Mumbai Xpress

4.0

 クリケットのパーキスターン代表がインド遠征に来ており、インド人は皆クリケット観戦をしているから映画館は空いているだろうと思い、映画を観に出かけることにした。2005年4月15日から封切られたヒンディー語映画は4本。時間の制約から全てを見ることはできないので、注意深く見る映画を選択しなければならない。その中から、一番公開規模の大きい「Mumbai Xpress」を観ることにした。新作映画が大量に公開されて、どれを観ようか迷ったら、最も多くの映画館で公開されている映画、またはシネコンで最も多くの上映回数を得ている映画が、外れがないことが多い。一方、公開から時間が経っている場合は、連続公開週数の多い映画が面白い映画であるのは常識である。

 「Mumbai Xpress」は、ヒンディー語とタミル語の2バージョンでの公開。もちろん見たのはヒンディー語版。監督はスィンギータム・シュリーニヴァーサ・ラーオ、音楽はイラヤラージャ。キャストは、カマル・ハーサン、マニーシャー・コーイラーラー、オーム・プリー、ディネーシュ・ラーンバー、ヴィジャイ・ラーズ、シャラト・サクセーナー、ラメーシュ・アルヴィンド、サウラブ・シュクラー、ディーナー、ハールディク・タッカル、プラティマー・カーズミーなど。

 ディガンバル(ヴィジャイ・ラーズ)、ジョンソン(ディネーシュ・ランバー)、ラージュー(ディーナー)の三人は、大富豪メヘター(サウラブ・シュクラー)の息子を誘拐し、身代金250万ルピーをせしめようと計画していた。しかし、実行2日前に盲腸によりラージューが入院してしまう。そこでラージューの妻ドゥルガー(プラティマー・カーズミー)の弟、アヴィナーシュ(カマル・ハーサン)が代役を務めることになった。だが、アヴィナーシュはバカ正直で変な男だった。彼は「ムンバイー・エクスプレス」の異名を持ち、アクロバティックなバイク技を披露して日銭を稼いでいる、耳ツンボの男だった。

 誘拐計画は次々と起こるトラブルのせいで難航する。ジョンソンは交通事故で病院行きになり、途中で保健会社に勤める男がなぜか仲間に入り、ディガンバルは誘拐計画中に睡眠薬を自分で嗅いでしまい眠ってしまう。結局アヴィナーシュが1人で実行することになるが、彼はメヘターの息子と一緒に、警視副総監SPラーオの息子ダッドゥー(ハールディク・タッカル)も誘拐してしまう。だが、ダッドゥーは実はラーオと愛人アハリヤー(マニーシャー・コーイラーラー)の間の隠し子だった。よってラーオは事を大っぴらにすることができなかった。アヴィナーシュはメヘターから1,000万ルピーの現金を受け取って彼の息子を解放するが、ディガンバルたちから追われる身となり、ダッドゥーと共に逃げ出す。

 アヴィナーシュはダッドゥーに連れられてアハリヤーの家を訪れる。アハリヤーはダッドゥーが誘拐されたことを知って狼狽していたが、ダッドゥーの無事な姿を見て安心する。だが、アハリヤーは息子が戻って来たことをラーオには伝えなかった。なぜならアハリヤーは、ラーオが身代金として用意した1,000万ルピーを手に入れて逃げようと思っていたからである。だが、ラーオは既にディガンバルらに1,100万ルピーを支払っていた。また、ラーオはアハリヤーに口止め料として250万ルピーを渡すことを約束し、腹心のサクセーナー(シャラト・サクセーナー)に金を託す。そのとき、父親の愛に飢えたダッドゥーが飛び降り自殺をしようとする。だが、アヴィナーシュが父親になることを約束し、ダッドゥーを思いとどまらせることに成功する。また、正直な彼はメヘターから受け取った1,000万ルピーを彼に返すことを決める。

 次の日、アヴィナーシュはメヘターの家を訪れる。だが、同時にラーオはメヘターの家に、サクセーナーを送っていた。サクセーナーがメヘターに25万ルピーを渡し、メヘターがアハリヤーにそれを手渡す算段になっていた。ところがサクセーナーが到着する前にアヴィナーシュが到着する。メヘターはアヴィナーシュのことをサクセーナーだと勘違いし、彼が持ってきた1,000万ルピーをアハリヤーに渡すように言う。アヴィナーシュも、メヘターの慈悲深い心がそうしているのだと勘違いする。二人はアハリヤーの家へ行くが、アハリヤーはダッドゥーと共に金を持って逃げた後だった。アヴィナーシュが持っていた1,000万ルピーは、アハリヤーが徹夜で作った偽札だった。そこへやって来たディガンバルらは、偽札の入った袋を奪って逃走する。また、サクセーナーもそこへやって来る。サクセーナーはアヴィナーシュを警官だと勘違いし、彼に250万ルピーを託す。メヘターはサクセーナーと共にディガンバルらを追うと同時に、アヴィナーシュは列車ムンバイー・エクスプレスに乗って逃げたアハリヤーらをバイクで追う。だが、警察もアハリヤーを追って来ていた。

 ムンバイー・エクスプレスに追いついたアヴィナーシュは、列車を緊急停止させ、アハリヤーとダッドゥーをバイクに乗せて逃げる。ムンバイーの街中を走り回ったあげく、彼はサクセーナーらと鉢合わせてしまう。サクセーナーはラーオに電話で指示をあおぐ。ラーオは列車ムンバイー・エクスプレスが緊急停止してしまった報を受けていたため、「ムンバイー・エクスプレスを発車させろ」と言ってしまう。サクセーナーは、ムンバイー・エクスプレスの異名を持つアヴィナーシュらを逃がしてしまう。また、ディガンバルらの手に渡ったラーオの1,100万ルピーは、ジョンソンが飼っている馬が全部食べてしまった。

 低予算映画ながら、よくひねられたコメディー映画。ストーリーが二転三転するのであらすじを書くのが難しかった。上のあらすじは、読んだだけではチンプンカンプンだろうが、映画を観た後に読めばきっと理解できるだろう。

 最近のヒンディー語映画界では、ハリウッドのようにいろいろなジャンルの映画が作られるようになって来たが、今も昔もインド人に最も人気のあるのがコメディー映画である。インド人は映画館に息抜きに来る人がほとんどなので、お気楽なコメディー映画が一番好まれている。コメディー映画しか見ない、というモットーを頑なに守っているインド人も少なくない。だが、観客の爆笑を誘うために、インドのコメディー映画は一発一発の単発ギャグに重点を置くあまり、全体のバランスが崩れてしまっているものが多い。「Ek Se Badhkar Ek」(2004年)はその好例だ。しかし、インド人はあまり細かいことを気にしないようで、いくらストーリーが無茶苦茶でも、腹を捩じらせて笑うことができる映画はヒットする傾向にある。

 だが、単発ギャグも面白く、映画全体もうまくまとまった優れたコメディー映画というのもインドにはたくさんある。「Munna Bhai M.B.B.S.」(2003年)は近年稀に見る傑作コメディー映画だ。今日鑑賞した「Mumbai Xpress」も、バランスの取れたコメディー映画の一例である。ストーリーにそれほど破綻がない上に、一場面一場面がショートコントのようで、映画館は何度も大爆笑の渦に巻き込まれた。コメディー映画にしては、迫力あるアクションシーンも多かったのもポイントが高い。

 前半の山場は、誘拐作戦である。小学校に潜入して富豪の息子を誘拐するというものだが、なんとクレーン車で上から校庭に侵入し、子供に睡眠薬を嗅がして捕まえ、またクレーン車で脱走するという、「ミッション・インポッシブル」(1996年)のパロディーみたいな爆笑作戦だった。クレーン車にヴィジャイ・ラーズがぶらさっている様は失笑が漏れるし、カマル・ハーサンがクレーン車の上を歩くシーンはハラハラした。また、インターミッション前のチェイスシーンも迫力満点。アヴィナーシュがダッドゥーを連れてバイクで疾走し、それをディガンバルらが追いかけるのだが、走り回る場所がムンバイーのスラム街みたいなところで、面白かった。後半も、カマル・ハーサンがバイクから列車に乗り移るシーンなどがあった。また、アヴィナーシュは、円状の壁を遠心力を使ってグルグルと回るアクロバティックな走行を得意とするライダーであり、映画中そのシーンが何度も出てきた。多くは合成だったが、中にはスタントを使った本当のアクロバットもあったと思う。アヴィナーシュの異名「ムンバイー・エクスプレス」と、実際の列車ムンバイー・エクスプレスで混乱する最後のオチも秀逸だった。結局アヴィナーシュらは、メヘターからの身代金1,000万ルピー+ラーオがアハリヤーに渡した口止料250万ルピーをまるまる手に入れ、めでたしめでたしということになった。

 ストーリーもよくまとまっていたが、俳優たちの演技も素晴らしかった。主演のベテラン男優カマル・ハーサンは言うに及ばず、オーム・プリー、ヴィジャイ・ラーズ、サウラブ・シュクラーなど、存分にコメディアンぶりを発揮していた。この映画のマニーシャー・コーイラーラーはきれいだった。マニーシャーは最近かなり太ってしまったのだが、顔は依然として痩せている。今回は常にサーリーを着ていたので、太っているのが目立たなかった。

 約3時間の映画だったが、ミュージカルシーンはほとんどなかった。無意味にミュージカルシーンを入れず、コメディーに徹したのは正解だっただろう。

 とりえあず、今週から公開された4本の新作ヒンディー語映画の内、「Mumbai Xpress」は観て損はないコメディー映画である。