Apne

3.5

 ヒンディー語映画界には何世代にも渡って映画界に関わっている家系がいくつもあり、いわゆる「映画カースト」を形成している。そしてそういう家系の親子共演、兄弟共演はメディアや観客の注目を集めやすい要素であり、必ず話題となる。2007年6月29日公開のヒンディー語映画「Apne」もそんな映画だ。往年の名優ダルメーンドラと、その2人の息子、サニー・デーオールとボビー・デーオールの三人が初めて共演する。三人とも筋肉派男優であるため、さぞや肉々しい映画なのかと思いきや、実は泣かせる映画と言う憎い演出。監督は「Gadar: Ek Prem Katha」(2001年)のアニル・シャルマー。

監督:アニル・シャルマー
制作:ラーフル・スガンド、サンギーター・アヒール
音楽:ヒメーシュ・レーシャミヤー
作詞:サミール
振付:アハマド・カーン
出演:ダルメーンドラ、サニー・デーオール、ボビー・デーオール、シルパー・シェッティー、カトリーナ・カイフ、キラン・ケール、ヴィクター・バナルジー、ジャーヴェード・シェーク、アーリヤン・ヴァイド、ディヴィヤー・ダッター、アマル・スィン(特別出演)
備考:PVRアヌパム4で鑑賞。

 バルデーヴ・スィン・チャウダリー(ダルメーンドラ)は、五輪ボクシングの銀メダリストで、ヘビー級チャンピオンの寸前まで上り詰めたが、ドーピングの濡れ衣を着せられて15年の出場停止処分を喰らい、以後その屈辱を晴らすことを人生の目的として来た男だった。バルデーヴには2人の息子と1人の娘がいた。長男のアンガド(サニー・デーオール)、次男のカラン(ボビー・デーオール)、そしてプージャー(ディヴィヤー・ダッター)である。バルデーヴはアンガドにボクシングを教え込む。アンガドはナショナルチャンピオンになるが、極貧の家庭を救うため、またプージャーの結婚資金のため、ボクシングをやめて就職してしまう。また、次男のカランは幼い頃の事故のせいで左手が動かせず、ボクサーになることは出来なかった。その事故の原因はアンガドにあった。これらの理由のため、バルデーヴはアンガドを冷遇し、アンガドも父親を恐れていた。また、カランは父親の夢を実現させたいと強く希望しながらも障害のためにそれが果たせず、悶々とした気持ちを抑えながら、ミュージシャンとして活躍していた。アンガドはスィムラン(シルパー・シェッティー)と結婚しており、カランにはナンディニー(カトリーナ・カイフ)というガールフレンドがいた。父親の過去のトラウマが大きな禍根となっている家庭を何とかまとめていたのが、母親のラーヴィー(キラン・ケール)であった。

 バルデーヴが現役の頃、インドでボクシングは全く人気のないスポーツだった。ところが時代は変わって来ていた。インドのメディア企業主催のボクシング世界大会が開催されようとしていた。バルデーヴの親友エヘサーン(ヴィクター・バナルジー)は、ガウラヴという青年を連れて来て、バルデーヴに再びボクシングコーチになるよう説得する。バルデーヴもそれを受け入れる。一気にバルデーヴの人生には光が満ちて来た。夢は、インド人初のヘビー級チャンピオンを誕生させることであった。

 ところが、ガウラヴは少し実力をつけると、ムンバイーのジムへ移籍してしまう。ガウラヴを3人目の息子としてかわいがっていたバルデーヴは怒り狂う。だが、これをきっかけにカランの左手が動くようになる。カランはボクサーになることを決意する。こうして、父子の二人三脚が始まった。

 ボクシング世界大会は、6大陸から6人のチャンピオンが集められ、勝者は世界チャンピオンのルカ・グラシアと戦う権利を得るというものだった。カランのデビュー戦の対戦相手は、かつて父親の弟子だったガウラヴであった。カランはガウラヴをリングに沈めると、順調にアジア予選トーナメントを勝ち進み、世界大会へ進出する。米国で開催された世界大会でもカランは連戦連勝で、遂にルカ・グラシアとの対戦権を得る。

 ルカはまず、バルデーヴに八百長試合を持ちかける。もちろんバルデーヴはそれを断固拒否する。試合では一進一退の死闘が繰り広げられる。最終ラウンドの第12ラウンドまで試合はもつれこむが、このときにはカランが優勢になっていた。ところがルカは化学薬品を使ってカランの目を封じ、攻勢に転じる。ルカはカランの肋骨を折り、ダウンを奪う。肋骨の破片が肝臓に突き刺さったカランは意識不明の重態となる。インドで試合観戦していたアンガドらもすぐに米国の病院に駆けつける。

 意識を取り戻したカランは、アンガドやバルデーヴに、薬品によって目を封じられたことを明かす。怒った二人はルカに抗議する。方法は2つ。法廷に持ち込むか、ボクシングで白黒はっきりさせるか、である。バルデーヴは法廷に持ち込むことを主張したが、アンガドはボクシングでルカに復讐すると言って聞かない。アンガドは父親の反対を押し切り、ボクシングのトレーニングを始める。既に若くないアンガドにとって、最大の弱点はスタミナだった。バルデーヴの協力が得られないながらも、エヘサーンが彼の訓練を行う。

 こうして、ルカとアンガドの試合が行われることになった。やはりルカとアンガドは死闘を繰り広げる。だが、次第にアンガドは押され気味となり、両目もほとんど見えない状態となってしまう。だが、そこに駆けつけた父親から力を得て奇跡の復活を遂げ、ルカを一撃でダウンさせる。インド人初のヘビー級チャンピオン誕生の瞬間であった。

 一方、カランとナンディニーは病室から試合を観戦していた。カランは肝炎になりかけており、すぐに手術をしなければならなかったが、試合が終わるまで手術はしないと言い張る。これがたたってカランの肝臓は完全に機能停止してしまい、肝臓移植手術をしなければならなくなる。だが、臓器提供者はなかなか現れなかった。血液型が同じだったバルデーヴは、自分の肝臓をカランに提供すると主張するが、年齢を理由に受け入れられなかった。

 一人考え込んだバルデーヴは、カランを救うために自殺することを決意する。その前にカランに会いに病院へ行くと、臓器提供者が現れたことが分かる。こうしてカランは一命を取り留めることが出来た。家族一丸となってチャンピオンを目指したことにより、父子の間のわだかまりも完全に解消されたのであった。

 ヒンディー語映画界では最近、スポーツを題材にした映画が撮られるようになって来た。カラン・ジョーハル監督の一連の作品など、スポーツが「要素」として映画に盛り込まれることはあったが、「題材」になっていることは少なかった。「Lagaan」(2001年)の大ヒットの前は、「スポーツ映画は失敗する」というジンクスさえインド映画業界内にあったようで、スポーツはあまり映画になって来なかったのである。ちなみに「歴史映画は失敗する」というジンクスもあったようで、クリケットと歴史を融合させた「Lagaan」は、その2つのジンクスを見事に打ち破った偉大な映画と言える。「Lagaan」の後、スポーツも映画の題材のひとつの選択肢になったようで、徐々にスポーツ映画が撮られるようになった。最近では、クリケットを題材にした「Iqbal」(2005年)、ボクシングを題材にした「Aryan」(2006年)、モーターレースを題材にした「Ta Ra Rum Pum」(2007年)などが思い浮かぶ。さらに、女子ホッケーを題材にしたシャールク・カーン主演「Chak De! India」(2007年)の公開も控えている。いくつかの例外を除き、スポーツの世界におけるインドの大国らしからぬ弱さは有名だ。ヒンディー語映画界におけるスポーツ映画の増加は、経済力を付けて来たインド人の間で、インド人スポーツ選手の活躍を願う気持ちの高まりと捉えてもいいかもしれない。

 「Apne」は、ボクシングのヘビー級チャンピオンを夢見て挫折した父親と、その2人の息子の物語である。インドにおけるボクシングの現状や、ボクシング業界の汚職などにも触れられており、「Aryan」よりもさらにボクシングの深みに踏み込んだ作品であった。ボクシング親子と言うと日本では亀田三兄弟が一時期話題になっていたが、それとも通じるものがあった。

 だが、「Apne」の本当のテーマは、インド映画の永遠のテーマである「家族の絆」である。父親の夢を家族で一丸になってかなえる姿は感動を誘う。スポーツ映画は大体結末が予想できてしまうのが難点だが、そこまで巧みに持って行くことが出来ている映画は、分かっていても面白いし、泣ける。「Apne」もそんな映画だった。ただ、ハッピーエンドに固執し過ぎだったのではないかと思う。エヘサーンの回想で始まる冒頭の展開からは、バルデーヴが自殺してしまったとしか思えないのだが、結局バルデーヴは何ともなく、最後に家族全員幸せな様子が映し出されて終わっていた。元々悲しいエンディングだったのを、外部からの圧力か何かによって無理矢理ハッピーエンドに改変されたのではないかと思った。

 主演の三人それぞれに見せ場があったが、やはりこの作品の主人公はダルメーンドラ演じるバルデーヴである。夢を追い続ける一人の男としての顔と、家族を思いやる一人の父親としての顔を見事に演じ分けていた。一方、前半は弟のボビー・デーオール、後半は兄のサニー・デーオールの見せ場となっており、それぞれに持ち味を活かした演技をしていた。どちらかというと最近はボビーの成長が目立つ。サニーは怪力に任せた役しかもらえないようになってしまったが、ボビーは様々な役に挑戦しており、芸の幅を広げている。サニーとボビーが並ぶと、ボビーの方が背が高いのも意外だった。サニーの方がでかい印象があったのだが。しかし、ボビーの乳首はちょっと危険だった。

 肝っ玉母さんを演じさせたら右に出る者はいないキラン・ケール。今回も家族を裏からしっかりささえる母親役をどっしりと演じていた。シルパー・シェッティーとカトリーナ・カイフも出演していたが、重要な役柄ではなかった。

 他に、社会党(SP)の政治家アマル・スィンがなぜか特別出演していた。

 音楽はヒメーシュ・レーシャミヤー。「Apne Toh Apne Hote Hain(家族は結局家族なんだ)」という歌詞のタイトルソング「Apne」が最も映画の雰囲気に貢献している。ヒメーシュらしいアップテンポの曲「Mehfuz」もいい。

 デーオール一家はパンジャーブ人であり、映画の中のチャウダリー一家もパンジャーブ人という設定であるため、ヒンディー語映画でありながらパンジャービー色が強かった。時々パンジャービー語のセリフが出て来る。また、舞台が米国に移ってからは英語のセリフが増えるのだが、ヒンディー語字幕が出ていた。英語をよく理解しない層に向けた配慮であろう。

 「Apne」は、ダルメーンドラ親子初共演だけが取り柄ではない、きちんと作り込まれた作品である。エンディングの唐突さが残念だが、それを補って余りある興奮と涙が盛り込まれている。