Jism

3.0

 ヒンディー語映画界にとって2002年は興行収入最悪の年として歴史に名を刻むだろうが、年末から急にインド映画界が再び急上昇を始めたような気がする。2002年12月20日に同時公開された「Saathiya」と「Kaante」はヒットを続けており、特に「Saathiya」はロングランしそうな雰囲気。そして今日(2003年1月17日)、再びロングラン濃厚な2作品が公開され始めた。アイシュワリヤー・ラーイとアルジュン・ラームパール主演の「Dil Ka Rishta」(2003年)と、ビパーシャー・バス主演の「Jism」である。今日は「Jism」を観にラージパト・ナガルの3C’sへ行った。

 主演女優のビパーシャー・バスといえば現在のインド映画界のセックスシンボル的存在である。「Jism」とは「体」という意味。映画のポスターも、ビパーシャー・バスの艶かしい容姿を前面に押し出しており、期待を煽る。彼女の他に、ジョン・アブラハム、グルシャン・グローヴァー、ランヴィール・シャウリー、ヴィナイ・パータクなどが出演していた。監督はアミト・サクセーナー。

 舞台はタミル・ナードゥ州ポンディチェリー。女好きで飲んだ暮れの不良弁護士カビール(ジョン・アブラハム)は、ある日美しい人妻ソニア(ビパーシャー・バス)と出会う。ソニアは敏腕実業家ローヒト・カンナー(グルシャン・グローヴァー)の妻だったが、夫は週末に時々やって来るだけで、残りの日は一人で寂しく暮らしていた。カビールはソニアを口説き、二人は肉体関係を持つようになる。

  愛に狂ったカビールとソニアは、その内ローヒトを殺害する計画を立て始める。カビールはローヒトを殺し、死体を爆弾で爆破、事故にみせかける。カビールはちゃんとアリバイも作っておき、計画は完璧のはずだった。ところがローヒトの家に弁護士から電話がかかってくるのだった。なんとローヒトが書いた遺産分配の遺書に、カビールの名前が記載されていたのだ。ソニアが勝手に書き換えたものだった。カビールは事件の渦中に巻き込まれ、やがてローヒトは事故で死んだのではなく、殺されたのだということが警察にも分かってくる。

  アリバイも手抜きがあったため通用せず、次第に追い詰められてきたカビールは、ソニアと共にどこかへ逃げ出すことを考える。しかし待ち合わせ場所に現れたのはソニアが放った刺客だった。カビールは間一髪で刺客の攻撃をかわし、ソニアの家へ殴りこむ。全てはローヒトの遺産欲しさに巧妙に計画された、ソニアの罠だったのだ。

  しかしカビールはソニアを心底愛していた。憎悪と共にソニアの家に乗り込んだカビールだったが、ソニアの姿を見るとその憎悪は消え、ただ愛情だけが心を支配した。カビールは警察に自首することを決め、その場を立ち去ろうとする。すると突然、振り向いたカビールをソニアは銃で撃った。カビールは重傷を負いながらもソニアの銃を奪って彼女を殺し、そのまま海岸に出て倒れ込む。そして親友に看取られながら、最後の日の出を見ながら静かに息を引き取った。

 元フランスの植民地である、タミル・ナードゥ州のポンディチェリーが舞台になっており、全体としてフランス映画に似た洒落た雰囲気の漂う映画だった。ポンディチェリーでは今でもフランス語が話されており、映画中でも「ヴォンジュール」と挨拶しているシーンを見ることができた。しかしヒンディー語映画であるため、基本的な言語はヒンディー語である。

 ストーリーはどこかで見たことあるようなものだった。僕にはカビールとソニアがローヒト殺害計画を立てている時点から、ソニアがカビールを罠にはめようとしていることが予想できた。しかし物語を深くしているのは、ソニアが本当にカビールを愛していたのかどうかを曖昧のままにして終わったことである。カビールを銃で撃つ前、彼女はカビールへの愛を、愛ではなく「体の欲求」と言い切っていたが、カビールを撃った後、「あなたを本当に愛していたの」と涙目で語った。多分普通のインド人からしたら「いったいどっちなんだ、白黒はっきりさせろ」というところだろうが、こういう曖昧な終わり方は僕は個人的に好きである。

 セクシー女優ビパーシャー・バスは今回もセックスシンボルとして存分に魅せつけてくれた。セリフのしゃべり方がなんとなく舞台演劇っぽいのだが、知的でセクシーな女性を演じればそれも不自然ではない。聞くところによると彼女はベンガル人なので、ヒンディー語があまり得意ではないようだ。彼女の演技力云々を問うよりも、むしろ彼女は演技をしない演技をした方がいい。あまりアクションを大袈裟にせず、セリフもあまりしゃべらず、目だけでグッと語りかけるような佇まいをさせたときに、彼女の魅力がもっとも発揮される。クライマックスで、怒り狂って家に乗り込んでくるカビールを待つときの彼女の表情は美しい。

 主演男優のジョン・アブラハムは今回がデビュー作。アルジュン・ラームパールやビパーシャー・バスと同じくモデル出身の俳優である。だんだんモデル出身俳優の派閥がヒンディー語映画界でできつつあるような気がする。モデル出身だけあってジョン・アブラヒムはワイルドかつ洗練されたかっこよさがあり、新時代のヒンディー語映画俳優という感じがした。演技もなかなかだった。ちなみに彼の名前はインド人っぽくないが、それは彼がシリア派キリスト教徒の父を持つからである。母親はパールスィー(ゾロアスター教徒)だ。