Ek Ajnabee

3.0
Ek Ajnabee
「Ek Ajnabee」

 今日はPVRプリヤーにて、2005年12月9日公開の新作ヒンディー語映画「Ek Ajnabee」を観た。題名は「とある異邦人」という意味。監督は「Mumbai Se Aaya Mera Dost」(2002年)のアプールヴァ・ラーキヤー、音楽はアマル・モーヒレー。キャストは、主演は現在入院中のアミターブ・バッチャンに加え、アルジュン・ラームパール、パリーザード・ゾーラービヤーン、ヴィクラム・チャートワール、ルーチャー・ヴァイディヤ(子役)、ラージ・ズトシー、ダヤーシャンカル・パーンデーイ、アキレーンドラ・ミシュラー、ケリー・ドルジ、ユト(タイ人)など。アビシェーク・バッチャン、ラーラー・ダッター、サンジャイ・ダットが特別出演。

 退役軍人のスーリヤヴィール・スィン(アミターブ・バッチャン)は、元部下のシェーカル(アルジュン・ラームパール)に招待されてバンコクへやって来た。スーリヤは作戦中に民間人を謝って殺してしまったことを悔い、酒びたりの毎日を送っていた。シェーカルはスーリヤに、バンコク在住のインド人大富豪の一人娘の警護の仕事を斡旋する。

 大富豪の名前はラヴィ(ヴィクラム・チャートワール)、その妻の名前はニカシャー(パリーザード・ゾーラービヤーン)、娘の名前はアナーミカー(ルーチャー・ヴァイディヤ)だった。バンコクでは大富豪の子息の誘拐事件が多発しており、アナーミカーの身にも危険が迫っていた。スーリヤは最初、アナーミカーとうまく行かなかったが、水泳の特訓を手伝ったことをきっかけに急速に接近する。しかし、一瞬の隙を突いて誘拐犯たちはスーリヤを襲撃し、アナーミカーは連れさらわれてしまう。誘拐犯(ラージ・ズトシー)は両親に100万ドルの身代金を要求する。ラージは身代金を渡してアナーミカーを助けようとするが、警察の横槍が入り、邪魔されてしまう。警察に邪魔されたことを怒った誘拐犯は、冷酷にもアナーミカーを射殺してしまう。

 一方、数発の銃弾を受けながらも一命を取り留めたスーリヤは、アナーミカーを誘拐し、殺した犯人への復讐を誓う。スーリヤはシェーカルやタイ警察(ケリー・ドルジ)の力を借りて事件の全貌を探って行く。すると、誘拐事件の裏には、アナーミカーの父親のラージがいることが分かった。ラージは、会社が抱えている多額の負債を、アナーミカーに懸けられた保険金でまかなうために誘拐を計画したのだった。しかし、アナーミカーが殺されてしまったのは彼にとっても誤算だった。スーリヤにそれを告げられると、ラージは自殺をしてしまう。

 ラージの弁護士チャン(ユト)を通じて遂に誘拐犯とのコンタクトに成功したスーリヤは、アナーミカーがまだ生存していることを知る。また、チャンは誘拐犯の弟であることも分かる。スーリヤはチャンの身柄とアナーミカーを交換することを提案する。

 身柄引き渡し場所で待つスーリヤやニカシャーの前に誘拐犯が現れ、アナーミカーとチャンの身柄交換が行われる。ところがそこにもう一人の人影があった。それはシェーカルだった。シェーカルまでもがグルだったのだ。スーリヤをバンコクに呼んだのも、最初からこの誘拐計画を成功させるためだった。スーリヤとシェーカルは死闘を繰り広げ、最後にスーリヤはシェーカルを倒す。

 15年後、護衛を引退したスーリヤに代わり、成長したアナーミカー(ラーラー・ダッター)のボディーガードを務めていたのは若い男(アビシェーク・バッチャン)であった。

 アミターブ・バッチャンのカリスマ性がうまく引き出された作品。この映画の見所は前半に集中している。後半は普通のアクション映画になってしまっていた。カメラワークや映像に斬新な工夫が見られたのは特筆すべきである。

 前半の、スーリヤとアナーミカーが打ち解けて行くシーンは、非常にセンシティヴに描かれていてよかった。スーリヤがアナーミカーの水泳を指導し、彼女が学校の大会で優勝するまでのシーンは間違いなくこの映画のハイライト・シーンであろう。だが、アナーミカーがさらわれてからは急に白けてしまう。特にスーリヤが誘拐犯たちを拷問するシーンは観客の目を背けさせるほど残酷であった。指を一本一本切り落としていったり、肛門に爆弾を突っ込んで爆発させたり、とテロリストよりも残酷な手段を使っていた。ラージを自殺させる必要もなかったのではないかと思った。。

 アミターブ・バッチャンの、どことなく影のある「怒れる老年」の演技は、「Black」(2005年)以来の好演と言っていいかもしれない。「Ek Ajnabee」でも「Black」でも、子役との共演でバッチャンの潜在的演技力が引き出されていたように思える。バッチャンは案外子役と相性のいい俳優なのかもしれない。だが、それには子役の演技力も不可欠となる。その点、アナーミカーを演じたルーチャー・ヴァイディヤは合格点と言っていいだろう。無邪気な演技が、ドンヨリとした映画全体の雰囲気をほぐしていた。

 アルジュン・ラームパールも好演をしていた。髪型がかっこよかった。ミュージカルシーン「Ek Ajnabee – Mama Told Me」でも今までにないワイルドな存在感を醸し出していてよかった。元々モデルなので、彼にあまり踊りや演技をさせてはならない。自然体が一番だ。

 本日同時公開された「Ek Ajnabee」と「Neal ‘n’ Nikki」(2005年)では、どちらも偶然にアビシェーク・バッチャンが特別出演していた。最近のアビシェークの人気はすさまじい。もう父親に届くくらいの人気なのではなかろうか?「Yuva」(2003年)でマニ・ラトナム監督にキャラを確立してもらって以来、アビシェークの人気も実力もうなぎ上りである。アビシェークがスクリーンに登場すると、館内から黄色い声が上がっていた。これで、「Bunty Aur Babli」(2005年)、「Sarkar」(2005年)に続き、バッチャン親子共演は通算3度目となる。また、サンジャイ・ダットが、エンドクレジット中に流れるミュージカル「They Don’t Know」で特別出演している。

 舞台はバンコクだったので、全編バンコクでロケが行われたようだ。民主記念塔、カオサン通り、ゴーゴーバーなど、いくつか有名なスポットが出てきた。「サワディー」や「コプクン」のようなタイ語も登場。タイ人俳優も何人か出ていたが、有名な人なのかはよく分からない。「Kal Ho Naa Ho」(2003年)、「Salaam Namaste」(2005年)、「Neal ‘N’ Nikki」(2005年)のような西洋諸国ロケのインド映画よりも、アジアロケのインド映画の方が僕は好きである。今までタイで多くの場面が撮影されたインド映画というと、「Chura Liyaa Hai Tumne」(2003年)や「Murder」(2004年)などが有名だ。

 「Ek Ajnabee」は前半がよかっただけに、後半からの失速は非常に残念。だが、アプールヴァ・ラーキヤー監督は才能のある監督だと思うので、これからの作品に期待したい。