Raincoat

4.0
Raincoat
「Raincoat」

 今日はPVRプリヤーで、2004年12月24日公開の新作ヒンディー語映画「Raincoat」を観た。今年初めにデリーでも一般上映されたベンガリー語映画「Chokher Bali」(2003年)のリトゥパルナ・ゴーシュ監督が初めて撮ったヒンディー語映画で、主演はアジャイ・デーヴガンとアイシュワリヤー・ラーイ。その他、マウリー・ガーングリーやアンヌー・カプールなどが出演。

 村で無為に過ごしていた貧しい青年マンヌー(アジャイ・デーヴガン)は、一念発起してカルカッタにやって来る。マンヌーは友人の家に滞在し、ビジネスを始めようとが、彼がカルカッタにやって来た本当の理由は、幼馴染みのニールー(アイシュワリヤー・ラーイ)に会うことだった。ニールーはマンヌーの近所に住んでおり、二人は恋仲だったが、ニールーは別の裕福な男とお見合い結婚してしまった。それ以来6年間、マンヌーはニールーのことを忘れられずに生きてきたのだった。

 マンヌーは大雨の日、友人の妻(マウリー・ガーングリー)から借りたレインコートを着てニールーの家を訪ねる。ニールーは窓を閉め切った真っ暗な家に住んでおり、幾分やつれたかのように見えた。家にはニールー以外誰もおらず、夫は今、仕事で日本に行っており、二人の使用人も出払っているとのことだった。家が真っ暗なのは停電のせいだという。ニールーはマンヌーに幸せに暮らしていると伝える。マンヌーは、TV局に勤めてTVドラマを制作しており、もうすぐ結婚する予定であると彼女に嘘を言う。

 ニールーはマンヌーの昼食の材料を買うため、彼のレインコートを着て外出した。マンヌーが留守番をしていると、一人の男(アンヌー・カプール)が訪ねてくる。最初マンヌーは彼がニールーの夫だと思ったが、彼は大家だった。大家は、ニールーの夫が詐欺師であること、ニールーはアンティークの家具の貸し借りをして生計を立てていること、家賃や電気代などをずっと滞納していることなどを明かす。マンヌーはそのとき、結婚する前にニールーが「あなたと次に会ったとき、幸せに暮らしていなくても、幸せに暮らしている振りをするわ」と言っていたことを思い出す。マンヌーは、ビジネスを始めるために借りたお金全てを、ニールーの家賃として大家に渡す。

 大家が出て行った後、ニールーは外からプーリーを買って帰って来た。マンヌーは彼女に何も言わず、ただプーリーを食べる。マンヌーが家に帰ると、レインコートの中から手紙とアクセサリーが見つかる。レインコートには、マンヌーがお金を借りるときに書いた手紙が入っており、彼がお金に困っている旨が書かれていた。それを読んだニールーは、自分のマンガルスートラを売り、マンヌーの花嫁のための装飾品を買い、レインコートの中に入れていたのだった。

 非常に難解な映画。上記のあらすじも正確ではないかもしれない。登場人物同士のセリフのやり取りに重点が置かれているため、しかもひとつのセリフに表の意味と裏の意味があることが多いため、そのひとつひとつを正確に理解していかないと全く訳の分からない映画になってしまうだろう。大まかな筋は、それぞれ貧しい生活を送っていた男女が久し振りに再会するが、自分の貧しさを隠しながら、それでもお互いの状況を密かに理解し、なけなしの金でお互いを金銭的に助けるというストーリーである。

 ベンガリー語映画界のリトゥパルナ・ゴーシュ監督は、現在のヒンディー語映画の主流・亜流とは全く違った手法でヒンディー語映画界に殴りこんだと言える。言語はヒンディー語だが、全体の雰囲気はサティヤジト・ラーイ(サタジット・レイ)監督に代表されるベンガリー語映画そのものである。じっくりと熟考されたセリフのひとつひとつは、冗漫に見えて無駄がなかった。この種の映画が簡単にヒンディー語圏の観客に受け容れられるとは思えないが、こういう映画を映画館で見れるようになったこと自体、インド映画業界の大きな進歩だと言える。

 主演のアジャイ・デーヴガンとアイシュワリヤー・ラーイの演技は彼らのフィルモグラフィーの中でベストに位置するのではなかろうか。内向的な青年を演じたアジャイ・デーヴガンは、アイシュワリヤーと共演した「Hum Dil De Chuke Sanam」(1999年/邦題:ミモラ)の頃を思い出させた。「Bride & Prejudice」(2004年)で演技力に疑問符が付いてしまったアイシュワリヤーだが、同映画の後に撮影されたこの映画を観れば、彼女に演技力がないと言うことはできないことが分かるだろう。

 映画は米国の小説家オー・ヘンリー(1862-1910年)の「賢者の贈り物(The gift of the Magi)」を基にしているという。「賢者の贈り物」は、貧しい夫婦がクリスマスのときにお互いにそれぞれ大切な物を売ってプレゼントを買うというストーリーだった。この映画はクリスマスなどとは関係なかったが、過去の回想シーンでディーワーリーが描かれていた。基本的に映画全体はオリジナルに近いと言える。

 この映画で影の主題となっていたのは、マンヌーのセリフ「結婚式の日、どうして花嫁は泣くのか」だと思った。マンヌーは友人の妻に問いかける。「両親から離れるから泣くのか?それとも別の理由が?」そして彼は続ける。「ところで彼とは連絡取り合ってるかい?」つまり、友人の妻にも昔、恋人がいたが、お見合い結婚によってその恋愛は成就せず、別の男性と結婚したのだった。

 普通の映画ではないが、映画が分かる人には「インド映画にもこういう作品があるのか」と衝撃を与える映画である。