Dhoom: 2

4.5

 2004年にインド中を席巻した大ヒット映画「Dhoom」が、2年の歳月を経て帰って来た!2006年のヒンディー語映画界は続編モノが続くが、意外なことに、「Dhoom: 2」は前作の題名に「2」が付いた初めてのインド映画である。2006年11月24日に封切られたが、デリー&ウッタル・プラデーシュ州テリトリーでは配給を巡るトラブルが発生し、大手シネコンがこの映画を上映しないことを決定した。元々ヒットが予想されていた「Dhoom: 2」。上映映画館数が激減したことにより、チケット入手が非常に困難になってしまった。僕も封切りから1週間後にようやく観ることができた。

監督:サンジャイ・ガーンドヴィー
制作:アーディティヤ・チョープラー
音楽:プリータム
歌詞:サミール
振付:シヤーマク・ダーヴァル、ヴァイバヴィー・マーチャント
出演:リティク・ローシャン、アビシェーク・バッチャン、アイシュワリヤー・ラーイ、ビパーシャー・バス、ウダイ・チョープラー、リーミー・セーン(特別出演)
備考:チャーナキャ・シネマで鑑賞。

 世界中の貴重品を芸術的な技により盗むハイテク泥棒A(リティク・ローシャン)。誰もその本当の名や本当の顔を知らなかった。女刑事ショーナーリー・ボース(ビパーシャー・バス)はAを追ってムンバイーまで来ていた。実は彼女は前作「Dhoom」で活躍したジャイ・ディークシト警部(アビシェーク・バッチャン)の大学時代の知り合いであった。お調子者のバイクレーサー、アリーもジャイの右腕として警察官になっていた。ジャイは、Aが次なるターゲットをムンバイーに定めていることを見抜き、捜査を担当することになる。だが、Aはまんまと博物館からダイヤモンドを盗み出し、ジャイの包囲網をくぐり抜けて逃走する。

 Aはムンバイーでの仕事を終え、インドを去ろうとしていた。ところがTVで、Aが次なる犯行予告を行ったことを知り、航空券を捨てる。TVでは、Aはある古城から宝剣を盗み出すことを予告していた。同じくインドを去ろうとしていたショーナーリーもインドに残り、ジャイ、アリーと共に古城でAを待ち構える。

 夜、厳重な警備をくぐり抜け、城に忍び込むひとつの影。そのままいとも簡単に宝剣まで辿り着く。だが、そこにはAが待ち構えていた。その影はAではなく、別の泥棒だった。Aは自分になりすまして泥棒を働く者が誰かを知るためにやって来ていたのだった。偽Aは宝剣を取って逃げ出すが、警報が作動し、警察も追って来る。ショーナーリーは偽Aを追い詰めるが、そこへAが現れ、偽Aを救い出す。そして2人は闇の中に消える。ショーナーリーはこのとき怪我を負ってしまう。

 一方、Aは偽Aと対面する。なんとその偽物は女性であった。彼女はスネーリー(アイシュワリヤー・ラーイ)と名乗り、手を組んで一緒に泥棒をすることを提案する。Aは最初それを拒否するものの、やがて受け容れる。こうして、今まで1人で仕事をして来たAは初めてパートナーを得たのであった。

 だが、実はスネーリーはジャイが送り込んだ囮であった。スネーリーは元々泥棒だったのだが、警察に捕まり、牢屋行きを許してもらう代わりにA逮捕に協力させられていたのだった。Aの次なる目標はブラジルのリオデジャネイロであった。ジャイ、アリー、A、スネーリーの四人はブラジルへ降り立つ。

 ジャイとアリーは、ショーナーリーの双子の妹、モーナーリー(ビパーシャー・バス)の家に滞在することになる。ソーナーリーはアリーにつれなかったが、モーナーリーは打って変わってアリーとラブラブになる。また、スネーリーに恋し始めていたAは彼女に自分の正体を明かし、アーリヤンという本名も名乗る。スネーリーも気付いたときにはアーリヤンに惚れていた。自分が囮であることがアーリヤンにばれてしまうが、彼女は信用できない警察のジャイではなく、正直な泥棒のアーリヤンを選ぶ。

 アーリヤンの次なるターゲットは、自然史博物館に展示されている人類最初のコインであった。アーリヤンとスネーリーはやはり警察をまんまと出し抜いてコインを盗み出す。スネーリーもジャイに対してアーリヤンと運命を共にすることを伝える。

 アーリヤンとスネーリーはバイクに乗って逃走し、ジャイとアリーもバイクで追いかける。だが、アーリヤンはジャイに捕まり、スネーリーはアリーに捕まる。と、突然スネーリーはアーリヤンを撃つ。アーリヤンは滝に落ちてしまう。ジャイはスネーリーを後に残して立ち去る。

 だが、アーリヤンは生きていた。6ヵ月後、フィジーのある場所でアーリヤンとスネーリーはレストランを経営していた。だが、ジャイもとっくにそれを嗅ぎつけていた。ある日、ジャイはレストランを訪れる。だが、アーリヤンは既に改心しており、今まで盗んだもの全てが入った金庫の鍵をジャイに渡す。ジャイも二人を許し、立ち去る。

 2006年のヒンディー語映画界は快進撃が止まらない。「Lage Raho Munna Bhai」(興行収入6億9,130万ルピー)、「Krrish」(6億4,860万ルピー)、「Fanaa」(5億3,130万ルピー)、「Rang De Basanti」(5億1,070万ルピー)、「Kabhi Alvida Naa Kehna」(4億6,455万ルピー)、「Don」(4億4,470万ルピー)を初めとして、「Phir Hera Pheri」、「Malamaal Weekly」、「Gangster」、「Being Cyrus」、「Khosla Ka Ghosla」、「Pyaar Ke Side/Effects」など、史上最高記録のヒット数である。そしてこの「Dhoom: 2」も予想を上回る出来で、大ヒットは確実。こうなったらもう、この絶好調は来年まで続くだろう。

 この映画の見所はいくつもある。まず、2000年代を代表するスターであるアビシェーク・バッチャンとリティク・ローシャンの共演は非常に意味がある。この二人の男優は、共に2000年に時を同じくしてデビューした映画カースト出身者である。アビシェークの父親は言わずと知れたアミターブ・バッチャン、リティクの父と叔父は映画監督と音楽監督で、やはり映画界と関わりが深い。だが、リティクが「Kaho Naa… Pyaar Hai」(2000年)で一躍若手スターのトップに躍り出た一方、「Refugee」(2000年)でカリーナー・カプールと同時デビューを果たしたアビシェークは、長年駄作と共にくすぶり続けていた。だが、2005年に「Bunty Aur Babli」、「Sarkar」、「Dus」などヒット作を連発して人気急上昇したアビシェークは、2006年には若者の間で一番人気のある男優になってしまった。また、リティクの方もしばらくはデビュー作の大ヒットを越える作品に恵まれなかったが、2003年の「Koi… Mil Gaya」で復活し、今年の「Krrish」によってその人気を不動のものとした。つまり、2000年に同時デビューを果たしたこれら2000年代を代表する2人の男優が、共に映画人生の絶頂期に共演を果たしているのである。これはとても意味のあることだ。リティクは相変わらず超絶のダンスを披露。間違いなく現在のヒンディー語映画界で一番のダンサーである。そして「Koi… Mil Gaya」や「Krrish」で見せた変身テクニックも今回は思う存分披露していた。彼は変装マニアなのであろうか?リティクはメイクと演技によって、全く違った雰囲気を出すことができる特異な技も持っている。アビシェーク・バッチャンもリティクに負けじと一生懸命踊りを踊っていた。

 アイシュワリヤー・ラーイが今までにないセクシーなコスチュームで出演していることも話題である。彼女は一応「清純派」の女優であり、あまりみだりに肌を見せたりして来なかったのだが、ここに来て突然、大胆な服装を着ている。それもそのはず、映画では女泥棒の役であった。コスチュームだけではない。ハンバーガーにかじりついたりして、彼女には珍しく品のない演技までしていた。アイシュワリヤーの中で何かが吹っ切れたのであろうか?

 さらにそれに追い討ちをかけるように、なんと「Dhoom: 2」ではアイシュワリヤーのキスシーンを拝むことができる。アイシュワリヤーは「キスをしない女優」として知られており、彼女が今まで男優とリアルのキスをしたのも、「Kyun! Ho Gaya Na…」(2004年)において当時の恋人ヴィヴェーク・オーベローイとしたのが最初で最後であった。ところで、今ヒンディー語映画界で最もホットな話題は、アビシェークとアイシュワリヤーの結婚である。この二人が本当に結婚するのかどうか、人々やメディアは大きな関心を寄せている。よって、その二人が共演する「Dhoom: 2」はそれだけでも注目度が高い。そこにキスシーン投入である。もしやアビシェークとのキスシーンか?本作はそういう世間の目をあざ笑うかのように、なんとリティクとアイシュワリヤーのキスシーンを観客に見せつけている。恋人と噂されるアビシェークが出演している映画で、彼女が他の男優とキスをするとは・・・!これは話題を呼ばないはずがない。だが、(本当かどうか分からないが)結婚を間近にして、突然いろんなことに挑戦し出したアイシュワリヤーに対し、世間の風当たりは強い。

 また、前作「Dhoom」はどちらかというとバイクが主人公の映画であった。スズキの大型バイクがムンバイーを縦横無尽に駆け回るシーンは、我々日本人だけでなく、インドの若者たちの心も魅了した。だから、続編で果たしてバイクがどれだけ出て来るが、かなり期待をしていた。しかし、残念ながら「Dhoom: 2」の主人公はバイクではなかった。テクノロジーに比重が置かれていた。スズキに代わってソニーのハンディカムやノートパソコンが登場していた。だが、クライマックスではやはりスズキの大型バイクによる興奮のチェイス・シーンが用意されており、バイクを期待して映画館に足を運んだ観客たちにも配慮していた。「Dhoom」では物語の序盤と中盤をバイクチェイスによって盛り上げ過ぎたために、クライマックスでバイクに比重を置きづらくなっていた印象を受けたが、本作では序盤と中盤でほとんどバイクが出て来なかったおかげで、クライマックスにおいてバイクで盛り上げやすくなっていたように思えた。前作ではアビシェークはバイクに乗っていなかったが、本作ではバイクを見事運転していた。アイシュワリヤーまでバイクに乗っていたが、これはスタントであろう。

 バイクのチェイスシーンを含め、アクションシーンはどれもハリウッド並みに素晴らしかった。中でも飛び降りシーンが何度も出て来ていた。後半でリティクとアイシュワリヤーが共に崖から飛び降りるシーンがあるが、これはどうもスタントなしで2人本当に飛び降りたらしい。後半、崖から飛び降りるパラシュート付きリティクに、後からパラシュートなしアビシェークが飛び掛って捕まえるシーンもあった。その他、冒頭、リティクがナミビアの砂漠をサーフィンボードで疾走するシーンはとても美しかったし、前半、ローラースケートでムンバイーの道路を爆走したりするシーンもスリリングであった。だが、アイシュワリヤーがAに見せた格闘家っぽいポーズは決まっていなかった。その点では、「Don」(2006年)のプリヤンカー・チョープラーの方が上であろう。

 ダイアログにもいくつか捻りがあってよかった。アリーのタポーリー・バーシャー(ムンバイーの方言)は多少マンネリ気味であったが、リオデジャネイロでジャイとアーリヤンが交わす会話はエンディングの伏線になっていてよかった。そのときジャイとアーリヤンはお互いのことを知らずに偶然一緒にコーヒーを飲む。その席でアーリヤンはジャイに、コイン集めが趣味であることを話し、彼に1枚のコインをプレゼントする。エンディングにおいて、フィジーでアーリヤンとスネーリーが経営するレストランにやって来たジャイは、驚く2人に向かってビールを注文する。ジャイは2人を許し、立ち去るときにアーリヤンからもらったコインをカウンターに置いて、「For the beer」とだけ言う。渋い終わり方であった。

 そのエンディングの手前には、偽エンディングが用意されていた。アーリヤンはジャイに追い詰められ、絶体絶命のピンチに陥る。そこへアリーがスネーリーを連れて現れる。スネーリーも捕まってしまっていた。そのときアーリヤンは、「愛している人を殺せるほど愛することができるか?」と問い掛ける。それを聞いたスネーリーは足に隠していた銃を取り出してアーリヤンを撃つ。撃たれたアーリヤンは滝壺へ消えて行く。愛する人を殺す――これは「Fanaa」でもあった終わり方であった。愛と死を表裏一体と考えるインド人の恋愛観の究極の形である。ジャイはスネーリーに問い掛ける。「なぜ撃った?」スネーリーは答える。「彼を愛していたから。」するとジャイは、「生きることがお前に与えられた罰だ」と言い残して去って行く。ここで終わっていたら、この映画はまた違った雰囲気になっていただろう。だが、それで終わらないところが娯楽を基本とする「Dhoom」シリーズのいいところであった。

 しかし、それから6ヶ月もスネーリーを張り込むジャイの行動はちょっと現実的ではないだろう。ジャイの妻スイーティー(リーミー・セーン)は妊娠しており、冒頭のシーンで既にお腹がかなり大きかった。6ヶ月も経ったらもう子供が生まれてしまっているだろう。冒頭以降、スイーティーが全く出て来なかったのも辻褄が合わない。あんなにスイーティーはジャイをコントロールしていたのに。

 ビパーシャー・バスがショーナーリーとモーナーリーのダブルロールを演じていたのもちょっと安っぽい演出のように思えた。ちなみに、ショーナーリーのビパーシャーの方がよかった。

 音楽は前作同様プリータム・チャクラボルティー。前作「Dhoom」は音楽も大ヒットしたが、「Dhoom: 2」の音楽は前作を越えそうにはない。だが、要所要所でアップテンポのダンスナンバーが入り、映画を盛り上げていた。ブラジルが舞台の一部になっていたためか、「Touch Me」にはブラジル音楽っぽいテイストが加わっていた。

 ロケ地はナミビア、ムンバイー、ゴア、ブラジルのリオデジャネイロ、そして南アフリカ共和国のダーバン。お約束通り、リオのカーニバルのシーンもあったが、ストーリーには直接関係なかった。最後のバイク・チェイス・シーンはダーバンで撮影されたそうだ。

 ちなみに、前作で悪役を演じたジョン・アブラハムが本作にも登場するのではとまことしやかに噂されていたが、結局全く出て来なかった。

 「Dhoom: 2」は期待以上の娯楽大作。現在の飛ぶ鳥を落とすヒンディー語映画の勢いを実感できる傑作に仕上がっている。前作「Dhoom」を予習してからの鑑賞をオススメする。