Socha Na Tha

3.5

 今日はPVRアヌパム4で、2005年3月4日公開の新作ヒンディー語映画「Socha Na Tha」を鑑賞した。「Socha Na Tha」とは、「考えてなかった」「思ってもみなかった」という意味。監督は新人のイムティヤーズ・アリー、プロデューサーはダルメーンドラ、音楽はサンデーシュ・シャーンディリヤー。キャストは、アバイ・デーオール(新人)、アーイシャー・タキヤー、アプールヴァー・ジャー、スレーシュ・オーベローイ、ラティ・アグニホートリー、ディットー、サンディヤー・ムリドゥルなど。

 ヴィーレーン・オーベローイ(アバイ・デーオール)は米国留学から帰国して以来、放蕩生活を送っていた。ヴィーレーンには3年間親に内緒で交際中のガールフレンド、カレン(アプールヴァー・ジャー)がおり、彼女と結婚しようと思っていたが、なかなかプロポーズできずにいた。一方で、両親はヴィーレーンのお見合い相手を探し始めていた。ヴィーレーンは適当にお見合いして適当に断ろうと考え、マロートラー家とのお見合いをすることにした。ヴィーレーンのお見合い相手はアディティー(アーイシャー・タキヤー)という女の子だった。お見合いの席で二人っきりになると、二人はお見合いが馬鹿馬鹿しいイベントであること、またお互い結婚する気がないことを確認し合い、その後は打ち解けてお互いのプライベートなことを話し合う。ヴィーレーンは、なぜかアディティーの前で、今まで誰にも明かしていなかったカレンとの恋愛の悩みを打ち明ける。ヴィーレーンとアディティーの縁談は、二人の計画通りまとまらなかった。その結果、オーベローイ家とマロートラー家の仲は悪くなってしまう。

 その後、二人は街で偶然再会する。未だにヴィーレーンはカレンにプロポーズできずにいた。ヴィーレーンは、カレンが本当に自分のことを愛しているのか分かりかねて悩んでいた。アディティーは、カレンが彼のことを好きかどうか確かめる提案をする。ヴィーレーンはアディティーをカレンに紹介する。三人は一緒にゴアへ旅行したりするが、次第にヴィーレーンはアディティーの方に惹かれていき、それと同時にカレンが嫉妬を感じ始める。アディティーはカレンの心に気付いていたが、鈍感なヴィーレーンは自分の中で何が起こっているか理解できなかった。

 ゴアから帰った後もヴィーレーンはアディティーと出会いを重ねていた。それが家族にばれ、ますます両家の仲は悪くなる。同時に、ヴィーレーンは周囲の雰囲気に流されてカレンにプロポーズをしてしまう。カレンはプロポーズを受け容れるが、ヴィーレーンはなぜか心が晴れなかった。カレンはキリスト教徒、ヴィーレーンはヒンドゥー教徒で、この結婚は困難が予想されたが、ヴィーレーンはカレンの両親とも会って話をし、何とか結婚を認められる。ヴィーレーンの両親も、この結婚を受け容れる。

 一方で、アディティーの結婚相手も決まった。相手は幼馴染みのマヘーシュだった。ヴィーレーンは居ても立ってもいられなくなり、わざとカレンの父親を怒らせて結婚を破談させ、アディティーの部屋に忍び込んで駆け落ちすることを提案する。だが、アディティーはそれを拒否した。ヴィーレーンはアディティーの家族に見つかり、家から追い出された上に、自分の両親からも絶縁される。だが、心を入れ替えたヴィーレーンは両親に謝り、父親の会社で真剣に働くようになる。

 アディティーの婚約式が行われていた。カレンはアディティーを訪れ、「私からヴィーレーンを奪っておいて、別の人と結婚するのは許せない」と迫り、本当に好きな人と結婚するよう励ます。アディティーは婚約式を抜け出してヴィーレーンの勤める会社に直行する。ヴィーレーンは驚くが、アディティーと駆け落ちすることを決め、2人で遠くへ旅立つ。それを父親は温かく見守っていた。

 若い男女が、障害や困難を乗り越えて恋愛を成就させ、結婚に至るという、典型的なロマンス映画。まとめ方がいい加減だったが、観客の感情操作はうまく行われていた。こういう典型的インド映画を評価する際、最も重視しなければならないのは、ストーリーでもテクニックでも何でもなく、観客の感情をいかにうまく誘導して行ったかどうかにあると思う。その点では「Socha Na Tha」は合格だった。

 この映画では、お見合いで出会った男女が、一旦結婚を拒否しながらも、やっぱり惹かれ合い、最後には結ばれるという、少し捻った筋が一応の見所だと思うが、もっともよく描かれていたのは、主人公ヴィーレーンの迷走する不安定な感情である。ヴィーレーンは、3年間付き合っていたカレンと恋愛結婚するはずが、お見合いの席で理想の女性アディティーとひょんなことから出会ったことにより本当の恋を知ってしまい、カレンへの感情は恋愛ではなかったことに気付く。「愛してない人と恋愛結婚してどうするんだ!」ヴィーレーンは自分に問い掛ける。しかしながら、カレンとの結婚は決まってしまい、どんどん後に引けなくなって行ってしまう。ヴィーレーンは、自分の感情がどうなっているのか、具体的にどうしたらいいのか分からずジタバタしている内に話がこんがらがって行き、アディティーやカレンの家族だけでなく、自分の家族にまで迷惑をかけ、終いには見捨てられてしまう。男というのは、自分で自分の感情があまり分かっていないものだ。恋愛結婚にしたって、男にとっては必ずしもその女性を心から愛しているから結婚するというものでもなく、もっと別の理由で結婚するということが多いのではないかと思う。男の感情の機微がよく描かれていたと感じた。

 もうひとつこの映画の長所を挙げるならば、ヴィーレーンとアディティーの家族の人物設定がうまかったことだ。ヴィーレーンには両親の他、兄と兄嫁がおり、特に兄嫁が彼のよき理解者となっていた。一方、アディティーの両親は既に死んでいるという設定になっており、彼女は叔父の家族で育ってきた。祖母、叔父、叔母、従兄弟、従兄弟の嫁などがアディティーの家族であった。インドの大家族制をよく表しており、それぞれがどのような役割を果たしているのかもうまく描写されていた。しかし、カレンの家族はそれと比べると貧弱であった。

 最後のまとめ方はこの映画の最も弱い部分だ。ヴィーレーンとアディティーは駆け落ちをしてしまうのだが、はっきり言って何の解決にもなっていないし、駆け落ちを両家がやすやすと認めるとは思えない。ストーリーの収拾がつかなくなって、無理矢理ハッピーエンドにしてしまったという感じだった。なぜかヒマーチャル・プラデーシュ州の山奥の村で二人が踊っているシーンが映し出された後にスタッフロールとなる。

 ヴィーレーンを演じたアバイ・デーオールは、名前からも分かる通り、映画カースト、デーオール・ファミリーの新しいメンバーである。つまり、往年の名優ダルメーンドラの甥で、サニー・デーオール、ボビー・デーオール、イーシャー・デーオールらの従兄弟にあたる。特にボビー・デーオールと顔がそっくりである。個人的にボビー・デーオールの顔は好きではないので、あれと同じ顔がヒンディー語映画界にもう1つ増えたことにはショックを隠し切れない。演技もそれほどうまいとは言えず、ボビーと同じくアクション男優の道を歩むのではないかと思う。

 この映画の中で最も輝いていたのは、アーイシャー・タキヤーである。アーイシャーは「Taarzan」(2004年)でデビューした新人女優だが、元気はつらつとした魅力があり、これから伸びて行きそうだ。彼女の顔は、今までのインド映画女優で主流だった美人顔ではなく、日本の少女漫画に出てきそうなかわいい系の顔である。インド人の好みがだんだん変わってきていることを示しているのか、それともただ単純にダルメーンドラの好みだろうか。その一方で、カレンを演じたアプールヴァー・ジャーはどちらかというと美人顔に分類される顔であった。

 細かいところを気にしなければ、まあまあ楽しめる映画である。だが、3年間付き合っていた彼女を捨てて、お見合い相手と結婚するというストーリーであるため、未婚のカップルで観るには適さない映画かもしれない。お見合い結婚した夫婦向けの映画と言えるだろう。