pheri」(2006年)で既にコンビを組んでいる。パレーシュ・ラーワルの方は生粋のコメディアン俳優であり、ヒンディー語映画界のお笑いレースを独走していると言っても過言ではない。本当に面白い俳優である。スニール・シェッティーは元々はヒーロー俳優で、恐ろしいマフィア役なども得意なのだが、「Hera Pheri」シリーズのおかげですっかりコミックロールも板についた。「One Two Three」では生真面目すぎのトラブルメイカーを演じている。

 この映画で意外に頑張っていたのはトゥシャール・カプールだ。彼も今まで何度もコメディー映画に出演して来たが、はまり役だったためかベストと言っていいコメディー演技をしていた。マフィアの家系に生まれながら気弱でおっちょこちょいな性格のためなかなか最初の殺人ができずにいる若者の役で、彼の性格をうまく反映していた。期待の新人ウペーン・パテールも出演していたが、本作ではオマケ程度の役割だった。彼が出る必要性を感じなかった。

 女優陣はほとんど飾り程度である。イーシャー・デーオールはまだヒット作に恵まれており、「One Two Three」の中でも比較的出番の多い役を与えてもらっていたが、残りのサミーラー・レッディー、ニートゥー・チャンドラ、タニーシャーの三人はあまり芽の出ていない女優たちであり、本作でも彼女たちの運命に変化はなさそうであった。

 音楽はラーガヴ・サーチャル。タイトル曲以外、耳に残るものはなかった。

 シリアスな映画を吹っ飛ばすほどコメディー映画にパワーのあった2007年に比べると、今年のコメディー映画はまだ気合の入ったものが少ない。「One Two Three」も、笑える映画ではあるが、決して質の高いコメディー映画ではない。一見どれも五十歩百歩に見えるコメディー映画にも質の良し悪しがあり、インド映画の批評をする際はそれらを見分ける鑑識眼は重要である。だが、まだ焦ることはない。きっと今年も完成度の高いコメディー映画が登場するであろう。


One Two Three | Full Movie | Sunil Shetty, Tushar Kapoor, Paresh Rawal & Esha Deol