Koi… Mil Gaya

5.0

 インド製SF映画と聞いて、妙に嫌な予感がするのは僕だけではあるまい。昔、有名なインド人映画監督マニ・ラトナムの「Anjali」(1990年)という映画が日本で公開された。ストーリー自体はSFではないのだが、ミュージカルの中に「E.T.」(1982年)をパクったような稚拙極まりないSFチックなシーンがあり、その衝撃があまりに大きかったためにそれが僕の「インド製SF」のイメージを固定してしまった。

 あれから時は流れた。インド映画も次第にいろんなジャンルの映画に挑戦するようになった。例えば最近の流行はホラー映画である。当初インド製ホラー映画は奇天烈極まりなく、失笑を抑えがたかったが、最近の作品は普通にハラハラドキドキできる映画になって来ている。2001年は時代物映画の当たり年だったことで記憶に新しい。そして遂にヒンディー語映画は禁断のSF映画に手を伸ばした。それが今、巷で話題沸騰中のヒンディー語映画「Koi… Mil Gaya(巡り会い)」である。2003年8月8日に公開された。嫌な予感はぬぐえなかったのだが、これが今年かつてないほどヒットしており、批評家の評価も上々で、しかもヴァージペーイー首相も絶賛したというただことではない事態になって来ていた。チケット入手もかなり困難になっており、公開4日目の今日にやっと見ることができた。

 主演はリティク・ローシャンとプリーティ・ズィンター、脇役にはレーカー、ジョニー・リーヴァル、ムケーシュ・リシなど。監督・プロデューサーはラーケーシュ・ローシャン、音楽はラージェーシュ・ローシャン。「Kaho Na… Pyar Hai」(2000年)と同じくローシャン一族のホームプロダクション作品だ。監督のラーケーシュ・ローシャンは端役でも出演している。

 ローヒト(リティク・ローシャン)は胎児の頃に負った脳の損傷が原因で知能の発育が遅れた子供だった。身体は高校生並みになっても知能は中学校1年生止まりだった。もう何年も留年し続けていた。しかし明るい性格のローヒトは子供たちの人気者だった。ローヒトの父親は他界しており、母親ソニア(レーカー)が女手ひとつで彼を育てていた。

 ローヒトの住むヒルステーションの町カサウリーにニシャー(プリーティ・ズィンター)が引っ越してくる。ニシャーは最初ローヒトの悪戯に腹を立てるが、彼が知能発育の遅れた子であることを知ると、献身的に彼の世話をするようになる。その内ローヒトとニシャーは小学校的な意味での「ボーイフレンド&ガールフレンド」の仲になる。しかしそれを面白く思わなかったのが、ニシャーの幼馴染みで番長のラージだった。ラージは事あるごとにローヒトをいじめる。

 実はローヒトの父親サンジャイ(ラーケーシュ・ローシャン)は宇宙人と交信を試みることに一生を費やした科学者だった。独自の機械を使って交信には成功したものの、他の科学者たちには一笑に付されて信じてもらえず、その帰りにUFOを見て運転を誤って事故に遭い、死んでしまったのだった。そのとき母親の胎内にいたローヒトの脳が損傷を受けたのだった。

 ある日ローヒトは物置から父親の機械を見つけ出し、適当に遊び感覚でいじってみた。それがなんとUFOを呼び寄せることになり、町の人の前に巨大なUFOが飛来した。UFOは短時間で去っていったが、着陸地点に残った足跡から、どうも宇宙人が1匹地球に取り残されたらしいことが分かる。警察や科学者たちはその宇宙人を捕獲しようと捜索に乗り出す。

 一方、宇宙人はローヒトとニシャーの前に現れる。ローヒトとニシャーは宇宙人を物置小屋に匿うことに決めた。宇宙人は超能力を持っており、ジャードゥー(ヒンディー語で「魔法」の意)と名付けられた。ジャードゥーはローヒトの脳を正常に戻した上に、彼にスーパーパワーを与える。そのパワーで今まで彼のことを馬鹿にしていた先生たちやラージたち不良少年たちを驚かす。

 悔しがるラージは、ニシャーのキスをかけてローヒトにバスケットボールの試合を申し込む。ラージのチームは前回のバスケットボール大会優勝のメンバーである。対するローヒトのチームは同級生の子供たち。しかしローヒトにはジャードゥーからもらったパワーがあったし、子供たちにもジャードゥーが超人的ジャンプ力が与えられた。ジャードゥーの力の源は太陽光なので、試合当初は曇っていてパワーが使えず形成不利だったが、途中から晴れ始め、一気に逆転。ローヒトのチームが勝利を収める。正常に戻ったばかりか常人を越えた力を手に入れたローヒトは、ニシャーに愛の告白をする。二人は本当の恋人になったのだった。

 ところが宇宙人を捕獲して実験対象にしようともくろむ警察や科学者たちの魔の手がジャードゥーに及びつつあった。宇宙人がローヒトの家にいることが勘付かれてしまう。ローヒトはジャードゥーを宇宙に帰そうとするが、ジャードゥーが去ってしまったらまたローヒトは元の低知能児に戻ってしまうという。しかしそれでもローヒトはジャードゥーを宇宙に帰すことに決め、宇宙と交信を始める。しかし交信が通じたそのとき、ローヒトの家は警察によって取り囲まれる。ローヒトはジャードゥーを連れて逃げ出す。一度は捕らえられるものの、命がけでジャードゥーを取り戻し、ちょうど飛来してきた宇宙船にジャードゥーを帰す。こうしてローヒトのパワーは失われてしまう。

 ローヒトは町の英雄になった。しかし元のローヒトに戻ったのをいいことにラージが復讐に現れる。ピンチになったそのとき、気付いたら彼のスーパーパワーが戻っていた。空を見ると宇宙船のシルエットが!ジャードゥーが力を返してくれたのだった。

 2003年ももう半分以上過ぎ去ったが、去年に比べてヒンディー語映画界もだいぶ盛り返してきたように思える。その中でも今日見た「Koi… Mil Gaya」は今年のヒンディー語映画で一、二を争う傑作となるだろう。これは「Kuch Kuch Hota Hai」(1998年)級の名作。一言で表せば全年齢対象SFラブコメ友情スポ根感涙映画。ハリウッドお得意のSF映画に、インド映画のテイストを強引にミックスさせたら、とんでもなく面白い映画ができあったという感じだ。はっきり言って、こんなに楽しいSF映画は初めて見た。最近のハリウッドの映画が技術偏重になってストーリーがおなざりになっていく中、インド製SF映画は、笑いあり、涙あり、恋愛あり、アクションシーンあり、スリルあり、サスペンスあり、もうなんでも詰まった超娯楽大作に仕上がった。

 ・・・と、かなり興奮気味に絶賛しまくってしまったが、本当に褒め言葉しか見つからないほどの傑作である。事前に少し懐疑的な期待を抱いていた分、実際に見た後の感動はさらに大きくなった。

 まず一番嬉しいのは、リティク・ローシャンの演技の上達である。低知能児という、今までのヒンディー語映画では有り得なかった難役に挑戦。見事に演じきっていた。今年度の主演男優賞はリティクに決定か。主演女優賞はどうやらもう既に「Bhoot」(2003年)のウルミラー・マートーンドカルが内定のようだが・・・。彼の映画を観るとどうしても右手の親指が気になってしまうのだが、今回はもうそんな細かいところに視線は行かなかった。というか、今回はかなり堂々と2本ある親指が画面に映っていた。ということが分かるということは、やっぱり視線は右手の親指へ行っていたということだが、それよりも彼の名演に集中すべきだ。当代随一のリティクのダンスも存分に楽しめる。今回は「猫ダンス」とも言うべき新ネタ登場。「It’s Magic」という曲で見ることができる。「Kabhi Khushi Kabhie Gham」(2001年)の「You Are My Sonia」ダンス並みにインドのディスコで流行ると思われる。練習してマスターすればインドで人気者間違いなし!

 プリーティ・ズィンターはいつも通りのはつらつとした元気いっぱい清涼演技で大満足。特に目立った点はなかったが、コテコテになりがちなSF映画に、何ともいえないそよ風のようなすがすがしさが加わっているのは彼女の役得だろう。

 意地悪な見方をすれば、この映画を、「E.T.」と「未知との遭遇」(1977年)を足して2で割ったような映画と評価することもできる。宇宙人との交信方法、UFO飛来の情景、光の中に浮かび上がる宇宙人の人影、愛くるしい宇宙人の姿、宇宙人を捕獲して科学に役立てようとする当局など、それら二大SF映画から多大な影響を受けた点はたくさん見受けられる。しかし、この映画には他のハリウッド製SF映画にはない人間味溢れた爽快感がある。SF映画にお笑いやら友情やら家族愛やらスポーツ対決やら、ありとあらゆる要素を自然な形で詰め込んでしまったのは驚嘆してしかるべきだと思う。これこそインド映画のエッセンスであり、ハリウッドの映画製作者には発想すら思い浮かばなかったものだ。

 いかにもインドっぽいな、と思わせてくれたのは、宇宙人との交信に使う機械が発する音。「未知との遭遇」そのまま、音での交信なのだが、なんと各音階が「オーム」という音を発するのだ。ちゃんと「オームはヒンドゥー教では宇宙の波動の音と言われている」という説明付き。欧米の科学者たちは「科学と迷信をごっちゃにするな」と馬鹿にするのだが、オーム音が宇宙人に通じ、おかげで宇宙人がUFOに乗ってやって来たのだ。やっぱインドはすごい!オームは宇宙の共通語だ!オウム真理教が暗躍した日本にはやって来なかったけど・・・。

 ヨーダとE.T.を足して2で割ったような宇宙人のジャードゥーもなかなかよかった。CGではなく、着ぐるみのようだったが、目やら口やらいろいろ動いていて高度な技術が使ってあったと思う。デザインも、宇宙人的で、かつ愛嬌もあり、不気味でもあってそのバランスがよかった。インド映画にしては驚くほど高品質な宇宙人だった。どうもオーストラリアの特撮会社が制作したようだ。

 映画のロケは、ウッタラーンチャル州の有名な避暑地ナイニータールとその周辺の町のようだ。カサウリーも実在の町である。その他にもカナダでロケが行われたようで、ハッとするような美しい風景を背景に見ることができる。

 ストーリーで一番優れていたのは、知能の遅れた青年と宇宙人の交流を核にしたところだ。宇宙人のおかげでローヒトは人並み以上の知能と運動能力を手に入れるが、彼を宇宙に帰すことでその力は失われてしまう。この葛藤がいい。ローヒトの母親は、我が子の知能遅れを嘆いていたので、本当はこのまま正常に戻ったローヒトのままでいてもらいたい。ローヒト自身もせっかくヒーローになれたから、本当はこのままでいたいと思っている。しかしジャードゥーを宇宙に帰さなければならない。涙を誘うシーンである。ジャードゥーを宇宙に帰した後のニシャーのセリフもよかった。「力は消えちゃったけど、私の愛は残ったでしょ。」SFにうまくロマンスも組み込んだな、と思った瞬間だった。

 ただ、その後ローヒトは力を取り戻してエンディングとなる。別に力は取り戻さなくてもよかったんじゃないかと思う。ニシャーのあのセリフで終わっていたら僕は100点満点中120点をあげたと思うが、最後に少し予定調和的理不尽さが見受けられたため、100点ということになった。インド映画的にはああいう終わり方が最上なのかな・・・。

 その気になれば、ドラえもんのようなTVドラマにも作り変えることができそうなストーリーだったと思う。脳に障害を持つローヒトが、宇宙からやって来て一人取り残されたジャードゥーに出会ってスーパーパワーを手に入れる。太陽の光がないと力を発揮できないという欠点もいい。ラージはもちろんジャイアンのような悪役だ。その他、ジャードゥーを捕獲しようとする怖い警察官もいる。毎回ピンチに陥るローヒトをジャードゥーが救ったり、今度はジャードゥーをローヒトが救ったり。これはこれでなかなか面白そうだ。

 「ターミネーター3」(2003年)で地の底に落ちたハリウッドのSF映画界。ヒンディー語映画には「Koi… Mil Gaya」という傑作があるぞ!さあ、かかって来い、という感じだ。でも「Koi… Mil Gaya」の大ヒットを受けて二番煎じ的にSF映画を作るとボロが出そうだから気をつけてほしい、ヒンディー語映画界の制作者たちよ・・・。