Mango Souffle

3.0
Mango Souffle
「Mango Souffle」

 個人的にインド映画界の2002年はヒングリッシュ映画躍進の年だったと評価しているが、2003年になってもヒングリッシュ映画の勢いは止まりそうにない。今日は2003年2月28日に封切られたヒングリッシュ映画「Mango Souffle」を見に行った。デリーではPVRアヌパム4のみ上映されており、しかも午後11時からの回のみという風変わりな公開の仕方である。上映される映画館が少ない映画は普通駄作であることが多いのだが、この映画に限っては少し違うものを感じたので見に行くことにした。なにしろ同性愛が主題の映画である。きっとお忍びで映画を観に来るゲイやレズのカップルに配慮しての公開なのだろう。僕もお忍びで夜11時にPVRアヌパム4へ行った。

 監督はマヘーシュ・ダッターニー。主な出演俳優はアトゥル・クルカルニー、リンキー・カンナー、アンクル・ヴィカル、フェアドゥーン・ドードー・ブジワーラー、ヒーバー・シャー、デンジル・スミス、サンジト・ベーディー、メヘムード・ファールーキー。「Mango Souffle」は舞台劇用の脚本をもとに映画化された映画のようで、俳優たちも舞台俳優っぽい濃い顔の人が多い。この中でアトゥル・クルカルニーは一般のインド映画にもよく出演しており、僕の好きなベテラン俳優でもある。

 舞台は緑豊かな庭園都市バンガロール。ある日有名なデザイナーで自他共に認めるゲイのカムレーシュ(アンクル・ヴィカル)は友人たちをマンゴーの木生い茂る自宅へ招いた。そこへやって来たのはカムレーシュの元恋人(もちろん男の)シャラド(フェアドゥーン・ドードー・ブジワーラー)、カムレーシュの親友(こちらは女)ディーパリー(ヒーバー・シャー)、イギリス帰りのインド嫌いな偏屈な男ランジート(デンジル・スミス)、そして有名な映画スターのバニー(サンジト・ベーディー)である。突然呼ばれたことに驚く友人たちを前に、カムレーシュは妹のキラン(リンキー・カンナー)が結婚すること、そしてバンガロールを去ってカナダへ行くことを告げる。

 ところがカムレーシュがカナダへ行くのにはある秘密があった。カムレーシュとのよりを取り戻したいシャラドはその秘密を握る一枚の写真を発見する。その写真では二人の男が裸で抱き合っていた。一人はカムレーシュ、一人は謎の男・・・。実はその男はカムレーシュの妹キランのフィアンセ、プラカーシュ(アトゥル・クルカルニー)だった。カムレーシュはシャラドと別れた後、プラカーシュと付き合っていた。しかしカムレーシュはプラカーシュにふられた上に、彼はキランと結婚することを決めてしまったのだった。カムレーシュはプラカーシュへの愛よりも、妹の幸せを尊重することにした。キランはプラカーシュがゲイであり、兄の恋人だったことを知らなかった。だが、それに耐え切れなくなったカムレーシュはバンガロールを去って海外へ行くことを決めたのだった。カムレーシュはその秘密を友人たちに話し、誰にも言わないように約束させる。

 ところがその場にキランとプラカーシュが偶然来てしまったから話がややこしくなった。キランは兄の様子がおかしいことに気付き、どうしたのか問い詰める。しかしカムレーシュは口を開かない。シャラドは機転を利かせて、カムレーシュと自分の仲がうまくいってないから彼は困っているのだ、と言う。なぜうまくいかないか、とのさらなる問いに、シャラドはゲイをやめてストレートになることにした、と答える。ところがその態度を見てカムレーシュはシャラドに「I Love You」と告白する。それを見ていたプラカーシュが嫉妬し出してカムレーシュと2人きりになって口論をする。実はプラカーシュはまだカムレーシュのことが好きだったのだ。それを聞いてカムレーシュも激怒する。彼らが口論している間に例の写真がキランの目に届き、遂に彼女はプラカーシュがゲイであることを知る。プラカーシュは必死に弁明するがキランは許さなかった。最後にプラカーシュはカムレーシュとキランの二人に「I Love You」と告げて去って行く。カムレーシュはシャラドと仲直りし、キランも結婚から解放されてほっとする。

 先にも述べたように舞台劇を映画化したので、舞台劇っぽい映画だった。場面があまり動かず、シャレたセリフの交換でストーリーが進んでいくような展開。演技もちと大袈裟過ぎ。せっかく映画にしたんだから、もっと映画っぽい撮影の仕方をした方がよかったのでは、と感じた。俳優たちの顔は、大学の劇団のメンバーという感じ。華やかさよりも、見ていて目が疲れるほど個性が際立った顔をしている人が多い。と言うか、あんまりインド人に見えなかった。

 3人のゲイの三角関係が主題になっていたが、映画中繰り返し用いられたセリフ「他人の目を気にするな」というのがもっとも作者が観客に伝えたいメッセージだろう。カムレーシュとシャラドは自分がゲイであることをカミングアウトしていたが、プラカーシュは自分がゲイであることに戸惑っており、社会には隠していた。そのため彼の最後はあまりにも惨めである。いわば同性愛啓発映画というところだろう。

 やはりアトゥル・クルカルニーは面従腹背のような、表情と心情を別々にした演技が非常にうまい。今回はキランへのストレートな愛と、カムレーシュへの同性愛の間の葛藤をうまく表現していた。途中、プラカーシュ(アトゥル・クルカルニー)とカムレーシュ(アンクル・ヴィカル)が素っ裸でプールで泳ぐシーンがあったのだが、あれは同性愛者たちへのサービスカットだったのだろうか・・・。

 同性愛をテーマにした映画だったからか知らないが、隣の席に座っていた男の指がやたらと僕の腕を触ってきて気になった。気のせいだったらいいのだが、気のせいだと思って我慢するのが痴漢に遭ったときに一番してはいけないことだと、これまでの経験から感じているので、すぐに席を移動させてもらった。

 言語は英語が9.5割。召使いのマクサード(メヘムード・ファールーキー)と会話するときだけヒンディー語が使われていた。しかしそのヒンディー語はなんとなくカタコトだった。みんな英語はうまかったのだが・・・。

 先日見た「Freaky Chakra」(2003年)もバンガロールが舞台で、「低予算映画にバンガロールは向いているかも」と書いたが、まさにその低予算映画がコレだった。バンガロール発のヒングリッシュ映画が2作続いたか・・・。今度はデリー発のヒングリッシュ映画を期待したい。