Charas

2.0

 今日は、2004年5月7日公開の新作ヒンディー語映画「Charas」を観に、PVRナーラーイナーへ行った。監督は「Haasil」(2003年)のティグマーンシュ・ドゥーリヤー、音楽はラージュー・スィン。キャストはジミー・シェールギル、ウダイ・チョープラー、ナムラター・シロードカル、リシター・バット、イルファーン・カーンなど。ちなみに「Charas」とは「大麻」のこと。

 インドにアーユルヴェーダを学びに来た、植物学専攻のイギリス人留学生サムは、インドの山奥を歩いている内に行方不明になってしまう。サムを探すため、ロンドン市警でインド系移民三世のデーヴ・アーナンド(ジミー・シェールギル)がインドに派遣される。

 デリーのパハール・ガンジに着いたデーヴは、ガイドのアシュラフ(ウダイ・チョープラー)を雇い、彼と共にバイクに乗ってヒマーラヤの方角へ北上する。その途中、ナイナー(リシター・バット)という女性をヒッチハイクするが、彼女はいつの間にかどこかへ消えてしまった。山奥の村に着くと、そこには西欧から来たヒッピーたちがたくさん滞在していた。二人はピヤー(ナムラター・シロードカル)というチンピラみたいな女とも出会う。

 デーヴはサムを探し回る内に、この密林のどこかに大麻栽培の一大基地があることを突き止める。そこでとれる大麻は世界一の品質と裏世界では評判で、「ポリスマン」(イルファーン・カーン)と呼ばれる謎の男によって運営されていた。デーヴはそこにサムがいることを直感したが、政府からパーキスターンのスパイの容疑をかけられる。実はアシュラフは覆面警官で、デーヴを見張るために彼のガイドをしていたのだった。アシュラフはデーヴを捕らえるが、アシュラフも大麻基地のことを知り、そこのボスがかつて上司だったラートール警部だと直感する。デーヴとアシュラフは、大麻基地を探すためにジャングルに入る。

 一方、ピヤーは実は週刊誌アウトルックの記者で、大麻栽培に関する取材をするために来ていたのだった。ピヤーはデーヴが集めた情報を全て盗み、それを記事にしてしまった。この大麻栽培と大麻密貿易は、インド、イギリス、イタリア、アフガニスタンなどの政治家、警察、マフィアなどが関わっており、それが暴露されたために各国で大慌てとなる。ピヤーは追われる身となるが、より決定的な証拠を掴むために彼女も密林の中に入る。また、世界最高品質の大麻を求め、アフガニスタン人のマフィアも潜入して来る。

 デーヴとアシュラフは途中でナイナーにばったり出くわす。ナイナーがポリスマンの手下であることを既に知っていた2人は、彼女をガイドにして基地へ向かう。しかしそこに一足先にアフガニスタン人マフィアが襲撃をかけていた。デーヴとアシュラフは協力してアフガニスタン人を一掃するが、ポリスマンも自決してしまう。デーヴは、そこで無理矢理大麻の栽培を研究させられていたサムを発見する。また、そこへ辿り着いたピヤーは、大麻組織の全てを暴き、国際的麻薬密貿易網を一網打尽にするのだった。

 ヒマーラヤの奥地の大麻栽培基地の秘密を暴くというテーマは目新しかったが、主演男優2人、女優2人の演技力とカリスマ性の無さからか、監督の技量不足からか、全体的に退屈な映画だった。

 舞台である「インドの山奥のどこか」は、具体的には示されていなかったが、おそらくモデルとなっているのはヒマーチャル・プラデーシュ州マナーリーだろう。マナーリーはインド人の間では避暑地として有名だが、外国人バックパッカーやヒッピーたちの間では、ドラッグ天国としても非常に有名である。実はマナーリーはインドで最も外国人旅行者が何らかの事件に巻き込まれる数の多い場所で、この映画のストーリーもまんざらフィクションではない。事実、この映画の冒頭では「この映画は事実に基づいたフィクションです」と注記されている。ロケ地はクル~マナーリー辺りと、ラダックのレーかスピティー地方辺りだと思われる。デリーの大統領官邸付近や、パハールガンジ、ラージパトナガルもチラッと登場する。

 山奥で大麻の栽培を行う「ポリスマン」は、名前の通り昔は優秀な警察官だった。しかし部下を2人も失いながら必死の思いで捕まえたイタリア人武器商人が、「上からの命令で」あっけなく釈放されたのを見て激怒し、警察を辞める。その後、彼は山奥で大麻栽培を始め、政治家や警察とも癒着した国際的麻薬密輸組織のボスとなる。そのポリスマンのかつての部下の一人だったのがアシュラフで、デーヴの監視を続ける内にポリスマンの正体を知る。また、デーヴもサムの捜索を続ける内にポリスマンに行き着く。

 デーヴを演じたジミー・シェールギルと、アシュラフを演じたウダイ・チョープラーは、「Mohabattein」(2000年)や「Mere Yaar Ki Shaadi Hai」(2002年)で共演した仲だが、どちらもまだスターとしてのオーラが出ておらず、黄金コンビとは言い難い。真鍮コンビ止まりか。ウダイは顔が変だが踊りがなかなかうまいのでまだ救いようがあるが、この映画でのジミーは魅力に欠けた。ゲッソリと痩せてしまって見えるのは気のせいだろうか。ジミーが演じたデーヴ・アーナンドは、往年の名優デーヴ・アーナンドから名付けられたという設定だったが、それが何らかの伏線になったりしておらず、全く意味のない設定だった。

 配役上では悪役ということになるが、ポリスマンを演じたイルファーン・カーンは真の主役であり、この映画の唯一の救いと言っていいだろう。「Maqbool」(2004年)で好演していたイルファーンは、この映画でも渋くて味のある演技を見せた。現在のヒンディー語映画界でもっとも演技力のある男優に間違いない。怒りと絶望をミックスさせた表情がうまいと思う。

 一方、デーヴとアシュラフがバイクで走行中にヒッチハイクしたナイナーは、実はポリスマンの手下だった。また、アイスクリームをきっかけにデーヴと出会うピヤーは、実は麻薬密貿易の取材をするジャーナリストだった。映画中、デーヴとピヤー、アシュラフとナイナーの恋愛が少しだけ描かれる。

 ナイナーを演じたリシター・バットは、どちらかというとTVドラマ向けの顔に思えてならない。映画に出てきても、観客の視線をグッと引きつける吸収力があまりない。ピヤーを演じたナムラター・シロードカルもなかなかブレイクしない可哀想なニ流女優の一人だ。この2人のヒロインは、はっきり言って邪魔か障害物と思えてしまうほど映画を貶める存在となってしまっていた。もちろん脚本や監督の責任もあるわけだが、やはり2人共女優としての素質に欠けている。ヒーロー2人とヒロイン2人の恋愛描写がオマケ程度で中途半端だったし、最後のまとめ方も最悪だった。

 デーヴとアシュラフがヤマハのアメリカン、Enticerに乗ってインド山岳部の荒野を走る姿はなかなか壮観で、「イージー・ライダー」(1969年)を思わせた。インド映画でヒーローがバイクに乗って疾走するシーンがあるのは、他に「Dil Chahta Hai」(2001年)や「Sssshhh…」(2003年)ぐらいしか思いつかない。「Kaho Naa… Pyaar Hai」(2000年)ではリティク・ローシャンがバイクに乗っていたように記憶しているし、ファルディーン・カーン主演の「Janasheen」(2003年)ではバイクのレーサーが主人公だった。だが、大抵の場合、インド映画の主人公は四輪車を乗りこなすことが多い。つまり、これほどバイク社会なのにも関わらず、男優がバイクに乗る姿はあまり描かれないのだ。多分、「バイク=庶民の乗り物」というイメージが定着しているためだと思うが、次第に映画界で「バイク=かっこいい」という価値の転換が起こりつつあるのも確かである。普通、インドでアメリカンと言ったら、エンフィールドを置いて他にないのだが、この映画ではヤマハのEnticerが使用されていた。しかし125ccのバイクなので、これでラダックをツーリングしたりするのは大変だと思うのだが・・・。