Chura Liyaa Hai Tumne

3.0

 2003年3月21日、久々に期待できそうなヒンディー語映画が封切られた。その名も「Chura Liyaa Hai Tumne(君が盗んだ)」。音楽がとてもかっこよくて、気に入っていた上に、ジャケットになぜか中国語が書かれていた。もしかして中国を舞台にしたインド映画だろうか?訳の分からない期待が膨らんでいた。

 主演は新人ザイド・カーンと、僕はあまり好きではないイーシャー・デーオール。個性的すぎる悪役俳優として定評のあるグルシャン・グローヴァーも出演していた。他に、ヴィジャイ・ラーズ、ラーキー・サーワントなどが出演。監督はサンギート・スィヴァン。

 ヴィジャイ(ザイド・カーン)とティナ(イーシャー・デーオール)はビーチで出会ってお互いに恋するようになった。だが突然ティナはトニーおじさんに会うためにバンコクへ発ってしまった。ヴィジャイはティナを追いかけてバンコクへ行く。

 バンコクでティナは、トニーおじさんが事故で死亡したことを知らされる。そして彼の遺品を受け取る。そんなティナを待ち受けていたのは、オーム(グルシャン・グローヴァー)、シーナー、チンガールという3人組の悪党だった。彼らは執拗にティナに「1億ルピーはどこだ?」と言い寄る。困惑するティナを助けたのは、インド大使館のディーパク・チョープラーだった。彼はティナに事件の真相を伝える。

 実はトニーおじさんは、3年前に起こった現金輸送車襲撃事件の犯人だった。トニーおじさんはオーム、シーナー、チンガールらと共に現金輸送車を襲撃し、どさくさにまぎれて奪った1億ルピーを持って雲隠れしてしまっていたのだった。トニーおじさんが死んだ今、1億ルピーがどこにあるかを知っていそうなのはティナだけだった。ディーパク・チョープラーもティナに「1億ルピーはどこだ?」と聞く。そんなの全く知らなかったティナーは困ってしまう。

 ヴィジャイと合流したティナは、彼に全てを打ち明ける。しかしオームはティナに、ヴィジャイもオームらの仲間で、1億ルピーを狙っていると暴露する。実は3年前の事件を起こした犯人グループの中にもう1人いた。名前はマヘーシュ・ヨーギー。しかし彼は仲間に裏切られて殺害されていた。だが実際は生きながらえたということもあり得る。実はヴィジャイはマヘーシュではないのか?ティナはヴィジャイを尾行する。

 ヴィジャイがホテルのレセプションから「ヨーギー」と呼ばれているのを影から聞いたティナは、ヴィジャイに問い詰める。しかしヴィジャイは「オレはマヘーシュ・ヨーギーの弟、プラカーシュ・ヨーギーだ」と言う。兄の敵を討つためにオームらの仲間になり、1億ルピーを取り返そうとしているのだ、と語った。ティナはその言葉を信じる。

 1億ルピーはいったいどこにあるのか?ティナも在り処を知らないことを知ったオームたちは、一緒に知恵を絞って考えることになった。本当は別の誰かが隠し持っているのではないか?ヴィジャイは疑問を提起して仲間割れを誘った。疑心暗鬼渦巻くオームら悪党たちは、お互いにお互いの荷物をチェックすることになった。その過程でチンガールとシーナーが何者かに殺害される。

 実はトニーおじさんは1億ルピーを200万ドルの価値のある1枚のコインに換えていたのだった。そのコインはティナが持っていた。しかし同時にマヘーシュ・ヨーギーには弟などいなかったことが、ディーパクからの連絡により判明する。もはやヴィジャイを信用することができなくなったティナは、ディーパクにそのコインを渡すことにする。ところが、ディーパクがインド大使館員というのは真っ赤な嘘で、彼こそがマヘーシュ・ヨーギーだったのだ。チンガールらを殺害したのも彼だった。ティナは一度マヘーシュにコインを渡してしまうが、土壇場でヴィジャイがマヘーシュをやっつける。最後に明かされたのは、ヴィジャイの正体はインド大使館の外交官だったというオチだった。

 久々に骨のあるお馬鹿インド映画を観てしまった気分だ。僕はこの映画をサスペンス・コメディーと分類したい。サスペンス映画にしてはあまりにストーリーがお粗末で破綻だらけだ。コメディー映画にしても、ウケを狙ったギャグのようなものは見当たらない。だが、サスペンスにしてコメディーだと思えば、けっこうそのハチャメチャぶりを楽しむことができる映画である。

 トニーおじさんがどこかに隠した1億ルピーを巡ってのサスペンス(というよりドタバタ劇)だが、まず悪役が面白すぎる。グルシャン・グローヴァー演じるボスのオームは、ヒゲの形が馬鹿っぽ過ぎて全然恐怖感が出ていない。すぐに人に油をかけて火をつけたがるチンガールも、遂に映画中で実際に人に火をつけたことはなく、ただのチンピラで終わってしまっていた。やたらセクシーな格好をしているシーナーにしても、そのセクシーさを武器に何かをする訳でもなく、大した活躍もせずに死んでしまった。この三人組のキャラクターは何かに似ている・・・そう、タイムポカンシリーズの悪役三人組だ!悪役なのにコメディーチックなのだ。しかしウケを狙っているわけではない。かと言って悪役として失格というところまで落ちぶれてもいない。悪役とコメディアンの間の微妙な境界線に位置するキャラクターだった。おかげで命を狙われているはずのティナーにも全然緊張感がなかった。というか、ティナ演じるイーシャー・デーオールの演技力のなさなのかもしれないが。

 新人ザイド・カーン演じるヴィジャイも面白いキャラだった。正体不明の謎の男なのだが、やたらと陽気で無邪気だ。ティナに恋する男ヴィジャイ⇒オームたちの仲間マヘーシュ・ヨーギー(?)⇒マヘーシュ・ヨーギーの弟プラカーシュ・ヨーギー⇒いったい何者?⇒実はインド大使館員、と彼の名前は次々に変わっていき、正体がばれるごとに「今度はいったい何て言い訳するのか」と笑いが漏れたほどだ。この謎ぶりと性格の明るさは、日本の少女漫画に出てくる、主人公が恋する男の子のキャラクターに似ている・・・かもしれない。

 ザイド・カーンは俳優サンジャイ・カーンの息子である。サンジャイ・カーンの娘スザンヌ・カーンはリティク・ローシャンと結婚したことで有名である。だからザイド・カーンとリティク・ローシャンは義理の兄弟ということになる。ザイド・カーンの顔はいかにも今時の若者という感じの甘いマスクで、もし日本で有名になったら「インドのキムタク」と紹介されそうなぐらいだ。90年代のヒンディー語映画界では、シャールク・カーン、サルマーン・カーン、アーミル・カーンなどカーン姓を持つ男優たちが大活躍したが、このザイド・カーンも新たなカーンとして注目されている。だが、この映画がリティク・ローシャンのデビュー作「Kaho Na… Pyaar Hai」(2000年)ほどヒットすることはないだろう。

 舞台はタイの首都バンコクだった。ほぼ全体に渡ってバンコクで撮影されており、なかなか目新しい雰囲気だった。バンコクのスカイトレインが登場したり、デリーより遥かに発展したバンコクのショッピングモールが惜しげもなくロケに使用されたりと、見ていて楽しかった。僕はもう3年以上バンコクへ行っていないので、どこがどこだかあまり分からなかったが、多分バンコクに足繁く通っている人なら、ロケ地を特定できたはずだ。なんとパッポン通りのゴーゴーバーまで出て来た。かなり際どい衣装を着て踊る女の子たちが「背景として」登場していた。この映画は全年齢対象のはずだったが、ゴーゴーバーなんて映しちゃってよかったのだろうか・・・?

 映画中、数人のタイ人が脇役として登場してセリフをしゃべったが、彼らは一応タイ語を話していた。「サワディー」や「コプクン」ぐらいは聞き取れた。最後のエンドロールにもタイ人の名前が見えたので、バンコク・ロケでタイ人がスタッフとして参加していたはずだ。「マイペンライ」の国で「コーイー・バート・ナヒーン」の人々が映画を撮ると、どういうことが起きるのだろうか?なんとなく撮影現場を見てみたくなった。

 というわけで、映画を観る前に抱いていた「中国語がジャケットやポスターに使われているから中国関連インド映画」という期待は見事にすかされたことになった。つまりインド人にとって漢字もタイ文字も同じに見えるということか・・・。インド系文字の仲間であるタイ文字くらい認識してあげてもいいのに・・・。確かにバンコクにはチャイナタウンもあるが、映画中には全く出てこなかったからその言い訳は通用しないだろう。でもバンコク・ロケという路線は決して悪くなかったと思う。他のインド映画にはない独特のアジア的空気が漂っていた。

 ストーリーはどう考えても辻褄が合わない箇所がいくつかあったが、お馬鹿インド映画ということでいちいち荒さがしするのはやめておく。大味で変な映画だったが、なぜか見終わった後の感情は悪くなかった。キワモノ映画好きの人や、バンコク好きの人にオススメの映画、と言っておこう。