Satta

4.0
Satta
「Satta」

 2003年2月7日から一気に4本の新作ヒンディー語映画が封切られた。インド映画ファンとしては、どれから観に行こうか嬉しい悲鳴である。今日はまず「Satta」を観に行った。

 「Satta」とは「パワー」という意味。副題は「The Game of Power」。政治家の権力闘争を描いた映画で、キャストはベテラン揃い。ラヴィーナー・タンダン、サミール・ダルマーディカーリー、ヴァッラブ・ヴャース、ゴーヴィンド・ナームデーヴ、アトゥル・クルカルニーなど。監督はマドゥル・バンダールカル。

 政治に全く関係のない生活をしていたごく普通のOLアヌラーダー(ラヴィーナー・タンダン)は、有力政治家の息子ヴィヴェーク・チャウハーン(サミール・ダルマーディカーリー)と結婚したことにより、人生が全く変わってしまった。ヴィヴェークは政治のことにしか興味のない短気な男で、家庭を顧みようとしなかった。また、彼の父親で、政界から引退したものの未だ絶大な影響力を誇るマヘーンドラ・チャウハーン(ヴァッラブ・ヴャース)は、アヌラーダーの人権をほとんど無視した高慢な態度をとっていた。

 州議会議員の選挙が間近に迫る中、アヌラーダーに転機が訪れる。彼女の夫ヴィヴェークは酔っ払って酒場で殺傷事件を起こし、留置所に入れられてしまう。マヘーンドラの選挙区からはヴィヴェークが後継者として出馬する予定だったが、それが不可能になる。そこでその妻アヌラーダーが担ぎ出されることになった。アヌラーダーはしぶしぶ承諾し、突然政治の世界に飛び込むことになる。また、アヌラーダーの相談役として、ヤシュワント・ヴァルデー(アトゥル・クルカルニー)がつくことになる。

 最初アヌラーダーは選挙運動という慣れない仕事に戸惑うが、次第に自分の主張をしっかり話せるようになる。有権者の支持も集まり、彼女は見事当選する。しかしアヌラーダーはチャウハーン一家の傀儡となるつもりはなかった。アヌラーダーは独自の路線へ走り出し、遂にチャウハーンのライバル、リヤーカト・アリー・ベーグ(ゴーヴィンド・ナームデーヴ)やヤシュワントと組んで、新しい党を作る。出所したヴィヴェークは怒り、アヌラーダーと離婚し、何とか彼らの邪魔をしようとするが、何者かに殺害される。

 この頃アヌラーダーはヤシュワントと恋仲になっており、ベッドを共にしたこともあった。しかし、最も危険な男はヤシュワントだった。彼も結局権力の虜となった男だった。州首相の座を巡ってヤシュワントとベーグはまだ醜い争いを繰り広げていた。そしてヴィヴェークを殺させたのはヤシュワントであることがアヌラーダーに知れてしまう。遂にアヌラーダーも政治家を信用することは全くできないことを悟り、一計を案じる。アヌラーダーはベーグに接近してそそのかし、ヤシュワントを殺させ、そしてその事件の真相を切り札に使ってベイグを政界から追放する。こうしてアヌラーダーは、普段から尊敬していた穏健派の老政治家アンナーを州首相に擁立する。

 政治をテーマにした映画だったので、細かい部分の言葉を理解するのに難易度は高かった。しかし政治の世界でやってることはどこでも一緒なので、分かり易い映画とも言えるかもしれない。登場人物が多かったのだが、皆個性的で、混同することは全くなかった。

 インドにおいて、一般女性から政治家に転進した例として真っ先に挙げられるのは、国民会議派のソニア・ガーンディー党首だ。イタリア生まれのソニアは、パイロットだったラージーヴ・ガーンディーと結婚する。ラージーヴは、ジャワーハルラール・ネルーやインディラー・ガーンディーの血統であったが、弟のサンジャイが政治家になっていたため、当初政界とは離れていた。だが、サンジャイが事故死したことで、ラージーヴが首相候補として担ぎ出され、政治家となる。そのラージーヴが暗殺され、ソニアが国民会議派の党首となる。数奇な人生を歩む女性である。また、ビハール州の豪腕政治家ラールー・プラサード・ヤーダヴの妻ラブリー・デーヴィーも、主婦だったのだが、夫が収監されたことで州首相に担ぎ出された。このように、インドでは一般女性が政界入りする例がいくつかある。

 ソニア・ガーンディーが強力な政治家に成長したように、偶然政界入りしたアヌラーダーも人気の政治家となった。その後、彼女は政界の汚ない権力闘争を否応なしに見せ付けられ、最初は嫌悪感を抱き、その嫌悪感はずっと続くのだが、最後に彼女は使命感に目覚め、政界の毒蛇たちを一掃する。その方法は「毒をもって毒を制す」やり方であった。

 ラヴィーナー・タンダンは、普通の女性の姿と、毅然とした政治家の姿をうまく演じ分けていた。特にうまいと思ったのは、義父のマヘーンドラから「ヴィヴェークの代わりに立候補してくれないか」と頼まれたときの表情。しかしラヴィーナーももう老けてしまっているので、あまり未婚の役が似合わなくなって来た。

 脇役陣は曲者俳優ばかり。個人的に好きなのはヤシュワントを演じたアトゥル・クルカルニーである。彼は「一見善人そうだけど、その人当たりのいい笑顔の裏に悪魔が潜んでいる」という役がすごいうまい。今回も最初は善人っぽい役だったのだが、後半で実は悪人であったことが分かる。「Dum」(2003年)の悪徳警官役もまだ印象に残っている。

 総合的になかなかよく出来た映画だと思った。僕は最近ヒングリッシュ映画に目を奪われていたが、ヒンディー語でも既存のインド映画の枠をはみ出た、良質の映画が作られ始めている。2003年は言語にこだわらず、ヒングリッシュ映画よりももっと大きな視点でインド映画を観ていかないといけなくなるかもしれない。


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