Cash

2.0

 8月15日の独立記念日の前後の週は毎年大作や期待作が公開される。「Dus」(2005年)をヒットさせたアヌバヴ・スィナー監督もこの時期に新作「Cash」を投入して来た。「Dus」と似たスタイリッシュなアクションスリラー映画である。2007年8月3日公開である。

監督:アヌバヴ・スィナー
制作:アニーシュ・ランジャン、ソハイル・マカニー
音楽:ヴィシャール・シェーカル
作詞:ヴィシャール・ダードラーニー
振付:レモ、ラージーヴ・ゴースワーミー
衣裳:アンナ・スィン、スニート・ヴァルマー、ナヴィーン・シェッティー、ナンディター・メーターニー
出演:アジャイ・デーヴガン、スニール・シェッティー、ザイド・カーン、リテーシュ・デーシュムク、イーシャー・デーオール、シャミター・シェッティー、ディヤー・ミルザー、イーシャー・ターキヤーなど
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 150年前にインドで発掘された伝説の200カラットのダイヤモンド。それは現在3つに分かれており、2つはアンクルと呼ばれるマフィアの手元にあった。残りの1つは長い間行方不明だったが、それが突然見つかり、ケープタウンで取引が行われようとしていた。

 アンガド(スニール・シェッティー)は5年前にアンクルに騙され、5発の銃弾を喰らった上に5年の懲役刑に処せられた。アンガドはアンクルを訪ねたが、復讐はせず、残り1つのダイヤモンドの取引に関わることになる。だが、アンガドは陰で復讐の計画を立てていた。

 アンガドにはアディティ(ディヤー・ミルザー)という恋人がいた。かつてアンガドとアディティはチームを組んで犯罪をしていた。今回もアンガドはアディティを使って一獲千金を図る。アディティは犯罪計画のプロ、ドク(アジャイ・デーヴガン)に協力を頼む。ドクは現在、警察に勤務するシャーニヤー(シャミター・シェッティー)と付き合っていたが、彼女に正体はばれていなかった。彼の前ではカランという名の作家を演じていた。ドクはこの計画のためにムンバイーから、ダニー(ザイド・カーン)とラッキー(リテーシュ・デーシュムク)を呼び寄せる。ダニーは水上逃亡のプロで、ラッキーは陸上逃亡のプロだったが、二人は犬猿の仲だった。その原因はプージャー(イーシャー・デーオール)という女性。プージャーは自動車の運転にかけては右に出る者がいなかった。プージャーは二人を引き合わせないように苦心する。一方、シャーニヤーもダイヤモンド取引の情報をキャッチしており、犯人逮捕のため策略を練っていた。彼女は偽の取引相手をでっち上げ、ダイヤモンドを手に入れる計画を立てた。

 ダイヤモンド取引の日。まずはラッキーが美術展から絵を盗み、逃亡する。プージャーの助けを借りながら彼は絵を川に投げ捨てる。そこで待っていたダニーが絵を受け取り、海へ逃げる。そのまま警察の追手を引き連れて海上に浮かぶアンクルのボートへ向かった。また、アディティは海中からボートに近付き、アンクルの手元にあった2つのダイヤモンドと現金を盗み出した。アンガドはアンクルを殺害する。また、アディティはその現金を使ってマフィアから残り1つのダイヤモンドを購入する。

 一方、ドクもダイヤモンド取引現場へ向かった。密売人に化けたシャーニヤーも現金を持ってそこへ向かっていた。ドクは巧みな戦術でその現金を盗み出すが、二人は偶然顔を合せなかったため、お互いのことは分からなかった。ドクはその金を報酬としてダニー、ラッキー、プージャーに配る。だが、その金はマーキングがされていた。また、ドクもこのとき初めてシャーニヤーがこの事件に関わっていたことを知る。

 マーキングされた現金を渡されたダニー、ラッキー、プージャーはドクに騙されたと勘違いする。また、シャーニヤーもアンガドに騙されたと勘違いする。シャーニヤーはアンガドにダイヤモンドを渡すはずだったが、それを拒否し、殺されてしまう。ダイヤモンドはシャーニヤーの自動車に隠してあったが、彼女はそれを事前にラッキーに託していた。また、アンガドはドクがダイヤモンドを持っていると勘違いし、シャーニヤーを誘拐する。ドクは何とかダニー、ラッキー、プージャーの誤解を解くと、シャーニヤー救出とアンガド打倒へ向かう。プージャーはシャーニヤーを助け出し、ドク、ダニー、ラッキーの三人はアンガドを倒す。こうしてドクは、シャーニヤーに正体を知られずに、3つのダイヤモンドを手に入れたのだった。

 この映画の内容について話をする前に、この映画の撮影過程でのトラブルと映画ビジネスの話をしておいた方がだろう。なかなかこういう話は表沙汰にはならないが、映画がどのように制作されているのかを垣間見るいい例だと思う(2007年7月27日付ザ・ヒンドゥー紙フライデー・レビュー参照)。

 外国で映画を撮影する際、映画制作者はその国の政府と3つの証券にサインをしなければならない――完成保証証券(Completion Bond)、事前販売契約(Pre-Sale Bond)、銀行合意契約(Bank Agreement Bond)である。その内の完成保証証券によると、もし映画の制作費が予算を越えた場合、その国の政府が映画が完成するのに必要な額の資金援助をすることを保証する。ただし、政府によって支払われた額は、映画制作者がその国を去る前に払い戻されなければならず、それが満たされない場合は政府によって映画のネガが差し押さえられる。

 「Cash」は全編南アフリカ共和国ロケの映画であり、予算は1億2,500万ルピーだった。だが、最終的に制作費は2億1千万ルピーにまで膨れ上がってしまい、完成保証証券を通して南アフリカ共和国政府から借金をして映画を完成させざるをえなくなってしまった。しかも、プロデューサーのソハイル・マカニーが支払いをせずに勝手に帰国してしまったため、映画のネガは南アフリカ共和国に差し押さえられてしまった。もう一人のプロデューサーのアニーシュ・ランジャンとアヌバヴ・スィナー監督は何とかアドラブスなどから資金援助を取り付けネガを取り返したが、その後、この件を巡ってソハイル、アニーシュ、アヌバヴの間で訴訟となってしまった。

 皮肉にも「Cash」という題名通り金のトラブルが付きまとった映画だったようだ。その影響なのか元からなのか、映画のストーリーは説明不足で非常に分かりにくく、予算が掛けられているようで安っぽい映画になってしまっていた。

 第一の問題は脚本自体にあるだろう。若手で勢いのあるスターたちが何人も登場するオールスターキャストだったのはいいのだが、それぞれの登場人物の相関関係や行動の動機がよく説明されておらず、観客を混乱のまま取り残して先に進んで行っている印象を受けた。ストーリーテーリングも下手で、完全に理解できた観客はいなかったのではないかと思う。最近複雑な筋のインド映画が増えて来ているが、あまりに複雑にし過ぎると多くの観客が付いて来れなくなると前々から心配だった。だが、「Cash」の理解不能さは、筋が複雑なのではなくて、筋が滅茶苦茶なことが原因で起こっている。

 第二の問題は途中で挿入されるアニメーションである。ヒンディー語の実写映画にアニメーションが挿入されるのはもはや珍しいことではなくなったが、「Cash」でのアニメーションの使い方はどう見ても予算削減のためとしか思えなかった。ビルから飛び降りたり、パラシュートで落下して地上を走る自動車に乗り移ったり、悪党と格闘したりなど、ハラハラドキドキのアクションシーンで急にアニメになってしまっており、ゲンナリであった。アクションで魅せる映画ではなかったのだろうか?しかもそのアニメの質が低い。俳優に似てない。全く駄目。

 「Cash」で唯一良かったのは音楽とダンスだ。作曲はヴィシャール・シェーカル。タイトル曲で冒頭キャストロールで流れる「Cash」は音楽、ダンス共に最高。「Naa Puchho」、「Rehem Kare」なども良い。エンドロールと同時に流れる「Naughty Naughty」はワンテイクで撮影されていた。

 アジャイ・デーヴガンとスニール・シェッティーを除けば、若手俳優の中で最も勢いのあるスターが登場していた。中でもリテーシュ・デーシュムクが最も成長を見せていた。ディヤー・ミルザーもなかなか良かった。ザイド・カーン、イーシャー・デーオールはアベレージ。唯一、シャミター・シェッティーだけはかわいらし過ぎて警察官を演じるには役不足だった。

 「Cash」は、スピード感のある音楽と勢いのあるキャストとスタイリッシュな映像から、いかにも娯楽超大作と言った印象を受けるが、筋が分かりにくく、肝心の部分でスリルに欠ける失敗作だ。サントラCDなら買いだが、わざわざ映画を観る価値はない。