Welcome

3.0
Welcome
「Welcome」

 インドでは伝統的にディーワーリー・シーズンが大作映画の封切日として好まれて来たが、1月26日の共和国記念日、8月15日のインド独立記念日やその他の宗教的祭日を含む週も期待作が公開される傾向にある。そして、西洋文化の浸透を象徴しているのか、12月25日のクリスマスを含む週も映画公開日として好まれるようになって来ている。今年のクリスマス・シーズンにあたる2007年12月21日には、「Welcome」と「Taare Zameen Par」(2007年)の2作が公開された。今日はコメディー映画の「Welcome」を観た。

監督:アニース・バズミー
制作:フィーローズ・K・ナーディヤードワーラー
音楽:ヒメーシュ・レーシャミヤー、アーナンド・ラージ・アーナンド、サージド・ワージド
作詞:サミール、アーナンド・ラージ・アーナンド、シャッビール・アハマド、イブラーヒーム・アシュク、アンジャーン・サーグリー
振付:アハマド・カーン、ボスコ・シーザー
出演:フィーローズ・カーン、ナーナー・パーテーカル、アニル・カプール、パレーシュ・ラーワル、アクシャイ・クマール、カトリーナ・カイフ、マッリカー・シェーラーワト、ヴィジャイ・ラーズ、スニール・シェッティー(特別出演)
備考:PVRアヌパム4で鑑賞。

 医師のグングルー(パレーシュ・ラーワル)は、甥ラージーヴ(アクシャイ・クマール)の結婚相手を必死に探していた。グングルーは、死んだ妹、つまりラージーヴの母親と、甥を良家の女性と結婚させるという約束をしていた。一方、マフィアのドン、ウダイ・シェッティー(ナーナー・パーテーカル)は、妹のサンジャナー(カトリーナ・カイフ)の婿を探していた。ウダイは妹を、良家の男性に嫁がせたいと考えていた。だが、マフィアの家と親縁関係を結ぼうとする良家は存在しないのが悩みだった。

 あるとき、ウダイの部下マジュヌー・バーイー(アニル・カプール)は、道端でラージーヴを見掛け、サンジャナーの婿にピッタリだと考えた。マジュヌーは早速それをウダイに報告する。ウダイとマジュヌーはグングルーを罠にはめ、ラージーヴとサンジャナーの結婚を承諾させる。ウダイがマフィアのドンであることを知ったグングルーは、この結婚を破談にさせるため、ラージーヴを別の女性と結婚させようとする。白羽の矢が立ったのは、偶然見掛けたサンジャナーであった。サンジャナーがウダイの妹であることを知らないグングルーは、ラージーヴとサンジャナーを結婚させようとする。ラージーヴとサンジャナーは以前一回偶然会ったことがあり、すぐに2人は恋に落ちた。ラージーヴはウダイに挨拶に行き、2人の結婚は決まる。このときラージーヴはウダイがマフィアのドンであることを知らなかった。

 一方、ラージーヴの結婚が決まって気が大きくなったグングルーは、マジュヌーのところへ行ってウダイの妹との結婚はキャンセルすると言い放つ。その後、グングルーとラージーヴは、サンジャナーの兄に呼ばれてパーティーへ行くが、そこでサンジャナーの兄がウダイであることを知ってグングルーは卒倒してしまう。しかも、ウダイとマジュヌーの大ボスであるRDX(フィーローズ・カーン)がやって来て、話はさらにややこしくなる。

 グングルーはこの結婚に反対するが、既にサンジャナーと恋に落ちていたラージーヴはある提案をする。それは、もしサンジャナーの親類縁者がマフィアをやめたら、サンジャナーとの結婚を許す、という条件であった。グングルーもそれを了承する。

 ウダイは実は俳優になるのを夢見ていた。そこでラージーヴとサンジャナーはスニール・シェッティー(本人)やイーシャー/イシター(マッリカー・シェーラーワト)の協力を得て、ウダイをおだてて俳優の道を歩ませる。一方、マジュヌーは絵画が趣味だったため、オークションハウスに勤めていたラージーヴは彼に画家の道を歩ませる。だが、最大の難関はRDXとその息子ラッキーであった。マフィアの仕事を真剣にしなくなったウダイとマジュヌーの様子を見にラッキーがやって来る。ラッキーはラージーヴが何かを企んでいることに気付き、彼を殺そうとする。だが、サンジャナーが助けに入り、銃弾が偶然ラッキーに当たってしまう。ラッキーは病院へ運ばれる。

 ラッキーを撃ったことを知ったウダイとマジュヌーは顔面蒼白になる。しかもRDXが病院へ向かっていた。そこで2人は、ラッキーは死んだことにして手早く葬式を済ますことにする。だがラッキーは息を吹き返し、逃げ出す。ラージーヴらが追い掛けるが、ラッキーはどこかへ隠れてしまって見つけられなかった。そこでグングルーが代わりに死体となる。

 RDXが火葬場に到着した。何とかRDXをだまし、死体のふりをしているグングルーをラッキーの死体だと信じ込ませる。グングルーは焼かれる直前にRDXの目を盗んで参列者に紛れ込み、薪だけが焼かれる。ところがその薪の下にラッキーが隠れていた。ラッキーは飛び出し、ラージーヴ、ウダイ、マジュヌーたちに殺されそうになったとRDXに報告する。

 激怒したRDXは郊外のコテージにこの計画に関わった者たちを呼び出し、殺そうとする。だが、そのコテージは違法建築で、市役所の役人が強制的に取り壊しを行おうとしていた。崖っぷちに立つコテージは崖に落ちそうになるが、絶妙のバランスで空中に留まる。何とか彼らは逃げ出すが、ラッキーが逃げ遅れてしまう。ラージーヴは我が身を顧みずラッキーを助ける。そのおかげでRDXも全てを許す。ところが今度は、ラージーヴがウダイとマジュヌーを騙していたことが発覚しそうになり、彼らは逃げ出す。

 ヒンディー語のコメディー映画としては平均レベルの出来であろう。いくつか爆笑できるシーンがあるが、細部で粗さが目立ち、最上質のコメディー映画とは言えない。だが、結婚のためにマフィアを更生させようとする筋などは斬新で、一定の評価はできる。

 監督のアニース・バズミーは「No Entry」(2005年)で一躍注目を浴びた映画監督で、「Welcome」も同じようなライトなコメディー路線でヒットを狙った作品と言える。ナーナー・パーテーカルとパレーシュ・ラーワルの演技が最高で、最近出番がめっきり減ったアニル・カプールもプライドを捨てて脇役・汚れ役に徹していた。映画が何とか面白くまとまっているのには、この三人の貢献が大きい。だが、アクシャイ・クマールが演じたラージーヴのキャラクター設定が希薄で、マッリカー・シェーラーワトも十分使い切れていなかった。もう少しラージーヴのキャラを確立させて、マッリカーを本来のセクシー路線に戻すことができれば、さらに完成度の高い娯楽映画になっていただろう。ヒロインのカトリーナ・カイフは全く演技力を要されていないような役だったが、アイシュワリヤー・ラーイと同じく正統派ヒロインの道を歩む女優になりそうなので、今のところはこれでいいのかもしれない。素材は悪くないので、数をこなせば貫禄が付いてくるだろう。

 映画の中ではいろいろなハプニングが起こる。大別すれば3つだ。ラージーヴとサンジャナーの結婚相手探しを巡るハプニング、ウダイとマジュヌーに極道から足を洗わせる上でのハプニング、そしてRDXの息子ラッキーの偽装死を巡るハプニングである。どれもドタバタギャグとしては面白く、コメディー映画としては一定の成功を収めている。それらの合間に、ラージーヴが運転する自動車のハンドルが取れ、ブレーキが聞かなくなるハプニング、グングルーがマジュヌーから逃げる上でのハプニング、空中に浮かぶコテージでのハプニングなど、小ネタが入る。それらは本筋との脈絡が薄いのだが、単発的笑いとしては悪くない。だが、それらのおかげでまとまりが欠けるようになり、しかも映画の終わり方は尻すぼみなので、「コメディーの帝王」と称せられるデーヴィッド・ダワン監督やプリヤダルシャン監督の傑作コメディー映画に比べると見劣りがする。

 音楽はヒメーシュ・レーシャミヤー、アーナンド・ラージ・アーナンド、サージド・ワージドの共作。「Partner」(2007年)を彷彿とさせるタイトル曲「Welcome」、「Kajra Re」タッチのダンスナンバー「Hoth Rasiley」、ヒメーシュ色100%の「Insha Allah」など、アップテンポの曲が多いが、全体的にパワー不足である。ダンスも豪華さに欠けた。

 映画のほとんどはドバイで撮影されたようだ。だが、舞台はどうもムンバイーのつもりのようである。ドバイが舞台であることは全く示唆されなかった。最後のコテージシーンではなだらかな丘陵地帯が背景に見られるが、これはマハーラーシュトラ州の有名避暑地ローナーヴァラーのようである。

 映画の題名は「ようこそ」という意味になる。台詞の中で何度か「Welcome」という言葉が使われていたが、映画の主題とはあまり関係ない。なぜこのような題名になったかは不明だが、「No Entry」の二匹目のドジョウを狙ったのではないかと思われる。

 「Welcome」は、悪くないコメディー映画だが、コメディー映画が元気だった2007年のヒンディー語映画界の中で存在感を示すには多少困難な映画のように思われた。


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