Alag

2.0

 今日はPVRナーライナーで、2006年6月16日公開の新作ヒンディー語映画「Alag」を観た。「Alag」とは「違う」という意味。監督は「Deewanapan」(2001年)や「Sheesha」(2005年)のアーシュー・トリカー、音楽はアーデーシュ・シュリーヴァースタヴ。キャストは、ディヤー・ミルザー、アクシャイ・カプール、ジャヤント・クリパーラニー、ヤティーン・カリエーカル、トム・アルター、シャラト・サクセーナー、ムケーシュ・リシなど。その他、あっと驚く特別出演あり。

 マハーラーシュトラ州の避暑地マハーバレーシュワルで、ラストーギー(ヤティーン・カーリエーカル)という男が心臓発作で死亡した。警察(シャラト・サクセーナー)は、ラストーギーの家の地下に、18歳の若者が住んでいるのを発見する。その若者の名前はテージャス(アクシャイ・カプール)。頭髪、眉毛から全身にいたるまで一本も毛がなく、18年間一歩も家の外に出たことがないという変人であった。警察は、テージャスの世話をプールヴァー・ラーナー(ディヤー・ミルザー)に任す。

 プールヴァーの父親、プシュカル・ラーナー(ジャヤント・クリパーラニー)は、孤児と軽犯罪を犯した少年を養う施設を経営していた。テージャスはその施設に入り、生活するようになる。施設にいた少年たちは、最初テージャスをからかうが、次第に彼に不思議な力が備わっていることを知るようになる。また、18年間ずっと本を読んで過ごして来たテージャスの知識は、施設の先生をも上回っていた。

 プシュカルは、事あるごとに何かしら問題を起こすテージャスを気に入っていなかった。とうとうテージャスの異常な力は、施設の少年を1人死に至らしめてしまう。だが、テージャスが、昏睡状態にあった彼の妻を手で触れただけで治療したことにより、プシュカルは一転してテージャスを受け容れるようになる。警備員を務めていたスィン(ムケーシュ・リシ)や、施設の少年たちも、テージャスを友達と認める。また、テージャスとプールヴァーの間には恋が芽生えていた。

 一方、人類の脳の仕組みを解明して新薬を開発しようともくろむ狂科学者(トム・アルター)は、テージャスの能力に目を付け、彼を誘拐する。テージャスは実験室に入れられて電気攻撃を受けるが、そのとき駆けつけたプシュカル、プールヴァー、スィンがそれを止める。だが、油断したスィンは科学者に射殺されてしまう。それを見たテージャスは怒りのパワーを発揮し、科学者を吹っ飛ばすと共に実験室を滅茶苦茶にする。だが、その衝撃でプールヴァーも死んでしまう。テージャスは何とかプールヴァーを蘇生させようとし、最終的に彼女は生き返る。

 現在、リティク・ローシャン主演の「インド初」のスーパーヒーロー映画「Krrish」(2006年)の公開が控えている。だが、「Krrish」封切日のちょうど1週間前に、その「インド初」の称号をかすめ取るかのように、別のスーパーヒーロー映画「Alag」が公開された。

 主人公テージャスの特殊能力はいくつかある。まず、彼の周囲では電化製品が全く機能を失ってしまう。そして圧倒的な記憶力。18年間、1日の18時間を読書に費やし、その一字一句を正確に記憶していた。他に、自然と交信することができたり、手で触れたスプーンを超協力な電磁石に変えてしまったり、動物の痛みを人間に伝えたり、怒りのパワーで周囲のガラスを粉々にしたり、電磁バリアを張って銃弾を無効にしたりと、映画中にはテージャスのいろいろなスーパーパワーが出てくる。まるでアメコミ「X-men」に出てくるマグニートのようでもあるが、しかしそれに収まらない力もあり、結局のところテージャスのパワーがどれほどのものなのか、よく分からなかった。このようなスーパーパワーが他の人を傷つける恐れがあったため、また、テージャスの目は日光に耐えることができなかったために、父親は彼を18年間地下室に閉じ込めていたのだった。だが、父親の死をきっかけに、テージャスは「発見」される。

 「Alag」という題名通り、変な映画だったが、ひとつだけ重要なメッセージが込められていたように思う。18年間、本だけで世界と接して来たテージャスは、真実の忠実な信奉者であった。彼にとって世界は真実と嘘だけで構成されており、嘘は許されるものではなかった。だが、施設に住むようになり、社会に接するようになると、彼は真実と嘘の狭間にある「現実」に直面せざるをえなくなる。例えば、テージャスは授業の中で、先生の質問を全て正確に答えるだけでなく、先生に質問された以上の答えをスラスラと答える。それを自分への侮辱と受け取った先生は、怒って教室を出て行ってしまう。プシュカル院長はテージャスを呼んで彼を諭す。「例え知っていたとしても、知らない振りをすることも必要だ。それが社会の礼儀というものだ。」だが、テージャスはそれを理解できない。「そんなことをするのは、真実に直面する勇気のない者のみだ!」この議論はここでストップしてしまっており、映画の中でさらに推し進められることはなかったが、いい切り口だと思った。スーパーパワーに比重を置くよりも、18年間本だけで世界を見て来た人間が、「現実」と初めて接したときに直面する葛藤を描いた方が、よりよい映画になったことだろう。嘘をつくのはよくないことだが、真実のみでは人間は生きていけない。それが現実社会というものだ。

 アクシャイ・カプールは、「Popcorn Khao! Mast Ho Jao」(2004年)でデビューした若手俳優。ヒンディー語映画界には、アクシャイという名前の俳優と、カプールという名字の俳優が多く、彼の登場はさらにファンを混乱させることになるだろう。本作では、頭髪と眉毛を全て剃り落してテージャスになりきっており、演技も素晴らしかった。「Hai Junoon」のミュージカルシーンのみ、彼は頭髪と眉毛のある状態で映画に登場している。ちなみに、アクシャイ・カプールは踊りもなかなかうまかった。

 デビュー以来、何となくイメージ作りに失敗しているように見えるディヤー・ミルザーも、本作では彼女に最も似合った役柄を落ち着いて演じており、好感が持てた。「Alag」は、彼女のベスト作の一本であろう。他の俳優では、プールヴァーの父親プシュカル・ラーナーを演じたジャヤント・クリパーラニーや、テージャスの父親を演じたヤティーン・カーリエーカルがよかった。

 この映画の大きなマイナスポイントは、ミュージカルシーンの間の悪さであろう。ほとんど必要のない挿入歌がいくつかあり、映画を盛り下げてしまっていた。ただし、エンドクレジットで流れる「Sabse Alag」は圧巻。現代のヒンディー語映画界を代表する大スターたちがなぜか出て来くるのだ。その名を挙げると・・・シャールク・カーン、アビシェーク・バッチャン、ボビー・デーオール、アルジュン・ラームパール、カラン・ジョーハル、スシュミター・セーン、プリーティ・ズィンター、プリヤンカー・チョープラー、ビパーシャー・バス、ラーラー・ダッターである。なぜこんなB級映画でこんな豪華競演が実現したのかは不明であるが、間違いなく映画最大の見所のひとつであろう。

 時期的に「Krrish」の前座のような扱いの映画になってしまっていて可哀想だが、「Krrish」からタッチの差で「インド初のスーパーヒーロー映画」の称号をかすめ取った点、また、エンドクレジットに前代未聞の豪華キャスト・ミュージカルが用意されている点で、特異な映画に仕上がっている。


https://www.youtube.com/watch?v=k8Voc1RGrJ8