Shaadi Se Pehle

4.0

 今日はラーム・ナヴミー(ラーム王子の誕生日)で祝日であった。来週もマハーヴィール・ジャヤンティー(ジャイナ教の教祖の誕生日)やグッドフライデー(キリストの命日)など祝日が続き、ゴールデンウィークのような状態となっている。連休はどこの国でも大きなビジネスチャンス。本日(2006年4月6日)木曜日から変則的な形で(通常は金曜日が封切日)、新作ヒンディー語映画が3本同時に公開された。今日は、PVRプリヤーでその内の一本、「Shaadi Se Pehle」を観た。

 「Shaadi Se Pehle」とは「結婚の前に」という意味。題名からは婚前交渉の是非がテーマになっているのかと勘ぐってしまうが、そうではなかった。プロデューサーはスバーシュ・ガイー、監督はサティーシュ・カウシク、音楽はヒメーシュ・レーシャミヤー。キャストは、アクシャイ・カンナー、アーイシャー・ターキヤー、マッリカー・シェーラーワト、スニール・シェッティー、アヌパム・ケール、アーフターブ・シヴダーサーニー、ラージパール・ヤーダヴ、ボーマン・イーラーニー、グルシャン・グローヴァーなど。

 アーシーシュ(アクシャイ・カンナー)は、恋人のラーニー(アーイシャー・ターキヤー)と結婚するためにキャリアアップに励み、大物CM監督にのし上がった。ラーニーの親や叔父(アヌパム・ケール)も結婚を承諾し、めでたくアーシーシュとラーニーの婚約式が行われた。ところがその次の日、アーシーシュは医者(ボーマン・イーラーニー)の言葉を勘違いし、癌で余命1年と思い込む。アーシーシュはラーニーを結婚早々未亡人にしたくなかった。だが、ラーニーに真実を告げたら、彼女は意地でも結婚すると言い張るだろう。そこで考え抜いた末、悪い男を演じてラーニーに嫌われるようにし、結婚をキャンセルさせる作戦を取る。

 アーシーシュはそのために、モデルのサーニヤー(マッリカー・シェーラーワト)を利用することに決める。アーシーシュはラーニーにサーニヤーのことを「昔の恋人」だと告げ、しかも今でも関係が続いていると思わせる。それを見たラーニーはとうとうアーシーシュに婚約破棄を言い渡す。悲しむラーニーを一生懸命慰めていたのは、アーシーシュの悪友ローヒト(アーフターブ・シヴダーサーニー)であった。ローヒトもラーニーのことが好きだったため、そのままラーニーの心を掴み、とうとう2人は結婚することになる。

 一方、サーニヤーはアーシーシュのことを本気で好きになっていた。サーニヤーはアーシーシュを兄に紹介する。ところがサーニヤーの兄は、マレーシアを拠点とする国際的マフィア、アンナー(スニール・シェッティー)であった。アンナーは妹を溺愛しており、アーシーシュのことも気に入る。そしてアンナーはアーシーシュとサーニヤーの結婚を勝手に決めてしまう。

 勝手にサーニヤーとの結婚を決められ、しかもローヒトとラーニーが結婚することを聞き、居ても立ってもいられなくなったアーシーシュは、サーニヤーに、自分が癌であり、結婚できないことを告白する。それを知ったアンナーは、医者を呼んでアーシーシュが本当に癌か確かめさせる。医者はアーシーシュが癌でないことをはっきりと述べる。

 自分はまだ余命があることを知って喜んだアーシーシュは、アンナーのアジトから抜け出し、ラーニーの元に駆けつける。そこではローヒトとラーニーの結婚式が行われていた。アーシーシュは、自分の勘違いから起こったことを全て打ち明けるが、なかなか信じてもらえなかった。そこへアンナーの手下がやって来て、アーシーシュを連れ去って行く。アンナーはアーシーシュとサーニヤーの結婚式を強行しようとする。だが、そこへ敵のマフィア(グルシャン・グローヴァー)が乱入してきて大混乱となる。それに乗じてアーシーシュとサーニヤーは逃げ出す。

 サーニヤーがアーシーシュを連れて行った先では、ローヒトとラーニーが待っていた。ローヒトとサーニヤーは偶然から電話で会話をし、アーシーシュとラーニーのことを相談し合っていたのだった。そして2人を引き合わせる場所を決めていたのだった。アーシーシュとラーニーは抱き合う。

 典型的インド映画。僕は「典型的インド映画」という言葉をいい意味でも悪い意味でも使うが、この映画にはいい意味で使いたい。基本的にはコメディーだが、恋愛あり、アクションあり、色気あり、感動ありの、方程式通りの良作であった。そしてヒメーシュ・レーシャミヤーの音楽がプラス要素となっている。

 まずは突然、アクシャイ・カンナー演じるアーシーシュが観客に向かって自己紹介するところから始まる。「今まであなたたちはいろいろな恋愛小説を読んだでしょうし、恋愛映画を観たでしょう。自分で恋愛もしたでしょう。ひとつ、私の恋愛話を聞いて下さい。」机の上には、「Devdas」(2002年)や「Kal Ho Naa Ho」(2004年)のDVDが置いてあるのが見える。そして彼は言う。「私は、結婚の前に婚約を破棄しようとしています。」この映像は、実は自分が癌であると発覚し、ラーニーとの婚約を破棄しようとする前に、真実を残すために撮影していたビデオであった。そこから一旦、アーシーシュとラーニーの出会いから婚約までが軽快な語り口で語られ、観客を爆笑させながら映画の世界にグイグイ引き込む。非常にうまい導入部だったと思う。

 アーシーシュは、悪い男を演じてラーニーに嫌われることに決め、そこから本格的にストーリーが回り始める。マッリカー・シェーラーワト演じるサーニヤー(おそらくテニス選手サーニヤー・ミルザーから取ったのだろう)が登場し、サーニヤーの兄アンナーが加わることにより、爆笑の波は一応の頂点を迎える。そこからは少し中だるみとなり、結末も上出来とは言えなかったが、十分に笑わせてくれるコメディー映画だった。

 もし脚本と編集にケチをつけるとすれば、アーシーシュの癌が実は勘違いであったということは、伏線を張るだけに留めておいて、終盤までばらさないでおいた方がよかったと思う。この映画で最も優れていたのはダイアログであろう。セリフの隅々まで笑いのネタが詰め込まれている。ヒンディー語が理解できないと理解できない、笑えない部分が多いのが、日本人観客には難点か。

 アクシャイ・カンナーは久々に見た気がする。やたら前髪が気になる髪型をしていたが、けっこうコメディーもできる俳優だと少し見直した。アーイシャー・ターキヤーは少し太ってしまってフグみたいな顔になってしまった。彼女はこの映画のヒロインにも関わらず、見せ場はあまりなかった。どうしても観客の目は、「セックスシンボル」マッリカー・シェーラーワトの方に目が行ってしまう。マッリカーは以前に比べてだいぶ大人っぽい顔つきになり(実はけっこう年は行ってるようだが)、演技も見違えるほどうまくなったような気がする。マッリカーはこの映画の中で数々の名セリフを残す。「短い人生で長い夜を過ごしたいなら、私を呼んで」、「私は全インドにキスの仕方を教えることができるわ」、「You’re hot, very hot, forget me not」などなど。マッリカーはもしかして大女優の器かもしれない。ただし、派手なセクシーシーンは今回はない。

 脇役のコメディー俳優陣も元気だった。ラージパール・ヤーダヴは、おかしな詩を常に口ずさんでいる変人詩人役。ボーマン・イーラーニーはマフィアのドンにも動じない挙動不審の医者役。アヌパム・ケールは真面目なのか不真面目なのかよく分からないターウー(叔父さん)役。グルシャン・グローヴァーは娘婿の仇を取るためにアンナーを追いかけるクレイジーなマフィア役。そしてすっかり脇役出演が定着してしまったスニール・シェッティーは、「アンナー、チャウビース・ガンテー・チャウカンナー(俺の名はアンナー、24時間用心深いぜ)」が口癖のマフィアのドン役。そしてそれらの脇役が映画の本筋と調和していたのが見事であった。

 ヒメーシュ・レーシャミヤー作曲の「Shaadi Se Pehle」のサントラCDは現在ヒット中。最も人気のあるのは「Bijuriya」という曲だ。この曲は映画中で一瞬だけ流されるが、フルバージョンは映画が終わった後のエンド・クレジットで流される。その他、マッリカー・シェーラーワトの登場シーン「Mundiya」や、アーシーシュがラーニーに真実を告白するシーン「Sache Aashiq」などが名曲である。

 映画は一瞬だけマレーシアのクアラルンプールに飛ぶ。クアラルンプールのランドマーク、ペトロナス・ツインタワーがよく背景に登場する。その他、映画の最後で美しい丘陵地帯が出てくるが、どこなのか特定できなかった。おそらくインド国内だと思うのだが・・・。

 映画中少し気になったのは、アーシーシュとカーンプリー(ラージパール・ヤーダヴ)が葬儀屋を訪ねるシーンである。そこでアーシーシュは葬儀屋と、自分の葬儀方法や墓について相談する。墓?ヒンドゥー教徒は、遺灰は全て河に流してしまうため、墓は作らないはずである。偉人が死んだ場合は、例外的に記念碑が作られることがあるが、あくまで記念碑であって墓ではない。ラージャスターン州には、チャトリーと呼ばれる墓苑が見られるが、これも正確には記念碑であって墓ではない。映画中では「サマーディ(記念碑)」と呼ばれており、本当の墓ではないと思われる。だが、映像で見る限り、墓とほぼ同じような形状であった。もしかしてヒンドゥー教徒の一般人の間でも、墓や記念碑を作る習慣が生まれつつあるのであろうか?またこのシーンでは、葬儀屋が葬儀にかこつけて暴利をむさぼる有様が風刺されていたのも気になった。

 「Shaadi Se Pehle」はいい意味でインド映画らしい傑作コメディー映画である。スカッとした気分で映画館を出ること請け合いだ。マッリカー・シェーラーワトにも注目。